高度な文学性を持った新しいスパイ小説を形成
イギリスの推理小説家で現在のスパイ小説の典型を作り出すとともに、マニング・コールズやD・B・ヒューズなど、多くの優れた後進作家たちの良い手本となり、心理的スリラー・サスペンス小説全盛期のきっかけを作った作家として現在も高く評価されています。
生粋のロンドンっ子で、ロンドンの町に生まれロンドン大学を中退後しばらく技師として働きますが、自身のかねてからの希望であった文学や演劇への憧れを棄てきれず、その世界を目指し始めます。
まずヴォードヴィリアンとして歌を作ったりしながら各地を渡り歩いた後、広告業界に転じ、ベビー・フードから非鉄合金などありとあらゆる広告を手がけますが、その仕事のかたわらに映画の脚本や小説も書き始めるようになります。
そして1936年に長編「暗い国境」を発表して作家としてデビューし、その後も順調に「あるスパイの墓碑銘」などの長編作品を発表していきますが、その作品の中で彼はジョン・バカン以来の従来の派手なアクションシーン満載の冒険活劇のようなスパイ小説から脱し、登場人物の心理描写をリアルに描き出すことでスリルとサスペンス感を高めていくという、高度な文学性を持った新しいスパイ小説の形を作り上げました。
その洗練された文体は知識階級の読者や評論家の間からも絶賛され、評論家のハワード・ヘイクラフトも1942年に発表した「娯楽としての殺人」の中で〈流線形〉という言葉を使ってその作品を高く評価しています。
第二次世界大戦に入ると作家活動を一時休止して陸軍に入隊、映画部隊に属して軍人教育用の映画の製作などに携わります。
終戦後は10年くらい映画の脚本やTV番組制作の仕事をしていましたが、後に作家活動も再開し、チャールズ・ロッダとの合作コンビを結成してエリオット・リード名義で「叛乱」など5長編を発表します。
その後アンブラー名義でも活動を再開し、1959年に発表した「武器の道」で英国推理作家協会(CWA)賞のクロス・レッドへリング賞(現在のゴールド・ダガー賞)を受賞したのを皮切りに、「真昼の翳」でCWA賞のシルヴァー・ダガー賞とアメリカ探偵作家協会(MWA)の最優秀長編賞を同時に受賞するなど、多くの作品が数々の賞に輝いており、その作品の完成度の高さが窺い知れます。
1975年にはアメリカ探偵作家クラブ(MWA)の巨匠賞を、1986年には英国推理作家協会(CWA)のダイヤモンド・ダガー賞を受賞し、名実ともにイギリスそしてスパイ小説界を代表する巨匠の一人です。
彼の作品では主としてヒーローではないごく普通の一市民がひょんなことから大事件に巻き込まれ、国際的は陰謀に巻き込まれながらも命がけの冒険を繰り返して危難を乗り越えていくというパターンが多く、いわゆる「追いつ追われつ型」のストーリー展開が繰り広げられていきます。
No. | 事件名 | 発表年 | 邦訳 | 備考 |
1 | ディミトリオスの棺 | 1939 | 早川文庫15-1 HPB111 早川書房 世界ミステリ全集7('72) |
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2 | インターコムの陰謀 | 1969 | HPB1239 早川書房 世界ミステリ全集7('72) |
No. | 事件名 | 発表年 | 邦訳 | 備考 |
1 | 真昼の翳 (真昼の翳り) |
1962 | 早川文庫15-2 HPB780 |
MWA賞最優秀長編賞('64) CWA賞シルヴァー・ダガー賞('62) |
2 | ダーティ・ストーリー | 1967 | 早川文庫15-4 | CWA賞イギリス作品賞('67) |
No. | 事件名 | 発表年 | 邦訳 | 備考 | |
1 | Waiting for Orders (The Story so Far) |
1993 | - | 全9編 | |
1 | 消えた暖房炉 (贋のロケット) |
1945 | 創元推理文庫104-24「ミニ・ミステリ傑作選」('75) HMM'67.10 |
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2 | エメラルド色の空 | 1940 | HPB1819「天外消失 世界短篇傑作集」 早川書房 世界ミステリ全集18「37の短篇」('73) 早川書房「復刻エラリイ・クイーンズ・ミステリ・マガジン No.1-3」('95) EQMM'56.9 |
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3 | The Case of the Cycling Chanfleur (A Bird in the Tree) 木の上の鳥 |
1947 | HMM'79.12 | ||
4 | Case of the Overheated 過熱したアパート |
1948 | HMM'68.1 | ||
5 | Case of the Landlady's Brother 女家主の弟 |
1949 | EQMM'58.2 | ||
6 | Case of the Gentleman Poet 詩人の死 |
1940 | EQMM'63.9 |
No. | 事件名 | 発表年 | 邦訳 | 備考 |
1 | 暗い国境 (夜の明ける前に) |
1936 | 創元推理文庫137-1 別冊宝石77('58) |
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2 | 恐怖の背景 | 1937 | HPB116 | |
3 | あるスパイへの墓碑銘 (あるスパイの墓碑銘) (あるスパイの物語) |
1938 | 創元推理文庫137-2 HPB566 新潮文庫 ちくま世界ロマン文庫13 集英社 世界文学全集38('67) 東都書房 世界推理小説大系23('63) 岩崎書店 世界の名探偵物語 14 |
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4 | 裏切りへの道 | 1938 | HPB387 | |
5 | 恐怖への旅 | 1940 | HPB141 | |
6 | Judgment on Deltchev デルチェフ裁判 |
1951 | HPB550 | |
7 | シルマー家の遺産 | 1953 | HPB157 集英社 ジュニア版世界の推理23('73) |
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8 | 夜来たる者 | 1956 | HPB362 | |
9 | 武器の道 | 1959 | 早川文庫15-3 HPB561 |
CWA賞ゴールド・ダガー賞('59) |
10 | 汚辱と怒り | 1964 | HPB1000 | |
11 | グリーン・サークル事件 | 1972 | 創元推理文庫137-3 | CWA賞ゴールド・ダガー賞('72) |
12 | Doctor Frigo ドクター・フリゴの決断 |
1974 | 早川書房('82) | |
13 | Send No More Roses (米 The Siege of the Villa Lipp) 薔薇はもう贈るな |
1977 | 早川書房('80) | |
14 | The Card of Time | 1981 | - |
すべてチャールズ・ロッダ(Charles Rodda)との合作
No. | 事件名 | 発表年 | 邦訳 | 備考 |
1 | スカイティップ | 1950 | HPB608 | |
2 | 恐怖へのはしけ | 1951 | HPB478 | |
3 | 叛乱 (反乱) |
1953 | HPB570 早川書房 世界ミステリ全集7('72) |
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4 | 危険の契約 | 1954 | HPB621 | |
5 | 恐怖のパスポート | 1958 | HPB589 |
No. | 事件名 | 発表年 | 邦訳 | 備考 | |
1 | Waiting for Orders (The Story so Far) |
1993 | - | チサール博士6編他 全9編 |
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1 | The One Who Did for Blagden Cole ブラグデン・コールの死 |
1992 | EQ'94.3 | ||
2 | 影の軍団 | 1939 | 講談社文庫「世界スパイ小説傑作選1」('78) | ||
3 | The Blood Bargain 血の協定 |
1970 | HPB1491「現代イギリス・ミステリ傑作集1」('87) HMM'76.8 |
No. | 事件名 | 発表年 | 邦訳 | 備考 |
1 | Belgrade 1926 ベオグラード、1926年 |
1939 | 荒地出版社「スパイを捕まえろ」('81) |
No. | 事件名 | 発表年 | 邦訳 | 備考 |
1 | To Catch a Spy: An Anthology of Favourite Spy Stories スパイを捕まえろ |
1964 | 荒地出版社('81) | アンソロジー |
No. | 事件名 | 発表年 | 邦訳 | 備考 |
1 | Here Lies | 1985 | - |
No. | 事件名 | 発表年 | 邦訳 | 備考 |
1 | 推理小説を書く | 荒地出版社「スパイ入門」('60) | ||
2 | スパイ小説の発展 | HMM'77.9 |