〈手がかり索引〉の趣向を凝らした作品で有名
アメリカ本格黄金時代の作家で、本業は心理学者。人物描写や雰囲気を描くことは若干苦手としていたものの、卓越したプロットと、奇妙な謎を作り上げることにかけては、本格時代の巨匠とされるアガサ・クリスティーや、エラリー・クイーン、ジョン・ディクスン・カーに匹敵するものを持っていたと評されている作家です。
ニューヨークに生まれ、第一次世界大戦に従軍した後、広告代理店の会計係、繊維業などの職業経験を経て、コロンビア大学とイェール大学で心理学の研究に従事しますが、その研究のかたわら1932年頃から本格謎解き志向の強い推理小説を何作か発表しました。第二次世界大戦後は推理小説の世界からは完全に離れ、再び心理学の研究に戻っています。
この点彼の発表した本格推理小説で特筆すべきは、何といっても”手がかり索引”の趣向を最初に導入した点にあります。
これは解決部分で用いられた手がかりがどのページで与えられていたかを巻末部分にこと細かに提示するというもので、フェアプレイ精神の象徴であると同時に、パズル性・ゲーム性が高く、本格推理小説好きにはたまらないものと言えます。
シリーズ・キャラクターも複数創造しており、まず長編の方は6作品すべてにニューヨーク市警のマイケル・ロード警部が登場。
そのうち前半の三作はタイトルにすべて”オベリスト”という言葉が入ることから〈オべリスト三部作〉と呼ばれ、また後半の三作はタイトルが順にABCの順番で始まることから、〈ABC三部作〉と呼ばれて本格ファンの間では親しまれています。ちなみに「オべリスト」とは「疑問を抱く人」を意味する作者の造語です。
他方短編の分野でも才能を発揮していて、こちらには不可能犯罪をこよなく愛するトレヴィス・タラント氏が登場。そして1935年に刊行された彼の登場する短編集「タラント氏の事件簿」は、エラリイ・クイーンが〈クイーンの定員〉選んで絶賛するほどの高い評価を受けています。
【参考】「空のオべリスト」(国書刊行会世界探偵小説全集)
「クイーンの定員Ⅲ」(光文社 光文社文庫)
「ハヤカワミステリマガジン1979年11月号」(早川書房)