少女向けミステリを代表する作家
アメリカの小説家。カロリン・キーンとも表記。本国アメリカだけでなくイギリス、フランス、ドイツ、そして日本など全世界で紹介され、1930年の第1作発表以来8000万部以上を売り上げたと言われている少女ミステリーの草分け的存在〈少女探偵ナンシー・ドルー〉のシリーズで有名です。
ちなみに”キャロリン・キーン”というのはペンネームですが、その由来に関しては実は少々複雑な経緯を辿っています。
アメリカの作家で出版者でもあったエドワード・ストラッテメイヤー(1862-1930)は、1906年に〈ストラッテメイヤー・シンジケート〉という少年少女のための探偵小説を発表・出版する作家団体を設立し、ビクター・アップルトン、メイ・ホリス・バートン、フランクリン・W・ディクソン、ローラ・リー・ホープなど数多くのペンネームを用いて長らく少年少女向けの小説を発表してきた人物でした。
そして1930年になると、今度は新たに少女向けの読み物として〈少女探偵ナンシー・ドルー〉のシリーズを発表することとなり、そのために用意されたのがこのキャロリン・キーンという筆名だったのです。
しかし肝心のエドワード・ストラッテメイヤーがその直後に亡くなってしまっため、事業は娘のハリエット・ストラッテメイヤー・アダムズ(1892-1982)に引き継がれ、以後事業の経営の傍ら自ら執筆もしたというハリエットと児童文学者のミルドレット・ベンソン(1896-2002)らを中心に、複数の作家たちの手によってこのナンシー・シリーズは書き継がれていくこととなったのです。
そうしてスタートした〈少女探偵ナンシー・ドルー〉シリーズは1930年に第1作「古い柱時計の秘密」が発表されて以来、毎年1~2冊のペースで書かれ、まず1979年までに計56の作品が発表されました。
その後1982年にハリエットが没すると、〈ストラッテメイヤー・シンジケート〉の経営権は、更に2年後の1984年に大手出版社のサイモン&シュスター社(Simon & Schuster Inc.)に買い取られますが、以後もナンシー・シリーズは書き続けられます。
そして第1作からおよそ70年以上経った現在でも新作が続々と出版されていて、総計で170以上の作品が残されています。
またキャロリン・キーン名義ではナンシー・ドルーもの以外にもダナ姉妹を主人公に据えたシリーズが発表されていますが、こちらも1934年の「ランプの秘密」の発表以来、1968年までに30作品が書かれています。
ちなみにキャロリン・キーンの所属する〈ストラッテメイヤー・シンジケート〉からは、フランクリン・W・ディクソンの名義で少年探偵のハーディー兄弟が活躍する〈ハーディー・ボーイズ〉シリーズも書かれいますが、こちらもナンシー・ドルーのシリーズ同様、1930年頃の初登場から70年以上も経った現在に至るまで作品が発表し続けられている長寿シリーズとなっています。
ナンシー・シリーズの特徴は、ミステリーとしての構成の上手さはもちろんのこと、徐々に話が盛り上がっていき読み出したら止まらなくなるスリルとサスペンスの面白さにもあると言われています。
もっともスリルがあるといっても残酷なシーンなどは全くなくて、上品でむしろユーモアな印象さえ感じさせてくれます。
またハリエット・S・アダムス女史は作品を書くときはいつも子供たちの意見を聞いて題材を選んでいたらしく、「子供こそ最大の批評家」と公言して止まなかったといいます。
親が安心して子供に薦めることができるこのような作風と著者の作品に対する姿勢が、発表から70年以上経った今でも色褪せることなく、三世代に渡って読み継がれている秘訣なのかもしれません。
弁護士の父親譲りの抜群の推理力と行動力、そして優しさと美しさを兼ね備えた金髪の美少女ナンシーの活躍は、今後も今と変わることなく続いていくことでしょう。
No. | 事件名 | 発表年 | 邦訳 | 備考 |
1 | ランプの秘密 | 1934 | 金の星社 少女・世界推理名作選集6('62) | |
2 | 一本松の小屋 | 保育社 少年・少女探偵冒険全集22('58) | ||
3 | In the Shadow of the Tower (塔の影で) |
- | ||
4 | A Three Cornered Mystery | 1935 | - | |
5 | The Secret at the Hermitage | 1936 | - | |
6 | 円をえがく足跡 | 1937 | 偕成社 世界探偵名作シリーズ2('69) | |
7 | The Mystery of the Locked Room | 1938 | - | |
8 | The Clue in the Cobweb | 1939 | - | |
9 | The Secret at the Gatehouse | 1940 | - | |
10 | 宝石盗難事件 | 1941 | 金の星社 少女・世界推理名作選集20('64) | |
11 | The Clue of the Rusty Key | 1942 | - | |
12 | The Portrait in the Sand (砂の肖像) |
1943 | - | |
13 | The Secret of the Old Well (古井戸の秘密) |
1944 | - | |
14 | The Clue in the Ivy | 1952 | - | |
15 | The Secret of the Jade Ring | 1953 | - | |
16 | Mystery at the Crossroads | - | ||
17 | The Ghost in the Gallery | 1955 | - | |
18 | The Clue of the Black Flower | 1956 | - | |
19 | The Winking Ruby Mystery | 1957 | - | |
20 | The Secret of the Swiss Chalet | 1958 | - | |
21 | The Haunted Lagoon | 1959 | - | |
22 | The Mystery of the Bamboo Bird | 1960 | - | |
23 | The Sierra Gold Mystery | 1961 | - | |
24 | The Secret of Lost Lake | 1962 | - | |
25 | The Mystery of the Stone Tiger | 1963 | - | |
26 | The Riddle of the Frozen Fountain | 1964 | - | |
27 | The Secret of the Silver Dolphin | 1965 | - | |
28 | The Mystery of the Wax Queen | 1966 | - | |
29 | The Secret of the Minstrel's Guitar | 1967 | - | |
30 | The Phantom Surfer | 1968 | - |
【参考】「少女探偵ナンシー」(金の星社 フォア文庫)
「ナンシーの活躍」(金の星社 フォア文庫)
「オルガンをひく亡霊」(読売新聞社 アメリカン・ジュニア・ミステリー・ブックス)
海外サイト「Nancy Drew」様
海外サイト「The Unofficial Nancy Drew Home Page」様