クリスティー、カーに影響を与えた、トリック創作率No.1の作家
イギリスの作家で、シャーロック・ホームズのライヴァルとして有名な〈ブラウン神父〉シリーズの生みの親として有名です。また推理小説家としてだけでなく様々な分野で活躍した人物で、イギリスでも有数の文芸評論家であり、〈デイリー・ニューズ〉紙などでジャーナリストとしても活躍し、詩人・画家でもありました。
ロンドンの西郊外ケンジントンで不動産業や土地測量を営む家に生まれ、1887年にセントポール校に入学。この時後に同じく推理小説家として名を馳せるE・C・ベントリーと知り合い生涯の友となります。
ちなみにチェスタトンの長編ミステリーの一つ「木曜の男」はこの親友ベントリーに捧げられた作品であり、他方そのお返しにベントリーは黄金時代の名作として名高い「トレント最後の事件」をチェスタトンに捧げています。
最初は美術を志し、ロンドン大学付属のスレイド美術学校に進むも上手くいかず、やがて文学を志すようになっていったといいます。その一方で政治・社会評論家としても頭角を現し、警句と逆説を駆使した批評・評論でイギリス社会や政治を時には厳しく糾弾したりもしています。
ブラウン神父譚はこのチェスタトン独特の逆説と警句が小説の中に如何なく活かされた作品であり、コナン・ドイルの〈シャーロック・ホームズ〉譚と双璧をなす短編傑作集と評されています。
どちらかというとエキセントリックな超人探偵の活躍を描くことが多いこの時代の作品の中ではトリックを中心としたもっとも本格度の高い作風をもつ作家で、またトリック創作率ではこの時代の作家の中では群を抜いており、後世の作家たちにも多大な影響を与えています。
具体例を挙げれば黄金時代の代表的作家であるミステリーの女王アガサ・クリスティーや不可能犯罪の巨匠ジョン・ディクスン・カーもこのチェスタトン作品の愛読者だったといわれています。
〈ブラウン神父〉譚はこのようにトリックの教科書的な意味合いを持ち、これから本格ミステリを書きたいと思っている方にとっては必読の書といえるでしょう。
ミステリの分野では作家活動以外でも、1928年にアントニイ・バークリーらが中心となって結成されたミステリ作家の親睦団体〈ディテクション・クラブ〉にも参加し、その初代会長を務めています。
余談ですが、チェスタトンは大変体が大きかったそうで、バスで席を譲ったら3人座れたという話も残っています。 また、その風貌はディクスン・カーの生んだ名探偵ギデオン・フェル博士のモデルになったとも言われています。
No. | 事件名 | 発表年 | 邦訳 | 備考 |
1 | 新ナポレオン奇譚 | 1904 | ちくま文庫('10) 春秋社 チェスタトンの1984年('84) 春秋社 G.K.チェスタトン著作集10('78) |
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2 | 木曜の男 (木曜日だった男 一つの悪夢) (木曜日の男) (木曜日の人) |
1908 | 創元推理文庫110-6 光文社古典新訳文庫('08) HPB168 東都書房 世界推理小説大系10('63) 東京創元社 世界推理小説全集5('56) 早川書房 世界傑作探偵小説シリーズ6('51) 金剛社 怪奇探偵叢書('26) |
E・C・ベントリーに捧げられた作品 EQアンケート92位 |
3 | The Ball and the Cross | 1910 | - | |
4 | Manalive マンアライヴ |
1912 | 論創社 論創海外ミステリ54('06) | |
5 | The Flying Inn | 1914 | - | |
6 | The Return of Don Quixote | 1927 | - |
No. | 事件名 | 発表年 | 邦訳 | 備考 |
1 | 漂う提督 | 1931 | 早川文庫73-1 HMM'80.7-9 |
No. | 事件名 | 発表年 | 邦訳 | 備考 | |
1 | 奇商クラブ (奇商倶楽部) |
1905 | 創元推理文庫110-7 東京創元社 世界推理小説全集55('58) 新青年'31新春増刊(抄訳?) |
バジル・グラントもの 創元推理文庫版は他2中編所収 |
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1 |
ブラウン少佐の大冒険 |
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2 | 痛ましき名声の失墜 | ||||
3 | 牧師はなぜ訪問したか | ||||
4 | 家屋周旋業者の珍種目 | ||||
5 | チャッド教授の奇行 | ||||
6 | 老婦人軟禁事件 | ||||
2 | 知りすぎた男 ─ホーン・フィッシャーの事件簿 |
1922 | 論創社 論創海外ミステリ81('08) | 邦訳は11・12を除く全10編 | |
1 | 標的の顔 | HMM'86.12 | ホーン・フィッシャーもの | ||
2 | 消えたプリンス (消えるプリンス) |
1920 | HMM'86.12 | ホーン・フィッシャーもの | |
3 | 少年の心 | ホーン・フィッシャーもの | |||
4 | 底なしの井戸 | 1921 | ホーン・フィッシャーもの | ||
5 | 塀の穴 | ホーン・フィッシャーもの | |||
6 | 釣り人のこだわり | ホーン・フィッシャーもの | |||
7 | 一家の馬鹿息子 | ホーン・フィッシャーもの | |||
8 | 像の復讐 | ホーン・フィッシャーもの | |||
9 | 煙の庭 (煙りの園) |
1919 | 宝石'57.11 新青年'29新春増刊 |
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10 | 剣の五 (スペードの揃い札) |
ユリイカ'89.7 | |||
11 | 背信の塔 | 創元推理文庫110-7「奇商クラブ」 | |||
12 | 驕りの樹 (孔雀の樹) |
創元推理文庫110-7「奇商クラブ」 別冊宝石53('56) 春陽堂 探偵小説全集11「生ける寶冠 孔雀の樹」('30) 新青年'26新春増刊 |
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3 | 法螺吹き友の会 | 1925 | 論創社 論創海外ミステリ99('12) | ||
1 | クレイン大佐のみっともない見た目 | ||||
2 | オーウェン・フッド氏の信じがたい成功 | ||||
3 | ピアース大尉の控えめな道行き | ||||
4 | ホワイト牧師の捉えどころなき相棒 | ||||
5 | イノック・オーツだけのぜいたく品 | ||||
6 | グリーン教授の考えもつかぬ理論 | ||||
7 | ブレア司令官の比べる物なき建物 | ||||
8 | 〈法螺吹き友の会〉の究極的根本原理 | ||||
4 | The Sword of Wood | 1928 | - | ||
5 | 詩人と狂人たち (詩人と狂人達) |
1929 | 創元推理文庫110-8 東京創元社 世界推理小説全集32('57) 国書刊行会 世界幻想文学大系12('84) |
ガブリエル・ゲイル EQアンケート40位 |
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1 | おかしな二人連れ | ||||
2 | 黄色い鳥 | ||||
3 | 鱶(ふか)の影 | ||||
4 | ガブリエル・ゲイルの犯罪 | ||||
5 | 石の指 | ||||
6 | 孔雀の家 | ||||
7 | 紫の宝石 | ||||
8 | 危険な収容所 | ||||
6 | 四人の申し分なき重罪人 | 1930 | ちくま文庫('10) 国書刊行会 ミステリーの本棚5('01) |
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1 | 穏和な殺人者 | ||||
2 | 頼もしい藪医者 | ||||
3 | 不注意な泥棒 | ||||
4 | 忠義な反逆者 | ||||
7 | ポンド氏の逆説 | 1937 | 創元推理文庫110-9 東京創元社 世界推理小説全集56('59) |
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1 |
三人の騎士 |
国書刊行会 バベルの図書館1「アポロンの眼」('88) 筑摩書房 ちくま文学の森「ことばの探偵」('88) |
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2 | ガーガン大尉の犯罪 | ||||
3 | 博士の意見が一致すると… | ||||
4 | 道化師ポンド | ||||
5 | 名ざせない名前 | ||||
6 | 愛の指輪 | ||||
7 | 恐るべきロメオ | ||||
8 | 目だたないのっぽ (めだたないノッポ) (丈の高い話) |
講談社文庫「世界スパイ小説傑作選1」('78) 新青年'36夏季増刊 |
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8 | Daylight and Nightmare | 1986 | - | 初収録作数編含むアンソロジー、マリー・スミス編 | |
1 | The Angry Street: A Bad Dream 怒りの歩道―悪夢 |
1908 | 筑摩書房 英国短篇小説の愉しみ2「小さな吹雪の国の冒険」('99) | ||
2 | Chivalry Begins at Home | 1925 | |||
3 | Concerning Grocers as Gods | ||||
4 | The Conversion of an Anarchist | 1919 | |||
5 | A Crazy Tale | 1897 | |||
6 | Culture and the Light | 1927 | |||
7 | The Curious Englishman | 1907 | |||
8 | The Dragon at Hide-and-Seek 竜とカクレンボ |
1924 | 早川文庫 FT28 ファンタジイ傑作集2「ビバ!ドラゴン」('81) | ||
9 | Dukes | 1909 | |||
10 | The End of Wisdom | 1931 | |||
11 | A Fish Story | 1925 | |||
12 | The Giant | 1908 | |||
13 | The Great Amalgamation | 1927 | |||
14 | Homesick at Home | 1896 | |||
15 | How I Found the Superman | 1908 | |||
16 | A Legend of Saint Francis | 1926 | |||
17 | The Legend of the Sword | 1928 | |||
18 | The Long Bow | 1908 | |||
19 | A Nightmare | 1907 | |||
20 | On Private Property | 1927 | |||
21 | On Secular Education | 1928 | |||
22 | The Paradise of Human Fishes | 1925 | |||
23 | Picture of Tuesday | 1896 | |||
24 | A Real Discovery | 1925 | |||
25 | The Roots of the World | 1907 | |||
26 | The Second Miracle | 1927 | |||
27 | The Sword of Wood | 1913 | |||
28 | The Taming of the Nightmare | 1892 | |||
29 | The Three Dogs | 1928 | |||
30 | 驕りの樹 (孔雀の樹) |
創元推理文庫110-7「奇商クラブ」 別冊宝石53('56) 春陽堂 探偵小説全集11「生ける寶冠 孔雀の樹」('30) 新青年'26新春増刊 |
再収録 | ||
31 | The Two Taverns | 1926 | |||
9 | Thirteen Detectives | 1987 | - | マリー・スミス編のアンソロジー | |
1 | 白柱荘の殺人 | 1925 | 論創社 論創海外ミステリ99「法螺吹き友の会」('12) EQMM'57.8 |
No. | 事件名 | 発表年 | 邦訳 | 備考 |
1 | キツネを撃った男 | 1921 | 論創社 論創海外ミステリ99「法螺吹き友の会」('12) | |
2 | 奇怪なる肖像画 | 新青年'29夏季増刊 | 原題不明 | |
3 | アーサー卿の失踪 | 新青年'33.5 | ||
4 | 怪奇雨男 | 新青年'38新春増刊 | ||
5 | 赤勝て青勝て | 新青年'39特別増刊 | ||
6 | 離亭殺人事件 | 新青年'39夏季増刊 |
No. | 事件名 | 発表年 | 邦訳 | 備考 |
1 | 探偵小説の世紀/上 | 1935 | 創元推理文庫110-10 | |
探偵小説の世紀/下 | 創元推理文庫110-11 |
No. | 事件名 | 発表年 | 邦訳 | 備考 |
1 | Charles Dickens チャールズ・ディケンズ |
1906 | 春秋社 G・K・チェスタトン著作集 評伝篇2('92) | |
2 | George Bernard Shaw ジョージ・バーナード・ショー |
1909 | 春秋社 G・K・チェスタトン著作集 評伝篇4('91) | |
3 | William Blake ウイリアム・ブレイク ロバート・ブラウニング |
1910 | 春秋社 G・K・チェスタトン著作集 評伝篇3('91) | |
4 | Robert Louis Stevenson ロバート・ルイス・スティーヴンソン |
1927 | 春秋社 G・K・チェスタトン著作集 評伝篇5('91) | |
5 | Chaucer チョーサー |
1932 | 春秋社 G・K・チェスタトン著作集 評伝篇1('95) |
No. | 事件名 | 発表年 | 邦訳 | 備考 |
1 | A Defence of Detective Stories 探偵小説を弁護する |
1901 |
成甲書房「ミステリの美学」('03) |
No. | 事件名 | 発表年 | 邦訳 | 備考 |
1 | Heretics 異端者の群れ |
1905 | 春秋社 G.K.チェスタトン著作集5('90) | |
2 | Orthodoxy 正統とは何か |
1909 | 春秋社(新装版)('95) 春秋社 G.K.チェスタトン著作集1('90) |
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3 | Tremendous Trifles 棒大なる針小 |
春秋社(新装版)('99) 春秋社 G.K.チェスタトン著作集4('88) |
文学論・随筆集 | |
4 | The Victorian Age in Literature ヴィクトリア朝の英文学 |
1913 | 春秋社 G.K.チェスタトン著作集8('79) | |
5 | St. Francis of Assisi 久遠の聖者 |
1923 | 春秋社 G.K.チェスタトン著作集6('89) | |
6 | The Everlasting Man 人間と永遠 |
1925 | 春秋社 G.K.チェスタトン著作集2('89) | |
7 | The Outline of Sanity 正気と狂気の間 |
1926 | 春秋社(新装版)('99) 春秋社 G.K.チェスタトン著作集9('77) |
社会・政治論 |
8 | The Resurrection of Rome ローマの復活 |
1929 | 春秋社 G.K.チェスタトン著作集7('77) | |
9 | Autobiography 自叙伝 |
1936 | 春秋社(新装版)('99) 春秋社 G.K.チェスタトン著作集3('88) |
評論風自伝 |
10 | The Coloured Lands 色とりどりの国 |
1938 | 教文館('87) 講談社文庫 イギリスファンタジー童話傑作選「銀色の時」('86) |
青年期の精神の遍歴、時代相を綴ったもの |
11 | 老爺戯作集 | 渓水社('97) | 詩とスケッチ | |
12 | 求む、有能でないひと | 国書刊行会('04) | 時事コラム |
【参考】「木曜の男」(東京創元社 創元推理文庫)