出版 |
早川書房
ハヤカワ・ライブラリ |
ジェイムズ・ボンド─イギリス海外秘密情報部員007号の名はいまや世界のすみずみにまで知れわたっている。”007号シリーズ”は、世界各国を席巻して、驚くべき読者数を獲得するにいたった。しかも、たんなる読書界の話題としてばかりでなく、きわめて具体的な社会的、文化的現象とさえもなっている。ボンドが巻きおこす、こうした現象を通じて、自分自身の文学者社会についての意見を述べようとする著者の試みは、ここに見事に開花し、結実している。だが、けっして真っこう上段からふりかぶったジェイムズ・ボンド論ではない。フレミングに傾倒し、熱烈なファンである著者は、世間一般の無責任な非難には弁護の手をさしのべ、共鳴するところには惜しみなく讃辞を呈し、誤りは容赦なく指摘して、終始文学的共感を低音に、暖い思いやりをこめて現代のお伽噺の主人公を追っていく。 まず、ボンドの肩書、秘密情報部員にはじまって、文学史上の素姓調査、ドレッサーとしてのボンド、煙草、酒、彼の職業には欠くことのできない肉体的条件、作品に華やかな色彩をそえる女性関係、敵対する悪玉、活躍する舞台と科学的装備などが、説得力のある豊富な引用例と詳細をきわめた註釈とで語られる。この現代的ヒーローは、万が一つにわれわれも……という夢想と現実の中間存在に、人気を博する秘密がありはしまいか……。 ”怒れる若者たち”の旗手であり、現代英国文壇きっての鬼才エイミスは、冷酷なまでの徹底さでボンドの全冒険に分析のメスをふるっている。007号ファン必読の名著! |