東洋の英知
アメリカ黄金時代の作家アール・デア・ビガーズが創造した、ハワイ・ホノルル警察に勤務する中国人探偵。
かたことの英語を話し、小太りで背は低く、眠そうな細い目をしていて、一見風采の上がらない人物のように思えますが、昔の中国の言葉をやたらと引用して容疑者を煙に巻きつつ、「東洋の英知」と呼ばれるその明晰な頭脳と慎重で忍耐強い捜査活動で徐々に、しかし確実に犯人を追い詰めていく名警部です。
秦の始皇帝の諺を引用し、「昨日の勝利語って、今日おごる者、明日語ること何もなし」と謙虚な姿勢を崩さず、また常に相手を立てる好人物で、周囲からも慕われる存在でもあります。中でもロンドン警視庁のダフ上席警部とはいくつかの事件を通じて固い友情と信頼関係が芽生えました。
天涯孤独な名探偵が多い中では珍しく大変な子持ちで、ハワイ・ホノルル市街を見下ろすパンチボウルの丘の上に建つ自宅に、留学中の長女を除く10人の子供と愛妻に囲まれて幸せな生活を送っています。
この点このチャン警部の活躍した1920年から30年代というとロナルド・A・ノックスの〈探偵小説十戒〉のその5”不吉な外国人、殊に中国人を登場させてはならない”にもあるとおり、欧米人からみると中国の人々というのはどちらかというと怪しげで近寄り難い雰囲気も持っていて、悪人扱いされることが多いという時代背景がありました。
しかしこのチャーリー・チャン・シリーズはチャン警部の温かく親しみやすい人柄と風変わりな人物設定が発表当時から大変な好評を博しただけではなく、そういった”中国人=悪人”という欧米人の先入観を払拭するのにも一役買ったと言われています。
ビガーズの残した原作は6つの長編だけですが、これらはたちまち映画化され、その他にもオリジナルのチャン警部シリーズの映画もたくさん作られたそうです。
またチャン役で有名なのがトーキーになってからチャンを演じたウォーナー・オーランドで、山羊髭に肥満体のイメージは彼の演じたチャンのイメージが定着したものです。
No. | 事件名 | 発表年 | 邦訳 | 備考 |
1 | 鍵のない家 | 1925 | 芸術社 推理選書10('57) 別冊宝石45('55) 偕成社 世界推理・科学名作全集19('64)(ジュヴナイル) |
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2 | シナの鸚鵡 (幽霊犯人) (百万ドル真珠事件) (まぼろしの犯人) |
1926 | HPB162 ポプラ社 世界名作探偵18('55) 偕成社 世界推理・科学名作全集19「鍵のない家」('64) 講談社 少年少女世界探偵小説全集14('58) 旺文社 中学時代一年生'61.12付録 |
HPB以外はジュヴナイル(抄訳) |
3 | チャーリー・チャンの追跡 (カーテンの彼方) (消ゆる女) |
1928 | 創元推理文庫122-2 HPB108 日本公論社('36) |
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4 | 黒い駱駝 | 1929 | 別冊宝石45(抄訳)('55) 黒白書房 世界探偵傑作叢書4('35) 新青年'32夏期増刊 |
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5 | チャーリー・チャンの活躍 (チャーリー・張の活躍) (観光団殺人事件) (観光船殺人事件) (世界観光団の殺人事件) (のろわれた世界旅行) |
1930 | 創元推理文庫122-1 HPB215 雄鶏社 雄鶏みすてりーず13('50) 春秋社 傑作探偵叢書('35) 探偵小説'31.10(1-2) 岩崎書店(ジュヴナイル)('85) |
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6 | チャーリー・チャン最後の事件 | 1932 | 論創社 論創海外ミステリ82('08) |
No. | 事件名 | 発表年 | 邦訳 | 備考 |
1 | The Celebrated Cases of Charlie Chan | 1933 | - | 長編1~5を収録 |
2 | Charlie Chan Five Complete Novels | 1981 | - | 長編1~4、6を収録 |
【参考】「チャーリー・チャンの活躍」(東京創元社 創元推理文庫)
名探偵コナン29巻(小学館)