ホームズのライヴァル期と黄金時代の過渡期に活躍した英国5大作家の一人

UK H・C・ベイリー
(Henry Christopher Bailey)

フォーチュン氏の事件簿
「フォーチュン氏の事件簿」
(東京創元社)

 イギリスの本格作家。ドロシー・L・セイヤーズ、アガサ・クリスティー、R・オースチン・フリーマン、F・W・クロフツと並び、本国では英国本格の五大作家と称された程の作家です。

 丁度両大戦の狭間、ホームズのライヴァル時代の末期であり、黄金時代の代表作家であるクリスティー、クロフツがデビューした1920年という過渡期に活躍をはじめました。まさに両時代の橋渡しをした作家といえます。

 オックスフォード大学在学中から歴史ロマン小説を書き、アンドリュー・ラングに認められて英米両国で出版されたといいます。その後もさらに数冊の歴史小説を発表していますが、 最優等の成績で大学を卒業した後はロンドンの〈デイリー・テレグラフ〉誌に加わって劇評を書いたり従軍記者を務めたりし、その後は論説委員をするなど、ジャーナリズムの道に進んだのでした。

 ところが第一次世界大戦頃がはじまるとその気晴らしのためレジナルド・フォーチュン氏を主人公とする推理小説を書いたのですが、これが大好評を博して英米両国を含め多くの国で翻訳され、一躍人気作家の仲間入りを果たします。

死者の靴
「死者の靴」
(1942年)
(東京創元社)

 その後も数多くのフォーチュン氏ものの短編や長編を発表しますが、フォーチュン氏の作品はいくつものアンソロジーに採られる一方で、教科書にも採用されたそうで、まさに歴史上に名を残す名探偵となったのでした。

 また彼にはもう一人ジョシュア・クランク弁護士という探偵もいて、こちらも母国ではフォーチュン氏と同じくらいの人気があったそうです。 ちなみにこの両者のシリーズにはともにベル警視とローマス部長の二人が登場するため、言わば両者は兄弟分的シリーズといえるでしょう。

 ベイリーは数多くの長編・短編を発表していますが、中編に近いボリュームと日本語に翻訳しにくい文章のためか、日本では他の英国5大作家の4人に比べるとあまりに紹介作品が少なく、長編にいたっては現在では近年創元推理文庫から出たジョシュア・クランクものの「死者の靴」のみに止まっています。


■作家ファイル■

出身地
イギリス、ロンドン
学歴
オックスフォード大学ユニヴァーシティ・カレッジからコーパス・クリスティ・カレッジに進み古典文学を専攻し、最優秀の成績で卒業
生没
1878年2月1日~1961年3月24日
作家としての経歴
1901
大学在学中に歴史小説「My Lady of Orange」を書き、これが英米両国で出版される。その後いくつかの歴史小説を発表する
1920
フォーチュン氏もの短編集第1作「フォーチュン氏を呼べ」を発表。たちまち大好評を博し、多くの国で翻訳される
以後、推理作家として多くの長編と短編を発表する
1930
もう一人のシリーズ探偵である弁護士ジョシュア・クランクの初登場となる長編「Garstons」を発表
1934
フォーチュン氏ものの初長編となる「Shadow on the Wall」を刊行
1950
最後の作品となった長編「Shrouded Death」を発表
シリーズ探偵
レジナルド・フォーチュン氏 (Mr. Reginald Fortune)
ジョシュア・クランク弁護士 (Mr. Clunk)
代表作
【フォーチュン氏】
「黄色いなめくじ」「小さな家」(短編)
【クランク弁護士】
「死者の靴」

■著作リスト■

1 レジナルド・フォーチュン氏登場作品リスト

2 ジョシュア・クランク弁護士登場作品リスト

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 Garstons
(米 The Garston Murder Case)
1930 -
2 The Red Castle
(米 The Red Castle Mystery)
1932 -
3 The Sullen Sky Mystery 1935 -
4 Clunk's Claimant
(米 The Twittering Bird Mystery)
1937 -
5 The Veron Mystery
(米 Mr. Clunk's Text)
1939 -
6 The Little Captain
(米 Orphan Ann)
1941 -
7 死者の靴 1942 創元推理文庫178-2
8 Slippery Ann
(米 The Queen of Spades)
1944 -
9 The Wrong Man 1945 -
10 Honour among Thieves 1947 -
11 Shrouded Death 1950 - ベイリーの遺作

3 その他の作品

【長編】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 The Man in the Cape 1933 -

【普通小説】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 My Lady of Orange 1901 - デビュー作
歴史小説
2 Karl of Erbach 1903 -
3 The Master of Gray -
4 Rimingtons 1904 -
5 Beaujeu 1905 -
6 Under Castle Walls
(英 Springtime)
1906 -
7 Raoul, Gentleman of Fortune
(米 A Gentleman of Fortune)
1907 -
8 The God of Clay 1908 -
9 Colonel Stow
(米 Colonel Greatheart)
-
10 The White Hawk 1909 - 合作
11 Storm and Treasure 1910 -
12 The Lonely Queen 1911 -
13 The Suburban 1912 -
14 The Sea Captain 1913 -
15 The Gentleman Adventurer 1914 -
16 Forty Years After -
17 The Highwayman 1915 -
18 The Gamesters 1916 -
19 The Young Lovers 1917 -
20 The Pillar of Fire 1918 -
21 Barry Leroy 1919 -
22 His Serene Highness 1920 -
23 The Fool 1921 -
24 The Plot 1922 -
25 The Rebel 1923 -
26 Knight at Arms 1924 -
27 The Golden Fleece 1925 -
28 The Merchant Prince 1926 -
29 Bonaventure 1927 -
30 Judy Bovenden 1928 -
31 The Roman Eagles 1929 -
32 Mr. Cardonnel 1931 -
33 The Bottle Party 1940 -

【邦訳短編】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 ミスター・ボウリーの日曜の晩 1939 創元推理文庫104-28「完全犯罪大百科/上」('79)
2 A Matter of Speculation
ミス・パンフリイの推理
HMM'86.2
3 夢魔 新青年'34夏季増刊 原題不明

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