アナトール・フランスを師と仰ぎ、文学の分野でも活躍した才人
フランスの作家。若い頃から19世紀末の大作家アナトール・フランスを師と仰ぎ、洗練された凝った文体とユーモアやウィットに溢れた作風で、ミステリだけでなく文学の世界や詩、評論、歴史、紀行、美術、児童書と多方面に渡って活躍した才人です。
またミステリ作家としてだけでなくミステリ評論の分野でも活躍したフランス・ミステリ界の巨匠ボアロー&ナルスジャックの1964年の評論書「Le Roman Policier」では、フランスミステリ界の巨匠ジョルジュ・シムノンと同じぐらいのページを割き論じられているほどの作家でもあります。
1901年フランスの首都パリに生まれ、1928年に少年時代の想い出を綴った自伝的作品「Le Point du Jour」で作家デビューを果たします。
その後1930年からは、彼の作品中で一貫してテーマとして扱われている”人間の生と死”に現実の社会問題を絡めた、ルノワールやロマン・ロランがモデルともいわれる大作「フィリップ・ドニの生涯 (La Vie de Philippe Denis)」の三部作をスタートさせ、これにより作家としての地位を確固たるものとしました。
1940~44年、第二次世界大戦におけるドイツ占領下ではレジスタンスとしても活躍し、1952年にはそれまでの功績が評価されてフランス文芸家協会大賞を受賞。
また映画やクラシック、ジャズ音楽などの愛好家でもあったらしく、1955年にはラジオ台本の「C'est vrai, mais il ne faut pas le croire(本当だけれど、信じられない)」でこの世界の最高の賞とされるイタリア賞を受賞するなど、各方面で華々しい活躍を見せています。
ミステリの世界に進出したのは1932年発表の長編「ブロの二重の死」でのことで、これは後にフランス推理小説界の巨匠と謳われるジョルジュ・シムノンがデビューした翌年のことでした。
元々アヴリーヌ自身、古今のミステリを数多く読破しているほどのミステリファンだったらしく、この作品はフランス・ミステリにしては珍しく、謎解きの趣向を綿密に凝らした本格仕立てのミステリに仕上がっています。
その後も数冊のミステリの続編を発表していますが、この中では第1作で殺されたはずのブロが再登場を果たしていて、いわば連作長編の趣を呈しています。
これはアヴリーヌ自身、当初ミステリは1作しか書くつもりはなかったためのようで、イギリスの作家E・C・ベントリーが1913年に発表した本格黄金時代の幕開けを告げる名編「トレント最後の事件」を発表したのとよく似た事情があったためと思われます。
そういうこともあってか後に刊行された5冊のミステリ作品は、アヴリーヌの意向により順番が並べ替えられて刊行されており、わが国でも第3作「U路線の定期乗客」と第1作の「ブロの二重の死」が邦訳されていますが、同様に順番を差し替えて読むことをお勧めします。
ちなみにフレデリック・ブロの登場する一連のシリーズは好評を博し、著者自身の手によって40回のテレビドラマとしても放映されているそうです。
メルキュール・ド・フランス社より刊行された新版では
アヴリーヌの意向により3・2・4・5・1の順番に並べ替えられて刊行されています
No. | 事件名 | 発表年 | 邦訳 | 備考 |
1 | ブロの二重の死 | 1932 | 創元推理文庫168-2 | 邦訳は《二重のノート》が付けられた1962年刊行の決定版 |
2 | Voiture 7 Place 15 (七号車一五座席) |
1937 | - | |
3 | U路線の定期乗客 | 1947 | 創元推理文庫168-1 | |
4 | Le Jet d'Eau (噴水) |
- | ||
5 | L'Æil-de Chat (猫目石) |
1970 | - |
No. | 事件名 | 発表年 | 邦訳 | 備考 |
1 | Madam Maillart (マイヤール夫人) |
1930 | 1955 |
- | |
2 | Les Amours et les Haines | - | ||
3 | Philippe | - |
No. | 事件名 | 発表年 | 邦訳 | 備考 |
1 | 黒ちゃん 白ちゃん (ババ・ディエーヌと角砂糖ぼうや) |
1937 | 岩波少年文庫1014('76) 岩波少年文庫139('57) |
No. | 事件名 | 発表年 | 邦訳 | 備考 |
1 | ピエトルモンの夜 | 早川文庫102-2「心やさしい女─フランス・ミステリ傑作選2」('85) |
No. | 事件名 | 発表年 | 邦訳 | 備考 |
1 | Le Point du Jour | 1928 | - | アヴリーヌのデビュー作 自伝的小説 |
2 | エジプト散策 | 1934 | - | |
3 | 囚われの人 | 1936 | - | |
4 | Le temps mort ル・タン・モォール (浪費させられた時間) |
1945 | 朝日出版社('92) | |
5 | 精神の義務 | - | ||
6 | Trente ans de vie sociale (社会生活三十年) |
1949 | - | 評論集 全2巻 |
7 | ペゴマンシー | - | ||
8 | それ以外はすべて虚無 | 1951 | - | |
9 | 人間の最後の言葉 | 1957 | ちくま文庫('93) 筑摩書房 筑摩叢書4('63) 六興出版部('59) |
歴史上の著名人が遺したダイイング・メッセージの集成 |
【参考】「U路線の定期乗客」(東京創元社 創元推理文庫)
「人間の最後の言葉」(筑摩書房 ちくま文庫)