「幻の」本格ミステリ作家

UK フィリップ・マクドナルド
(Philip MacDonald)
〔別名 マーティン・ポーロック (Martin Porlock)〕

ライノクス殺人事件
「ライノクス殺人事件」
(1930年)
(東京創元社)

 本格黄金時代を代表するイギリスのミステリ作家。フェアプレイとゲーム的趣向に溢れた作風で、評論家やファンの間からも高い評価を得ていますが、何故か邦訳は少ない上に刊行されても重版されることなく終わってしまい、入手困難になることから、マニアの間では”幻のミステリ作家”とも言われています。

 有名なファンタジー作家のジョージ・マクドナルドを祖父に持ち、また父親のロナルド・マクドナルドも有名な作家で、初期にはオリヴァー・フレミング名義でこの父親と共作した作品もいくつかあります。

 しかし、その他の経歴については本人自身あまり語りたがらなかったようで詳しくは明らかにされておらず、現在においてもかなりの部分が謎に包まれています。

 1924年、代表作とされ、シリーズ探偵となるアントニー・ゲスリン大佐が初登場する長編「鑢」を発表して黄金時代の作家としてスタートを切りますが、その作品発表は短期の間に集中的になされています。特に1931年にはたった一年で8作品も発表するという多作な時期もありました。

Xに対する逮捕状
「Xに対する逮捕状」
(1938年)
(国書刊行会)

 その後は渡米しハリウッドに移住して映画関係の仕事に追われたこともあり、ミステリの分野からはしばらく遠ざかることになります。

 しばらくの後またミステリ作品を発表しますが、これらの後期作品は本格ミステリというよりはむしろサスペンス・スリラー的な要素を持った作風が中心になっています。

 全部で20ほどの長編の他に短編もいくつか発表していますが、短編の分野でもその才能は如何なく発揮されていて、アメリカ探偵作家クラブ(MWA)賞の最優秀短編賞を二度受賞するなど評論家の間で高い評価を得ています。

 またミステリ小説だけでなく普通小説も多く発表しています。


■作家ファイル■

出身地
イギリス、ロンドン
生没
1900年11月5日~1980年12月10日
作家としての経歴
1924
ゲスリン大佐もの第1作の長編「鑢」でミステリ作家としてデビュー
1933
デビューからこの年までの間に大半のミステリーを発表する
その後渡米してハリウッドで映画の仕事に従事し、スクリーンプレイの執筆に追われる
1938
「Xに対する逮捕状」を発表
1953
第1短編集「隠されたもの」でアメリカ探偵作家クラブ(MWA)賞の最優秀短編賞を受賞
1956
第2短編集収録の短編「夢見るなかれ」でアメリカ探偵作家クラブ〈MWA)賞の最優秀短編賞を受賞
1959
最後の作品「ゲスリン最後の事件(エイドリアン・メッセンジャーのリスト)」を発表
シリーズ探偵
アントニー・ルースヴェン・ゲスリン大佐 (Colonel Anthony Ruthven Gethryn)
アルカザー博士
ヘンリー・ドジソン・プラウドウィッスル(帽子のハリー)(Harry the Hat)
代表作
【ゲスリン大佐】
「鑢」「Xに対する逮捕状」
【ノンシリーズ】
「隠されたもの」(短編集)
「夢見るなかれ」(短編)

■著作リスト■

1 アントニイ・ゲスリン大佐登場作品リスト

2 その他の作品

【長編】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 Queen's Mate 1926 - 非ミステリ
2 Patrol
(The Last Patrol)
1927 -
3 Likeness of Exe 1929 -
4 ライノクス殺人事件 1930 創元推理文庫171-4
六興出版部 六興推理小説選書109('57)
5 R.I.P.
(米 Menace)
1933 -
6 The Dark Wheel
(米改 Sweet and Deadly)
1948 - A・ボイド・コレルとの合作
7 Guest in the House
(米改 No Time for Terror)
1955 -

【オリヴァー・フレミング (Oliver Fleming) 名義の長編】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 Ambrotox and Limping 1920 - 父ロナルド(Ronald MacDonald)との合作
2 The Spandau Quid 1923 -

【アントニー・ローレス (Anthony Lawless) 名義の長編】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 Harbour 1931 -
2 Moonfisher -

【マーティン・ポーロック (Martin Porlock) 名義の長編】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 フライアーズ・パードン館の謎 1931 原書房ヴィンテージ・ミステリー・シリーズ('05) 邦訳はフィリップ・マクドナルド
2 Mystery in Kensington Gore
(米 Escape)
1932 -
3 殺人鬼対皇帝 1933 新青年'39新春増刊(半分ほどの抄訳)

【W・J・スチュアート (W. J. Stuart) 名義の長編】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 Forbidden Planet 1956 -

【短編集】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 Fingers of Fear
(米 Something to Hide)
(隠されたもの)
1952 - ゲスリン大佐1編他全6編
クイーンの定員108
MWA賞短編賞('53)
1 The Green-and-Gold String
緑色と金色の紐
(緑金の撚り糸)
HMM'78.6
別冊宝石9('50)
アルカザー博士
2 Something to Hide - アルカザー博士
3 殺意の家
(殺意)
1946 光文社文庫「クイーンの定員 IV」('92)
光文社文庫「世界ベスト・ミステリー50選/上」('94)
EQ'91.7
EQMM短編年間コンテスト2位('46)
4 おそろしい愛 早川文庫80-7「エドガー賞全集/上 アメリカ探偵作家クラブ傑作選6」('83)
EQMM'61.11
5 Fingers of Fear
(In the Course of Justice)
-
2 The Man Out of the Rain and other stories 1955 -
1 夢見るなかれ
(夢みるなかれ)
1955 早川文庫80-7「エドガー賞全集/上 アメリカ探偵作家クラブ傑作選6」('83)
早川書房「復刻エラリイ・クイーンズ・ミステリ・マガジン No.1-3」('95)
EQMM'56.8
MWA賞短編賞('56)
2 The Go-Between - 「トナタルの家出」の中編ヴァージョン、帽子のハリー
3 十時 1931 EQ'99.1(127)
4 The Man Out of the Rain
ずぶ濡れの男
EQMM'59.6
5 The Elephant's Head - アルカザー博士
6 His Mother's Eyes -
3 Dead and Chicanery 1962 -
1 Deed of Mercy -
2 Breakfast for the King -
3 Moon Flame -
4 The Ticker-Tape -

【邦訳中短編】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 Two Exploits of Harry the Hat
帽子のハリイ手柄噺
 [1]トナタルの家出
 [2]羊の皮衣
1949 EQMM'58.2
2 信用第一 創元推理文庫104-24「ミニ・ミステリ傑作選」('75)
3 Our Feathered Friends
羽根を持った友だち
(羽根の生えた友人たち)
徳間ノベルズ「一ダースの戦慄」('76)
徳間書店「私が選んだもっとも怖い話」('68)
HMM'76.6

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