ジュール・ヴェルヌ
(Jules Verne)

　フランスのＳＦ小説家・冒険小説家で、「タイムマシン」「透明人間」、そして「宇宙戦争」などで有名なイギリスの小説家Ｈ・Ｇ・ウェルズとともにＳＦの開祖として知られているＳＦ小説界の巨匠です。

　フランスの首都パリから南西に400キロほど下った所にあるロワール河の河口に近い港町ナントで生まれますが、幼少の時期を人里離れた孤島で過ごしたこと、母親が船乗りの家系の出で当時交易が盛んであったナントを訪れる船乗りたちの冒険話などに盛んに耳を傾けていたこともあってか、少年の頃より未知の地への憧れや冒険心が強かったといいます。

　またエドガー・アラン・ポオの小説を愛読し、発明や発見というものに異常な興味を示し、地理学や天文学に打ち込み小遣い銭で古本を漁ったり望遠鏡を買ったりするなど、一途に物事に没頭する性格だったそうです。

　しかしナントの神学校付属から公立の中学校で学んだ後は、父親が法律家でヴェルヌはその長男であったこともあり、跡を継がせたいとの思いから父親の勧めで大学入学資格試験を受け、見事に合格すると1848年にパリへと出てきます。

　ところが当然法律の勉強をするように義務付けられていたはずが、バルザックやビクトル・ユーゴーなどの文豪が活躍していた時代のパリにいたことで、おのずと文学に関心を示すようになり、やがて「モンテクリスト伯（巌窟王）」や「三銃士」などのダルタニャン物語で有名な作家アレクサンドル・デュマ・ペールと知り合ったことがきっかけで作家を志すことと決心したのです。

　その後は家庭教師や劇場の事務員、株式仲買人の秘書の仕事をする傍ら戯曲や小説を書き続けていましたが、なかなか評判にはなりませんでした。

　しかしそんな中でもしばしば国立図書館に通い、自然科学の論文を読んでは近代科学の無数の発見に情熱を傾けていたといいます。

　やがて1862年に当時数多くの文化人や著名人の肖像を撮影して名を馳せていた写真家であり小説家のフェリックス・ナダールが建造中であった”巨人”という名前の気球に触発され冒険小説「気球に乗って五週間」を書き上げ、翌年刊行されるとこれが大評判となり一躍流行作家となったのです。

　それからは幼い頃から培ってきた地理学・天文学、そして自然科学への興味や、持ち前の想像力を如何なく発揮して”驚異の旅”シリーズと総称される空想科学小説を次々に発表。「地底旅行」「月世界へ行く」「海底二万里」「八十日間世界一周」など代表作をはじめ、その生涯に80編余りの小説と15の戯曲を残し、その多くは発表と同時に世界中で翻訳され、また少年向けの作品に書き直されたり、様々な映画やアニメ作品の原作となったりするなど広く親しまれています。ちなみに海外では科学上の発明を競い合っているアメリカとソ連（ロシア）に特に多数の読者を持っていたのだそうです。

　ヴェルヌの小説には気球や水上飛行機、潜水艦、月ロケットなどの様々な機械が登場しますが、彼の小説が”空想科学小説”と呼ばれていた通りそのどれもが実用化される前に小説の中に取り入れられていました。

　そのため当時ヴェルヌの小説は少年に誤った思想を与えると批判する人々もいたといいます。しかしそれらは現代において既に実用化されており、100年先の科学の姿をいち早く察知して科学技術進歩の先導的役割を果たしていたことは驚きと同時に高く評価されるべき事実です。