アメリカの推理小説家で、ハードボイルド界の巨匠。ダシール・ハメット、レイモンド・チャンドラーとともに〈御三家〉と呼ばれ、ハードボイルド小説というジャンルを確立しました。
この点ハメット、チャンドラーと一緒にされがちですが、彼の作風は二人とはかなり違っていて、ハードボイルドのジャンルでありながらかなりプロットも重視した重厚な作りになっており、本格ファンの間にもファンが多い作家と言われています。
カリフォルニア州サンフランシスコ郊外に生まれ、幼い頃新聞記者だった父親が失踪したため母親とともにカナダに移住。親戚の間を転々としながら貧しい少年時代を過ごします。
1932年になると放浪していた父が亡くなりその保険金を元に大学に入学、途中で母親を亡くすという不幸に見舞われながらも1938年に何とか卒業し、ほどなく後の女流推理小説家マーガレット・ミラーと結婚します。
その後もトロント大学、ミシガン大学などで学び、第二次大戦の最中の1944年には予備士官として官軍に入隊していました。
ところが少年時代から文学に親しんでいたというマクドナルドは、ある時ハメットの「マルタの鷹」を読んで衝撃を受け、1941年に既にミステリ作家としてデビューしていた妻の勧めもあって作家になることを決意。1944年に処女長編「暗いトンネル」を執筆し、作家デビューを果たすことになります。
もっとも彼が作家としてようやく認められるようになったのは1949年のこと、第5長編で彼のシリーズ探偵リュウ・アーチャーの登場する「動く標的」からでした。
それ以後はアーチャーをシリーズ探偵として作品を発表し続け、当初はチャンドラーに近い作風だった彼の作品も次第に独自色を強め、現代社会の家庭問題を鋭く描き出したり、俗物主義に対する痛烈な諷刺を描いたりと、人間観察の深みが増してより重厚な作品に仕上がっています。
1965年にはアメリカ探偵作家クラブ(MWA)の会長を務め、同年には「ドルの向こう側」でゴールド・ダガー賞を受賞。1974年にはMWA賞の巨匠賞を受賞するなど名実ともにアメリカハードボイルド小説界の巨匠といえるでしょう。
No. | 事件名 | 発表年 | 邦訳 | 備考 |
1 | 暗いトンネル | 1944 | 創元推理文庫132-1 | ロス・マクドナルドのデビュー長編 |
2 | トラブルはわが影法師 | 1946 | 早川文庫8-7 HPB740 EQMM'62.8-12 |
No. | 事件名 | 発表年 | 邦訳 | 備考 |
1 | 青いジャングル | 1947 | 創元推理文庫132-2 | |
2 | 三つの道 | 1949 | 創元推理文庫132-3 | |
3 | 死体置場で会おう | 1954 | HPB257 | |
4 | ファーガスン事件 | 1960 | 早川文庫8-9 HPB645 |
No. | 事件名 | 発表年 | 邦訳 | 備考 | |
1 | Strangers in Town | 2001 | HMM'01.10 | アーチャーもの2編ほか、没後発掘された全3編を収録 | |
1 | 溺死 | 1945 | 探偵ジョー・ロジャーズ |
No. | 事件名 | 発表年 | 邦訳 | 備考 |
1 | 南洋スープ会社事件 | 1931 | 論創社 論創海外ミステリ61「シャーロック・ホームズの栄冠」('07) 創元推理16('96) |
ケネス・ミラー名義 シャーロック・ホームズのパロディ |
2 | The Sky Hook | 1948 | - | ケネス・ミラー名義 |
2 | Shock Treatment ショック療法 (あなたは呼吸がやめられる) |
1953 | 講談社文庫「恐怖の1ダース」('80) マンハント'59.11 |
No. | 事件名 | 発表年 | 邦訳 | 備考 |
1 | Great Stories of Suspense | 1974 | - |
No. | 事件名 | 発表年 | 邦訳 | 備考 |
1 | ハメットに脱帽 | 1964 | EQMM'64.11 | エッセイ |
2 | 主人公(ヒーロー)としての探偵と作家 | 1965 | 創元推理文庫132-7「ミッドナイト・ブルー」('77) | 評論 |
3 | 現代私立探偵論 | EQ'78.5 | 評論 | |
4 | ジェイムズ・ケイン讃 | HMM'82.1 | 評論 | |
5 | コンドルの滅びゆく道 | HMM'83.11 | エッセイ | |
6 | ロス・マクドナルド語る | エッセイ |
【参考】「動く標的」(東京創元社 創元推理文庫)