ハメットと並ぶ〈ブラック・マスク〉誌の代表的作家

USA ラウル・ホイットフィールド
(Raoul Falconia Whitfield)
〔別名 ラモン・デコルタ (Ramon Decolta)〕

グリーン・アイスicon
「グリーン・アイス」
(1930年)
(小学館)

 アメリカの推理小説家で、ハードボイルドの始祖と目されるダシール・ハメットやフィリップ・マーロウのシリーズで名高いレイモンド・チャンドラーとともに、1920~30年代のパルプ雑誌〈ブラック・マスク〉で活躍した人気作家の一人です。

 伝説の鉄鋼王として知られ音楽の世界の殿堂であるカーネギー・ホールを寄進したことでも知られるアンドリュー・カーネギーと縁のある裕福な家庭に育ち、幼少の大半を父親の仕事の都合からフィリピンで過ごしたといいます。

 その後アメリカに戻ってからは無声映画の役者として活躍していましたが、第一次世界大戦の際には志願して空軍のパイロットとして活躍。除隊後はピッツバーグにて鉄鋼業を学んでいましたが、ほどなく新聞業界に転職し、〈ピッツバーグ・ポスト〉紙の記者生活を経て作家活動に専念するようになります。

 1922年に短編「留め針」が〈コールドロン〉という雑誌に掲載されたのを皮切りに、しばらくは雑誌に航空冒険小説を寄稿していましたが、やがて1926年になるとパルプ雑誌として有名な〈ブラック・マスク〉に寄稿を開始。

ハリウッド・ボウルの殺人icon
「ハリウッド・ボウルの殺人」
(1931年)
(小学館)

 同雑誌の伝説的な敏腕編集長として知られていたジョゼフ・T・ショウの後押しもあって、1926年から1934年までの8年間で計155編の短編を書き、そのうち88編が〈ブラック・マスク〉に掲載され、まさしく花形作家として大活躍を見せました。

 それらの作品の中でも人気を集めたのは、少年期の大半を過ごしたフィリピンのマニラを舞台に活躍するフィリピン人探偵ジョー・ガーのシリーズで、異国情緒に溢れた作品群は、のちにエラリー・クイーンの手によって〈エラリー・クイーンズ・ミステリマガジン(EQMM)〉にもその作品が再録されるほどでした。

 またダシール・ハメットとは同雑誌に作品を掲載するよきライバルである同時に、飲み友達だったというほど特に親交が深かったそうです。

 この点ハメットの代表作「マルタの鷹」が〈ブラック・マスク〉での連載を終了した直後に同雑誌で連載されたハードボイルド長編「グリーン・アイス」は、ハメット自身の書評の中で、「プロットは問題ではない…肝心なのはこの280ページに及ぶむき出しのアクションが非情(タフ)なまでの簡潔な文体で打ち出され、ハンマーで打つようなスタッカートの筆致で書かれていることだ…」と絶賛されています。

 その後もう一つの代表作である「ハリウッド・ボウルの殺人」を書き上げた後、ほどなくハリウッドに招かれて脚本家として活躍し始めますが、無茶な生活習慣や数回に及ぶ離婚、夫人の自殺などの不幸が重なって体調を崩し、ハメットから援助を受けながらの入院生活の甲斐もなく、1945年に47歳の若さで他界しています。


■作家ファイル■

出身地
アメリカ、ニューヨーク
生没
1898年~1945年(47歳)
作家としての経歴
1922
〈コールドロン〉誌の1922年11月号に短編「留め針」が掲載される(確認できる最初の作品」
1926
パルプ雑誌として有名な〈ブラック・マスク〉誌の1926年3月号に短編「Scotty Trouboles Trouble」が初めて掲載される(以後1934年2月号まで計87編、10シリーズの作品が同雑誌に掲載される)
1930
〈ブラック・マスク〉誌の同年1月号~2月号に掲載されたハードボイルドの長編「グリーン・アイス」を刊行
1931
〈ブラック・マスク〉誌の1930年9~11月号に連載された長編「ハリウッド・ボウルの殺人」を刊行(1933年には、同作品の主人公ベン・ジャーディンの登場する2短編を〈ブラック・マスク〉に発表)
1932
ドナルド・フリーの活躍する短編シリーズを〈ブラック・マスク〉に発表。翌1933年に「Private Detective 62」のタイトルで映画化される
1937
1930年代前半にフランスに移住し、30年代半ばに病気のため作家生活を停止(1937年発表のジョー・ガーもの短編「奇術師の死」が最後の作品だと思われる)
他に4編の飛行機もののジュヴナイル作品を発表している
2002
キース・アラン・デューシュの編纂で人気シリーズだったフィリピン人探偵ジョー・ガーものの作品をまとめた短編集「Jo Gar's Casebook」が刊行
シリーズ探偵
島の探偵ことマニラ警察刑事ジョー・ガー (Jo Gar, the Island Detective)
私立探偵ベン・ジャーディン (Ben Jardinn)(1長編と2短編に登場)
スパイ兼私立探偵のドナルド・フリー (Donald Free)
代表作
「グリーン・アイス」
「ハリウッド・ボウルの殺人」

■著作リスト■

1 島の探偵ジョー・ガー登場作品リスト

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 Jo Gar's Casebook: Tales from the Black Mask Morgue 2002 - キース・アラン・デューシュ編
1 West of Guam 1930 -
2 Death in the Pasig
パシイ河に死す
探偵倶楽部'56.4(7-4) 邦訳はレイモン・デコルタ名義
3 Red Hemp -
4 Signals of Storm -
5 Enough Rope -
6 The Caleso Murders -
7 Silence House 1931 -
8 Shooting Gallery -
9 The Javanese Mask -
10 The Black Sampan
黒いサンパン
HMM'86.4
11 The Siamese Cat
シャム猫の謎
1932 国書刊行会 ブラック・マスクの世界3「ブラック・マスクの栄光」('86) 邦訳はデコルタ名義
12 The China Man
チャイナ
HMM'70.7
13 Climbing Death -
14 The Magician Murder -
15 The Man from Shanghai 1933 -
16 The Amber Fan -
17 The Mystery of the Fan-Backed Chair 1935 -
18 The Great Black
奇術師の死
1937 新青年'39夏季増刊

2 その他の作品

【長編】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 グリーン・アイス 1930 小学館 クラシック・クライム・コレクション('02)
2 ハリウッド・ボウルの殺人 1931 小学館文庫 ミステリー・クラシック・シリーズ('00) ベン・ジャーディン
3 The Virgin Kills
(ヴァージン号の殺人)
1932 -

【テンプル・フィールド名義の長編】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 Five 1931 -
2 Killer's Carnival 1932 -

【邦訳中短編】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 The Pin
留め針
1922 EQ'95.9 最初期に発表された作品
2 Sinner's Paradise
罪人たちの楽園
1929 HMM'05.6
3 Mistral
ミストラル
1931 EQ'81.11
4 Inside Job
内部の犯行
国書刊行会 ブラック・マスクの世界4「忘れられたヒーローたち」('86)
5 Dead Men Tell Tales
死人に口あり
EQMM'61.11
6 Blue Murder
青い殺人
EQMM'62.12 ドナルド・フリー

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