マージェリー・アリンガム
(Margery Louise Allingham)
〔別名　マックスウェル・マーチ (Maxwell March)〕

　イギリスの女流本格作家で、欧米ではミステリーの女王アガサ・クリスティーやドロシー・Ｌ・セイヤーズ、ナイオ・マーシュと並んで英国女流推理作家〈ビッグ４〉と称される程知名度の高い作家です。

　代々文筆家という家柄に生まれ、早熟で16歳の頃からすでに長編小説を書いていたといいます。鋭い心理描写とテンポのよい文章で、彼女の作品はミステリ作品としてだけではなく、文学的にも高く評価されているのが大きな特徴です。

　1927年に画家のフィリップ・ヤングマン・カーター (Youngman Carter) と結婚しますが、彼は彼女の本の装丁を手掛けたり、また創作の上でも助言をしたりと、彼女の作家生活を影で支え続けていたといいます。そしてアリンガムの没後は、彼女の未完のまま残された遺稿も完成させています。

　彼女は1923年のデビュー以来順調に作品を発表し、数多くの作品を残していますが、その中でも特に優れた作品として挙げられるのが、1936年に発表した長編「判事への花束」です。

　ちなみにこの作品は江戸川乱歩の1935年以降の海外長編ベスト10で、フランシス・アイルズの「殺意」、リチャード・ハルの「伯母殺人事件」に次ぐ第３位にランキングされています。

　その他にも1952年に発表し、1956年に本国イギリスで映画化もされた長編「霧の中の虎」や、1958年に発表し、イギリス推理作家協会（ＣＷＡ）のシルヴァー・ダガー賞も獲得した長編「殺人者の街角」などが彼女の代表作とされています。

　また長編だけではなく短編にも優れた作品を数多く残していて、1939年発表の第２短編集「キャンピオン氏ほか」は、エラリー・クイーンの手によりクイーンの定員にも選ばれました。

　アリンガムはマイケル・イネスやナイオ・マーシュらの同時代の作家と同じく、日本での紹介は遅れ、今日まで不遇な扱いを受けていました。しかし最近になって、ハヤカワポケットミステリで代表作の一つである前述の「霧の中の虎」が邦訳され、国書刊行会の世界探偵小説全集から「屍衣の流行」が邦訳予定と、徐々にまた彼女の作品は再評価されて陽の目をみるようになってきています。