夫婦ともども学者としても著名な人物
イギリス黄金時代を代表する夫婦合作の本格作家。ともに作家としてだけでなく学者として著名な人物でした。夫ジョージは経済学・政治学・社会学の専門家であり、妻のマーガレットは結婚・労働問題に明るかったといいます。
ともにミステリ以外にも多数の著作がありますが、ミステリ作家として知られるようになったのは1923年、夫のジョージが病気療養中に単独で書いた「ブルクリン家の惨事」を発表してからであり、第2作で代表作でもある1928年発表の「百万長者の死」以後は夫婦の合作という形でミステリを発表するようになりました。
夫ジョージ・ダグラス・ハワード・コールはロンドンに生まれ、セントポール学校やオックスフォード大学で学び、大学卒業後も大学に留まって、1925年以後はオックスフォード大学教授となります。
彼は少年時代から社会主義運動に参加しており、教授就任後も大学の社会主義者協会の会長を務めています。第二次世界大戦でファシズムが台頭すると自由主義者や共産主義者らと共同で人民戦線運動を提唱し、反ファシズムの活動に腐心しました。
また18歳から加入したフェビアン協会の外郭団体フェビアン調査局の名誉書記長となり、終戦直後からは両者が合同してできた新フェビアン協会の理事長も務めています。
このように経済学者としては名の知れていた彼がミステリ作家になったきっかけというのは、同じ黄金時代の代表的作家S・S・ヴァン・ダインやF・W・クロフツと同じく病気療養中の徒然を紛らわせるためであったといいます。
妻マーガレット・イザベル・ポストゲートはケンブリッジ大学教授J・P・ポストゲートの娘で、彼女の弟にあたるのが法廷ミステリの傑作として名高い「十二人の評決」のレイモンド・ポストゲートです。
ケンブリッジ大学で学び、1916年から29年まで労働研究所に勤め、その間の1918年にジョージ・ダグラス・ハワードと結婚しています。 その後はロンドン大学、夫が会長を務めるフェビアン協会と職場を変えていきました。
ちなみに二人は趣味や教養の面でも相通ずる部分が多く、文筆活動でも共同作業が多かったといわれ、彼らがどうやって合作をしていたのかは明確には分かっていませんが、夫ジョージが考えたプロットを元に妻マーガレットが実際に執筆をしていたと言われています。
No. | 事件名 | 発表年 | 邦訳 | 備考 |
1 | Death of a Bride | 1945 | - | |
2 | 未亡人殺人事件 | 1948 | 六興出版部 六興推理小説選書110「謎の兇器」('57) | 短編「In Peril of His Life」の中編化 |
3 | Fatal Beauty | - | 短編「Fatal Beauty」の中編化 | |
4 | 謎の兇器 | 六興出版部 六興推理小説選書110「謎の兇器」('57) | 短編「The Toys of Death」の中編化 |
No. | 事件名 | 発表年 | 邦訳 | 備考 | |
1 | Mrs. Warrender's Profession | 1938 | - | ||
1 | The Mother of the Detective 探偵の母 |
HMM'77.6 新青年'34新年特大 |
再録 ヘンリー・ウィルスン警視との共演 |
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2 | Death in the Sun | - | |||
3 | The Toys of Death | - | |||
4 | Fatal Beauty | - | |||
5 | In Peril of His Life | - |
No. | 事件名 | 発表年 | 邦訳 | 備考 |
1 | The Blatchington Tangle | 1926 | - | ヘンリー・ウィルスン警視との共演 |
2 | Burglars in Bucks (米 The Berkshire Mystery) |
1930 | - | ヘンリー・ウィルスン警視との共演 |
3 | Death of a Star 女優怪死事件 |
1932 | 筑波書林 ロック'46.3-5 (翻訳権の問題で中絶) |
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4 | Death in the Quarry (石切場の死) |
1934 | - | ヘンリー・ウィルスン警視との共演 |
5 | Scandal at School (米 The Sleeping Death) |
1935 | - |
No. | 事件名 | 発表年 | 邦訳 | 備考 |
1 | Disgrace to the College | 1937 | - |
No. | 事件名 | 発表年 | 邦訳 | 備考 |
1 | The Murder at Crome House | 1927 | - | |
2 | The Affair at Aliquid | 1933 | - | |
3 | Knife in the Dark | 1941 | - |
No. | 事件名 | 発表年 | 邦訳 | 備考 |
1 | 漂う提督 | 1931 | 早川文庫73-1 HMM'80.7-9 |
No. | 事件名 | 発表年 | 邦訳 | 備考 |
1 | The Missing Baronet | 1943 | - | |
2 | Strychnine Tonic, and A Dose of Cyanide | 1943 | - | |
3 | Strychnine Tonic and other stories | 1943 | - |
No. | 事件名 | 発表年 | 邦訳 | 備考 |
1 | The Anatomy of Murder (殺人事件の解剖) |
1936 | - | セイヤーズ、クロフツ、アイルズ、ロード、M・コールら7人の作家がそれぞれ実在の犯罪事件を推理 |
すべてG・D・H・コール単独
No. | 事件名 | 発表年 | 邦訳 | 備考 |
1 | A Short History of the British Working Class-Movement 1789-1927 英国労働階級運動略史 |
1927 | 巌松堂書店('27) | |
2 | The Next Ten Years in British Social and Economic Policy 経済の国家統制 |
1929 | 千倉書房('31) | |
3 | Principles of Economic Planning 計画経済の原理 |
1935 | 育生社('40) | |
4 | Chartist Portraits チャーティストたちの肖像 |
1941 | 法政大学出版局 りぶらりあ選書('94) | |
5 | A Century of Co-Operation 協同組合運動の一世記 |
1944 | 家の光協会('75) | |
6 | Socialist Economics 社会主義経済学 |
1950 | 岩波現代叢書('52) | |
7 | Essays in Social Theory 政治・教育・倫理:新社会理論 |
1950 | 誠信書房('59) | |
8 | A Short History of the British Working-Class Movement, 1789-1947 イギリス労働運動史1~3 |
1948 | 岩波現代叢書('52,'53,'57) | |
9 | Introduction to Economic History, 1750-1950 経済史入門 1750-1950 (産業革命から原子力へ:1750-1950) |
1952 | みすず書房('56) みすず書房('55) |
|
10 | An Introduction to Trade Unionism 労働組合入門 |
1953 | 有斐閣('58) | |
11 | The Case for Industrial Partnership 労働者 その新しい地位と役割 |
1957 | 紀伊国屋書店('57) | |
12 | Socialism and Fascism, 1931-1939 社会主義とファシズム |
1960 | ダイヤモンド社('74) | |
13 | 産業自治論 | 平凡社 社会思想全集35('29) | ||
14 | 世界恐慌と英国の対策 | 森山書店('32) | ||
15 | 政治理論と経済理論との交渉 | 巌松堂書店('44) | ||
16 | 貨幣・その現在と将来 | 実業之日本社('51) | ||
17 | 社会理論 | 河出書房新社 世界思想教養全集「イギリスの社会主義思想」('63) |
No. | 事件名 | 発表年 | 邦訳 | 備考 |
1 | The Life of G. D. H. Cole | 1971 | - | マーガレット・コール著 |
【参考】「百万長者の死」(東京創元社 創元推理文庫)