戦前〈新青年〉で人気を博した北欧の本格作家
北欧スウェーデンの小説家で、画家、南極探険家としても有名な人物。「コリン氏物語」で欧米でも有名なフランク・ヘルレルとともに同国の探偵小説界においては双璧ともいえる存在です。
詳しい経歴までは判明していないのですが、本職は軍人だったらしく、軍事学校で学んだ後1901年から1903年まで南極探検隊に気象官、地図作成者として参加。その体験をもとに1905年に「ペンギンとアザラシの間で」を発表します。
ミステリ作家としては1917年に長編「スミルノ博士の日記」を発表していますが、これは叙述トリックの名作として日本の本格ファンの間ではよく知られています。
他にも第二次大戦前においては、雑誌〈新青年〉などを中心に数多くの邦訳がなされていて、当時翻訳されていた海外作家の中ではL・J・ビーストンやP・G・ウッドハウス、ジョンストン・マッカレーなどとともに人気作家の一人に数え上げられる程でした。
もっとも前述のコルレルとは対照的に、ドゥーゼの作品はドイツ語圏では紹介されたものの英語圏ではほとんど(全く?)紹介されなかった作家でした。
にもかかわらずなぜ日本においてこれだけ作品が紹介され人気を集めたのか不思議に思える所ですが、これはドゥーゼ作品の全て(?)の翻訳を担当した翻訳家の小酒井不木氏が、当時ドイツに滞在していた知り合いの科学者、古畑種基博士と手紙のやり取りをする中で、博士に探偵小説を読むように勧め、同時に真新しい探偵小説があれば紹介して欲しいと話していたことが紹介のきっかけだったそうです。
そのような二人の手紙でのやり取りを経て、ドイツ滞在中の古畑博士から送られてきたのが、他でもない「スミルノ博士の日記」だったのでした。
もっとも戦前、数少ない本格作家として高い人気を集めた彼の作品も、1920年以降に登場し、本格黄金時代を築き上げたアガサ・クリスティーやF・W・クロフツなどの新進の本格作家の台頭とともに忘れられた存在となり、第二次大戦後は邦訳もほとんどなく、現在はその作品の大半が入手が困難になっています。
No. | 事件名 | 発表年 | 邦訳 | 備考 |
1 | ペンギンとアザラシの間で | 1905 | - | 自身の南極探検を題材にした旅行記、原題不明 |
【参考】「世界探偵小説全集13 ドゥーゼ集」(博文館)
「海外探偵小説作家と作品」江戸川乱歩著(早川書房)