時代の最先端を行く、推理小説界の〈クセ者〉
イギリスの小説家で本格黄金時代を代表する作家の一人。 従来の推理小説に対する批判を織り交ぜながらも、推理小説の真の面白さを追求するために様々な試行錯誤を繰り返した異色の作家です。
経歴の方は盲人探偵マックス・カラドスの生みの親であるアーネスト・ブラマなどと同様、バークリー自身あまり語りたがらなかったそうで詳しい経歴は分かっていないようですが、ハートフォードシャー州に生まれロンドンで大学に通い、第一次世界大戦の際にはフランス戦線に参加し負傷経験があること、このことが彼の生み出した探偵ロジャー・シェリンガムに投影されていることぐらいです。
彼の作品はバークリー名義だけでなく、フランシス・アイルズ、A・B・コックス、モンマス・プラッツなどの数多くの名義を用いて発表されています。
彼の作風は元々はユーモア雑誌として有名な〈パンチ〉に小説を寄稿してユーモア作家として活躍していただけのことはあって、独特の皮肉・批評精神とそれに裏打ちされたユーモア精神に溢れています。
また本格推理の分野だけでなく、「殺意」などの代表作があるフランシス・アイルズ名義では犯罪者を主人公に据え、その犯罪の過程や犯行後の追いつめられていく心理をリアルに描き出す、いわゆる〈犯罪心理小説〉の分野でも新境地を拓いたり、ドロシー・L・セイヤーズらとともに推理小説作家の親睦団体としての〈ディテクション・クラブ〉設立の中心的役割を担ったりと、常に時代の先を行く先駆者としての役割を果たしました。
近年、「第二の銃声」が国書刊行会の世界探偵小説全集の一冊として新訳されたのを皮切りに、この世界探偵小説全集と晶文社ミステリー・シリーズなどを中心として長編が次々と邦訳されていますが、残りの作品も邦訳されるのが待ち遠しく思えます。
No. | 事件名 | 発表年 | 邦訳 | 備考 |
1 | 殺意 | 1931 | 創元推理文庫124-1 角川文庫 東都書房 世界推理小説大系18('62) 東京創元社 世界推理小説全集20('56) 日本出版協同 異色探偵小説選集3('53) |
TVドラマ化('79) TVドラマ化('05) 倒叙三大名作の一つ 乱歩の1935年以降の長編ベスト10・1位 |
2 | レディに捧げる殺人物語 (犯行以前) (断崖) (リナの肖像) |
1932 | 創元推理文庫124-2 HPB112 三笠書房(新装版)('78) 三笠書房('76) |
映画化「断崖」('41) TVドラマ化('55) TVドラマ化「サスピション/断崖の恐怖」('87) |
3 | 被告の女性に関しては | 1939 | 晶文社 晶文社ミステリ('02) |
No. | 事件名 | 発表年 | 邦訳 | 備考 |
1 | Excerpt | 1932 | - | |
2 | Outside the Law 無法地帯 |
1934 | 別冊クイーンズマガジン'59秋 | |
3 | 暗い旅路 (暗い旅立ち) |
1935 | 早川書房「復刻エラリイ・クイーンズ・ミステリ・マガジン No.1-3」('95) 朝日ソノラマ文庫「13人の鬼あそび」('85) EQMM'56.9 |
|
4 | It Takes Two to Make a Hero | 1943 | - | |
5 | The Coward 臆病者 |
1953 | HMM86.3 |
No. | 事件名 | 発表年 | 邦訳 | 備考 |
1 | The Family Witch | 1926 | - | A・B・コックス名義 ユーモア・ファンタジー |
2 | The Professor on Paws | - | A・B・コックス名義 ユーモアSF |
|
3 | プリーストリー氏の問題 | 1927 | 晶文社 晶文社ミステリ('04) | A・B・コックス名義 |
4 | シシリーは消えた | 原書房 ヴィンテージ・ミステリー・シリーズ('05) | A・モンマス・プラッツ名義 邦訳はバークリー名義 |
|
5 | Not to Be Taken (米 A Puzzule in Poison) |
1938 | - | |
6 | Death in the House | 1939 | - |
No. | 事件名 | 発表年 | 邦訳 | 備考 |
1 | Brenda Entertains | 1925 | - | A・B・コックス名義 最初期のユーモア短編集 |
No. | 事件名 | 発表年 | 邦訳 | 備考 |
1 | 屏風のかげに | 1930 | 中央公論社「ザ・スクープ」('83) | |
2 | 漂う提督 | 1931 | 早川文庫73-1 HMM'80.7-9 |
|
3 | ザ・スクープ | 1933 | 中央公論社('83) | |
4 | 警察官に聞け | 早川文庫99-1 HMM'84.1-6 |
シェリンガムも登場 |
No. | 事件名 | 発表年 | 邦訳 | 備考 |
1 | ボー・ピープのヒツジ失踪事件 | 1923 | 論創社 論創海外ミステリ61「シャーロック・ホームズの栄冠」('07) | シャーロック・ホームズのパロディ |
2 | 文体の問題、あるいはホームズとモダンガール | 1925 | 文藝春秋 P・G・ウッドハウス選集2「エムズワース卿の受難録」('05) | A・B・コックス名義、エッセイ1に所収のウッドハウスの文体によるホームズ・パロディ |
3 | ホームズと翔んでる女 | 早川文庫2-38「シャーロック・ホームズの災難/上」('84) | ||
4 | Mr. Simpson Goes to the Dogs 帽子の女 |
1934 | EQMM'57.9 | |
5 | The Policeman Only Taps Once 警官は一度だけ肩を叩く |
1936 | HMM'83.6 | |
6 | Right to Kill 殺しの権利 |
EQ'97.9 | ||
7 | The Sweet of Triumph 成功の菓子 |
|||
8 | Bitter Almonds 苦いアーモンド |
HMM'08.11 | A・B・コックス名義 | |
9 | My Detective Story 発端 |
新青年'38夏季増刊(抄訳) | A・B・コックス名義 |
No. | 事件名 | 発表年 | 邦訳 | 備考 |
1 | Jugged Journalism | 1925 | - | A・B・コックス名義 ユーモア・エッセイ集 |
2 | 探偵問答 | 1930 | 創元推理15('96冬) | ドロシー・L・セイヤーズとのラジオ対談 |
3 | 電気ぶろのプロット | |||
4 | The Author's Crowning Hour 作家その栄光の時 |
HMM'82.3 | A・B・コックス名義 エッセイ |
|
5 | A Story Against Reviewers 書評家連中 |
|||
6 | 探偵小説講義 | HMM'08.11 |
No. | 事件名 | 発表年 | DVD | 備考 |
1 | 断崖(米) | 1941 | ファーストトレーディング('06) アイ・ヴィ・シー('99) GPミュージアムソフト 世界名作映画全集133('06) アイ・ヴィ・シー「断崖/スミス夫妻」('05) |
監督:アルフレッド・ヒッチコック 脚本:サムソン・ラファエルソン、アルマ・レヴィル、ジョーン・ハリソン 主演:ジョーン・フォンテイン、ケイリー・グラント、ナイジェル・ブルース 原作「レディに捧げる殺人物語」 |
No. | 事件名 | 発表年 | DVD | 備考 |
1 | Lux Video Theatre: Suspicion |
1955 | - | 監督:リチャード・グード 脚本:S・H・バーネット 主演:メルヴィル・クーパー、ルイス・ヘイワード、キム・ハンター 原作「レディに捧げる殺人物語」 |
2 | Malice Aforethought(英) | 1979 | - | 監督:シリル・コーク 脚本:フィリップ・マッキー 主演:ハロルド・イノセント、ブライオニー・マクロバーツ 原作「殺意」、全4話 |
3 | Suspicion サスピション/断崖の恐怖(英) |
1987 | - | 監督:アンドリュー・グリーヴ 脚本:ラリー・グロスマン 主演:ジェーン・カーティン、アンソニー・アンドリュース、リチャード・アンダーソン 原作「レディに捧げる殺人物語」 41年映画のリメイク版 |
4 | Malice Aforethought(英・米) | 2005 | - | 監督:デヴィッド・ブレア 脚本:アンドリュー・ペイン 主演:ロニー・マスターソン、フィリス・ライアン、フィオナ・オシャーグネッシー 原作「殺意」 |
【参考】「ピカデリーの殺人」(東京創元社 創元推理文庫)
「ジャンピング・ジェニイ」(国書刊行会 世界探偵小説全集)
「EQ95年11月号」(光文社)