出版 |
早川書房
ハヤカワポケットミステリ 976 |
男は走りつづけた。凍てつく寒気のなかを、汗びっしょりになって。泥のような疲労が、毒でも浸みとおるように五体のうちにひろがっていく。男は精も根も尽き果てたといった格好で、マツの根かたに腰を落とした。数分のあいだ息を殺して、耳をそばだてた。やがて、彼は音を聞いた。ざわざわいう奇怪な音。なにか巨大なけものと思われるものが、茂みを押しわけ、突進してくる。なにかが闇のなかに、彼を追ってくる。……ついに、その足音をすぐ背後に聞くことになった。そして突然、小径の前方には巨大な黒い影が……
アンクルのウェーバリー部長は、ジェネヴァから届いたばかりの至急電報を見て、顔をしかめた。ニューヨークからブダペスト支部に出張中のアンクル機関員─ソロやクリヤキンの同僚のカールが謎の死を遂げたことを伝えていたのだ。中央ルーマニアで発見されたその死体の喉に、針で突いた程度の小さな痕以外、外傷は何もなかった。しかも死体には一滴の血も残っていなかった! いったい何者? はたして、ルーマニアに伝わる吸血鬼伝説のその吸血鬼が現実に現われたのか? ソロとクリヤキンは、彼等の名誉にかけて、急遽ルーマニアに飛んだのだが……! 恐怖のどん底に叩き込む戦慄のソロ・シリーズ第8弾! |