フランス新聞連載小説の第一人者

FRA ユージェーヌ・シュー
(Eugène Sue)

パリの秘密
「パリの秘密」
(1843年)
(集英社)

 フランスの小説家。ウージェーヌ・シュー、ウジェーヌ・シューとも表記。1804年にパリに生まれ、有名なジョセフィーヌ皇后と彼女の息子のウージェーヌ・ド・ボーアルネ公爵がその名付け親になったといいます。「ウージェーヌ」という筆名はここから取ったものと考えられています。

 ボナパルト高等学校で学んだ後、父親の勧めで21歳の時にフランス海兵隊に入隊し、外科隊長の資格でトルコ戦争にも参加しました。

 そして1929年に除隊すると、フランスの社交界に入りますが、生活費を稼ぐために軍隊での海洋生活の経験をもとに「ブリックとブロック」や「山椒魚」などの海洋小説を書き、続いて上流社会の裏側を暴いた諷刺小説「アルチュール」や「レタリエール侯爵」などの作品を発表していきます。

 そして1842年になると、当時フランスの新聞紙上で流行していた連載小説の執筆を最大手の新聞であった〈ジュルナール・デ・デバ〉紙から要請され、翌1843年にかけて一大長編を発表することになります。それが「パリの秘密」の秘密でした。

さまよえるユダヤ人
「さまよえるユダヤ人」
(1844年)
(角川書店)

 「パリの秘密」は波瀾に富んだ筋の運びと個性的で魅力溢れる登場人物たちの活躍を売りものとする大衆小説ですが、連載が開始されるやいなやたちまち大評判となり、新聞社の前には毎日のように物語の続きを待ちかねた読者の群れが押し寄せていたといいます。

 続いて発表された「さまよえるユダヤ人」も同様に大変な人気を勝ち得、シューは一躍人気作家となったばかりか、1950年には人民の代表者として立法議会の議員にも選出されています。

 そしてこの「パリの秘密」の成功を契機にフランスでは更に新聞連載型の大衆小説が盛んになり、デュマの「三銃士」と「モンテ=クリスト」や女流作家ジョルジュ・サンドの活躍に大きな影響を与えたと言われています。

 またヴィクトル・ユーゴーをしてあの名作「レ・ミゼラブル」がこの作品の影響を受けて書かれたものだと言わしめ、ドストエフスキーの「白痴」や「カラマゾフ兄弟」の一場面もこの作品にヒントを得たものであると言われています。


■作家ファイル■

本名
マリー=ジョセフ・シュー (Marie-Joseph Sue)
出身地
フランス、パリ
学歴
ボナパルト高等学校卒
生没
1804年1月20日~1857年8月3日
作家としての経歴
1830
この頃から、自らの海洋生活の体験をもとにした海洋小説や世間を諷刺した風俗小説を発表し始める
1842
この年から1843年にかけて、〈ル・シエークル〉紙上に、新聞連載小説として「パリの秘密」の連載を開始
(注)「パリの秘密」の連載紙ですが、角川文庫版の「さまよえるユダヤ人」の解説には〈ジュルナール・デ・デバ〉紙とありますが、東京創元社の世界大ロマン文庫版には〈ル・シエークル〉紙とあり、どちらが正しいのか今現在の資料では判断しかねるということはご承知下さい
シリーズ探偵
なし
代表作
「パリの秘密」
「さまよえるユダヤ人」

■著作リスト■

【長編】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 Kernock le pirate 1830 -
2 Plick et Plock
(プリックとプロック)
1831 - 海洋小説
3 Atar-Gull -
4 La Salamandre
(山椒魚)
1832 - 海洋小説
5 La Vigie de Koat-Ven 1833 -
6 Histoire de la marine francaise 1835 -
7 Lautreaumont
(レタリエール公爵)
1837 -
8 Arthur
(アルチュール)
1838 - 社会派小説
9 Les Fanatiques des Cevennes 1840 -
10 Mathilde ou les Memoires d'une jeune femme
(マチルド)
1841 - 風俗小説
11 Therese Dunoyer 1842 -
12 Le Morne-au-diable
(英 The Female Bluebeard)
-
13 パリの秘密
(巴里の秘密)
(巴里秘話)
1843 集英社 世界の名作・別巻2(4分冊)('71)
東京創元社 世界大ロマン全集15('57)
大泉書店 新選世界大衆文学全集3('49)
改造社 世界大衆文学全集12('29)
新青年'28夏季増刊
新青年'22.7-8
集英社版は完訳版
それ以外は全て抄訳
14 さまよえるユダヤ人
(青銅のメダル)
1844 角川文庫(上下)('52)
白水社(2分冊)('21)
15 Martin, l'enfant trouve
(英 Martin the Foundling)
1847 -
16 Les sept peches capitaux
(英 The Seven Deadly Sins)
1849 -
17 Les Mysteres du peuple
(英 The Mysteries of the People)
(民衆の秘密)
1857 - シューの遺作
18 The Gold Sickle
(Hena, the Virgin of the Isle of Sen)
1904 - 原題不明
19 The Infant's Skull
(The End of the World)
-
20 The Brass Bell
(The Chariot of Death)
1907 -
21 The Iron Collar
(Faustina and Syomara)
1909 -
22 The Iron Pincers
(Mylio and Karvel)
-

【邦訳短編】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 ブリュラール船長の実人生 1842 白水社「フランス幻想文学傑作選1 非合理世界への出発」('82)

【関連書】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 『パリの秘密』の社会史
―ウージェーヌ・シューと新聞小説の時代
1842 新曜社('04) 小倉孝誠著

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