倒叙型推理小説の創始者
イギリスの小説家で、シャーロック・ホームズの最も重要なライヴァルにして、科学探偵ソーンダイク博士の生みの親として知られています。
ロンドンの洋服の仕立て屋の息子として生まれますが、家業を継ぐことを嫌い、医師を志してミドルセックス病院付属医科大学で6年間学んだ後医師の資格を取得します。1887年にはイギリス植民地付医師補として西アフリカに4年間赴任して伝染病対策にあたりますが、黒水病にかかり本国へ送還。
その後も医師としてしばらく勤務しますが、健康への不安から医師の激務に耐えられないことや、1898年に書いた海外勤務の体験記を出版したことなどから物書きとして生計を立てることを決意。小説家としてのデビュー作は怪盗ロムニー・プリングルという犯罪者を主人公とする怪盗小説で、友人だった医師と合作でクリフォード・アッシュダウンの筆名で刊行しています。
その後1907年には当時大変な人気を博していたシャーロック・ホームズに触発され、科学者探偵ソーンダイク博士を創造し、オースチン・フリーマン名義で長編「赤い拇指紋」を発表しますが、これが大好評。
翌1908年からは〈ピアスンズ・マガジン〉紙に短編連載もスタートさせて更なるブームを巻き起こし、ホームズのライヴァルとしてその地位を確たるものとしました。
この点フリーマンはイギリスではアガサ・クリスティー、ドロシー・L・セイヤーズ、H・C・ベイリー、F・W・クロフツと並び5大作家の一人にも位置づけられている作家です。 そしてそれだけではなく、様々な意味でミステリの世界では重要な活躍をしました。
まず、指紋が捜査活動に活用されるようになったのは1901年からだそうですが、警察が思いつくはるか以前に指紋偽造の可能性を立証し、こういった指紋も絶対的な証拠ではないとその危険性を主張していたといいます。
そして現代では刑事コロンボや古畑任三郎でわが国でもお馴染みである、「[1]
まず犯行の詳細が物語られ、[2] それを名探偵がいかに解明していくかが綴られる」というタイプの小説、いわゆる〈倒叙型〉の推理小説の発明者でもあります。
これについてはソーンダイク譚の第2短編集「歌う白骨」(1912年)に収められている中編「オスカー・プロズキー事件」がその最初の作品とされています。
フリーマンは、トリックが思い浮かぶと友人とともに実験し、写真を撮ったりしながら一つ一つの作品を作っていったそうです。
フリーマンの作品がリアリティに溢れ読者を納得させる内容を伴っていたのはこういった日々のたゆまぬ努力の賜物といえるのではないでしょうか。
ソーンダイク譚はフリーマンが80歳を過ぎた頃まで書き続けられ、全部で21の長編と約40の短編がありますが、未訳のものも多く邦訳が待たれる所です。
No. | 事件名 | 発表年 | 邦訳 | 備考 |
1 | The Surprising Experiences of Mr. Shuttlebury Cobb | 1927 | - | シャトルベリー・コッブ |
2 | The Queen's Treasure | 1975 | - | C・アッシュダウン名義 未発表長編の単行本化 |
No. | 事件名 | 発表年 | 邦訳 | 備考 | |
1 | A Savant's Vendetta (米 The Uttermost Farthing) |
1914 | - | ハンフリー・チャロナー教授 英版は1920年刊行 |
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1 | The Motive Force | - | |||
2 | Number One | - | |||
3 | The Housemaid's Followers | - | |||
4 | The Gifts of Chance | - | |||
5 | By-Products of Industry | - | |||
6 | The Trail of the Serpent | - | |||
7 | The Uttermost Farthing | - | |||
2 | The Exploits of Danby Croker, Being Extracts from a Somewhat Disreputable Autobiography | 1916 | - | ダンビー・クローカー | |
1 | The Changeling | - | |||
2 | The Prison-Breaker | - | |||
3 | 真鍮の蛇 (青銅の蛇) |
創元推理文庫104-29「完全犯罪大百科/下」('80) HMM'77.7 |
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4 | The Constable's Helpmate | - | |||
5 | A Votive Candle | - | |||
6 | The Emperor's Keepsake | - | |||
7 | Woman and Superwoman | - | |||
8 | The Good Samaritan | - | |||
9 | The 'Prison Joseph' | - | |||
10 | Perter Mockett's Legacy | - | |||
11 | Aunt Jemima | - | |||
12 | The Heavenly Twins | - | |||
13 | Susannah's Dowry | - | |||
3 | Flighty Phyllis | 1928 | - | フィリス・ダドリー | |
1 | The Understudy | - | |||
2 | The Minotaur | - | |||
3 | Mr. Shylock | - | |||
4 | A Variety Entertainment | - | |||
5 | A Double Capture | - | |||
6 | Storm and Sunshine | - | |||
7 | Love and a Graven Image | - | |||
4 | The Dead Hand and other uncollected stories | 1999 | - | ソーンダイク博士もの1編所収 |
No. | 事件名 | 発表年 | 邦訳 | 備考 | |
1 | From a Surgeon's Diary | 1975 | - | 1904~05年雑誌掲載作品の復刻 | |
1 | The Adventure at Heath Crest | - | |||
2 | How I Acted for an Invalid Doctor | - | |||
3 | How I Attended a Nervous Patient | - | |||
4 | How I Met a Very Ignorant Practitioner | - | |||
5 | How I Cured a Hopeless Paralytic | - | |||
6 | How I Helped to Lay a Ghost | - |
No. | 事件名 | 発表年 | 邦訳 | 備考 |
1 | 棺桶舟 | 新青年'26.3 | 原題不明 | |
2 | 黄金の瓶 |
No. | 事件名 | 発表年 | 邦訳 | 備考 |
1 | Travels and Life in Ashanti and Jaman (アシャンティとジャマンの紀行と生活) |
1898 | - | 処女出版 西アフリカでの病院勤務の体験記 |
2 | The Golden Pool: A Story of a Forgotten Mine | 1905 | - | |
3 | The Unwilling Adventurer | 1913 | - | |
4 | Social Decay and Regeneration | 1921 | - |
No. | 事件名 | 発表年 | 邦訳 | 備考 |
1 | 探偵小説の技法 | 1924 | 成甲書房「ミステリの美学」('03) パシフィカ 名探偵読本5「シャーロック・ホームズのライヴァルたち」('79) 研究者出版「探偵小説の詩学」('76) |
評論 |
2 | ソーンダイク博士をご紹介 | パシフィカ 名探偵読本5「シャーロック・ホームズのライヴァルたち」('79) | エッセイ |
【参考】「ソーンダイク博士の事件簿 I & II 」(東京創元社 創元推理文庫)
「ポッターマック氏の失策」(論創社 論創海外ミステリ)