演劇畑でも活躍した女流本格作家

NZL ナイオ・マーシュ
(Ngaio Marsh)

殺人者登場
「殺人者登場」
(1935年)
(新潮社)

 ニュージーランド生まれの女流本格作家で、のちにイギリスに渡りミステリの女王アガサ・クリスティーやドロシー・L・セイヤーズ、マージェリー・アリンガムとともに英国女流推理作家〈ビッグ4〉と称される、当時を代表する本格作家の一人に挙げられるまでになりました。

 彼女の趣味は旅行と演劇と絵画(油絵)だったそうですが、これらの趣味は彼女の創作活動にも大きく影響を与えていると言われています。中でも特に演劇に関しては作家活動を上回る活躍を見せるほどでした。

 10代後半から演劇を手掛け始めて戯曲などを書いていましたが、自らの進路としては演劇ではなく美術の道を選びます。ところが美大を卒業後にスケッチ旅行に出かけていた際にとあるイギリスの劇団と知り合ったのをきっかけに演劇への思いが再燃し、演劇の道を再び目指し始めます。

 やがて1928年になるとイギリスに渡り、旅行記事などを書いていましたが、家庭の事情から帰国を余儀なくされ、その後はニュージーランドで演劇の仕事をするかたわら推理小説の執筆にも手を染めるようになります。

ヴァルカン劇場の夜
「ヴァルカン劇場の夜」
(1951年)
(早川書房)

 そして1934年、ミステリのデビュー作「アレン警部登場」を発表。これが好評を得たため、それ以後は約2年に一冊のペースで第1作に登場したロデリック・アレン警部を主人公とするミステリーを発表し続けることになります。

 実力派の作家だけに代表作もその数は多く、1955年には「正義の秤」でイギリス推理作家協会(CWA)賞シルヴァー・ダガー賞を受賞し、その二年後の1957年にも「道化の死」で同じくCWA賞のシルヴァー・ダガー賞を受賞しています。

 1966年にはイギリス政府から長年の功績を認められ〈デイム〉の称号を授けられ、1978年にはアメリカ探偵作家クラブ(MWA)賞の巨匠賞も受賞するなど、名実ともにこの時代を代表する本格作家の一人になりました。

 その作風は演劇畑で活躍していたこともあって、大がかりなトリックはないものの彼女の物語を読んでいる者がまるで実際に演劇を観ているかのような気分にさせられる程、人物描写・情景描写に優れていると言われ、また犠牲者がすべて嫌な人間であるという点も伝統的な本格ミステリの風格を漂わせています。

道化の死
「道化の死」
(1956年)
(国書刊行会)

 彼女が発表したミステリーには全部で32の長編とその死後刊行された短編集が1冊ありますが、その全てにシリーズ探偵としてロデリック・アレン警部が登場しています。

 またマーシュもマージェリー・アリンガムなどと同様に日本では紹介が遅れ気味でしたが、近年国書刊行会から「ランプリイ家の殺人」や「道化の死」などの作品が続々と刊行されていて、その他の代表作の邦訳も期待される所です。


■作家ファイル■

出身地
ニュージーランド、南島東岸のクライストチャーチ
学歴
カンタベリー美術大学卒
生没
1895年4月23日~1982年
作家としての経歴
1934
処女作「アレン警部登場」を発表。たちまち人気を博し、コリンズ社の看板作家となる。以後、アレン警部を主人公とする長編32編を発表
1955
「正義の秤」でイギリス推理作家協会(CWA)賞シルヴァー・ダガー賞を受賞
1957
「道化の死」でイギリス推理作家協会(CWA)賞シルヴァー・ダガー賞を受賞
1978
アメリカ探偵作家クラブ(MWA)賞巨匠賞を受賞
シリーズ探偵
ロデリック・アレン警部 (Roderick Alleyn)
代表作
「ランプリイ家の殺人」「死の序曲」
「正義の秤」「道化の死」

■関連リンク■

1  海外サイト「Dame Ngaio Marsh's Home


■著作リスト■

1 ロデリック・アレン警部登場作品リスト

2 その他の作品

【短編集】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 The Collected Short Fiction of Ngaio Marsh
(英 Death on the Air and Other Stories)
1989 - アレン警部もの3編他
全11編
1 Roderick Alleyn 1978 - エッセイ
2 Portrait of Troy 1979 - エッセイ
3 The Hand in the Sand
砂浜の手首
1960 HMM'67.9 犯罪実話
4 The Cupid Mirror
キュービッドの鏡
1972 HMM'04.12
5 A Fool About Money 1974 -
6 ホッホウ 1978 講談社文庫「13の判決」('81)
7 Evil Liver 1975 - TVシナリオ
8 The Figure Quoted 1927 - 増補版のみ

【戯曲】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 Little Housebound 1922 -
2 Exit Sir Derek 1935 - ヘンリー・ジェレット (Henry Jellett) との合作
3 Surfeit of Lampreys 1950 - Owen B. Howellとの合作
4 The Wyvern and Unicorn 1955 -
5 False Scent 1961 - Eileen Mackayとの合作
6 The Christmas Tree 1962 -
7 Sweet Mr. Shakespeare 1976 - Jonathan Elsomとの合作

【ノンフィクション】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 New Zealand 1942 - R.M. Burdonとの共著
2 A Play Toward: A Note on Play Production 1946 -
3 Play Production 1960 - S.M. Williamsとの共著
4 Perspectives: The New Zealander and the Visual Arts -
5 New Zealand: A Nation’s Today Book 1964 -
6 Black Beech and Honeydew 1966 -

【自伝】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 Black Beech and Honeydew 1965 - 1981年改訂

【研究書その他】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 Ngaio Marsh: A Bibliography 1990 - Rowan Gibbs and Richard Williams著
2 Ngaio Marsh: A Life 1991 - Margaret Lewis著
伝記

【参考】「ランプリイ家の殺人」(国書刊行会 世界探偵小説全集)
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