ホームズも絶大な信頼を寄せる少年・少女探偵たち
ベイカー少年探偵団
(Baker Street Boys)
「消えた名探偵」
(2005年)
(評論社)
アーサー・コナン・ドイルの生み出した名探偵の代名詞ともいえるシャーロック・ホームズのパスティーシュで、ホームズ譚にも登場する”ベイカー・ストリート・イレギュラーズ”と呼ばれる少年たちを主人公に据えて描かれたシリーズ。
元々はイギリスのBBC放送が1983年に放映したTVドラマで、それを番組のプロデューサーで脚本家の一人でもあったアンソニー・リードが当時の台本を元に小説化して発表。2005年よりウォーカー・ブックスより全6話が刊行され、日本でも評論社により発売される予定になっています。
このシリーズで主人公を務める探偵団たちのモデルになっているのは、元々ドイルの原作に実名で登場するウィギンズ少年をリーダーとする浮浪児の集団”ベイカー・ストリート・イレギュラーズ”で、これを作中では〈ベイカー少年探偵団〉と改め、メンバーを7人に増やして全員に名前がつけられています。
そして彼らには豊かな個性を活かした活躍の場がそれぞれに与えられ、それぞれの持ち味を発揮して物語を大いに盛り上げるとともに絶妙なチームワークで次々と難事件を解決していきます。
「さらわれた千里眼」
(2006年)
(評論社)
そんな彼らのことを、”人は警官の制服を見ただけで口を閉ざしてしまうが、少年たちには気を許すので彼らはどこへ行っても秘密を探ることができる”と言ってホームズ自身もとても頼りにしています。
ちなみに著者のアンソニー・リードは1935年にイギリスのキャノックに生まれ、ロンドン朗読演劇学校で学んだ後、18歳で劇団に入り俳優のマネージャーとなったのを皮切りに広告業界や新聞雑誌、出版界で活躍。またTVプロデューサーとして数々の番組を手掛け、子供向けのSFドラマとして有名な〈ドクター・フー〉シリーズなど200を超えるTV映画やドラマなどの著作権を持っているそうです。
後に作家としても活躍するようになり、「水晶の夜事件(Kristallnacht)」というノンフィクション作品でH・H・ウインゲート賞を受賞するなど、幅広い分野で活躍している人物です。
■原作■
アンソニー・リード
(Anthony Read 英 1935- )
■人物ファイル■
- 職業
- 〈ベイカー街遊撃隊(イレギュラーズ)〉と名づけられた非公認ではあるものの警察のベイカー街分署。ホームズの捜査に協力する時はこの名前を使っている
しかし普段はもっぱら〈ベイカー少年探偵団〉を名乗る。メンバーは最初男3人で出発したが、現在は男4人女3人の7人で組織されている
- メンバー紹介
-
- ウィギンズ
(Arnie Wiggins)
- 探偵団のリーダーでチームの指揮を執る。唯一ドイルの原作にも名前が登場する。
探偵団の中では一番の年上で自分では14歳くらいだと思っているが、本当のところは分からないらしい。家が火事で焼けて両親と兄弟姉妹が犠牲になって以来、ずっと路上生活をしている。その時の夢を見ることもあるが、元々が明るく元気な性格のため、黒いもじゃもじゃ頭に澄んだ目をしてよく笑う。また探偵団の仲間たちからは自然に指導者として慕われている
- ビーヴァー
(Beaver)
- 探偵団の副将格。ウィキンズの右腕で、いつもぴったり付き従っている。
おそらくウィキンズより一つ年下だが、体格はほぼ同じで力ははるかに強い。びっくりするほど重たいものを持ちあげる怪力の持ち主で、腕っ節にかけては探偵団随一。
いつ見てもリスの仲間の海狸(ビーヴァー)の毛皮でできている帽子を被っていることからそれがあだ名になった。ちなみにこの帽子はどこかのゴミ捨て場で見つけてきたもので、今ではすっかりお気に入りらしい。あだ名の動物にどことなく顔つきが似ており、働き者で愛嬌がある。
父親は船乗りだったがある東洋への航海で行方不明となり、それから間もなく母親は彼を捨てて姿をくらました。その後さる商人の養子になるが、粗末な食事で朝早くから夜中まで奴隷のようにこき使われ、寝袋は帳場下の古びた麻袋というひどい生活だったため、家を飛び出し、ウィキンズが兄貴分として彼の面倒を見るようになる。心の中では行方不明の父親が帰ってくるのを心待ちにしている。
- クイニー
(Queenie)
- ウィキンズと並ぶ探偵団の代表。彼とほぼ同い年で貫禄でも引けを取らない。子供の頃に母親が病気になり、代わりに家事をするようになって以来、人の世話をするのが性分のように身についたらしい。やがて母親が亡くなると父親は酒に溺れて暴力をふるうようになったため、実の弟のシャイナーとともに家を飛び出す。そして行く当てもなく暗い夜道でふるえていた所をウィキンズに助けられ、探偵団の一員として迎えられる。
本当は街に出てホームズの捜査を手伝ったりわくわくするような冒険をしてみたいと思ってはいるが、年下の子供たちはみな彼女を母親と仰いで頼り切っているため、みんなの世話を一手に引き受けている。中でも食事の支度は彼女が一手に引き受けていて、病気で亡くなった母親から教わったというその腕前は他の子供たちが逆立ちしてもかなわないほどの料理名人。特に手間をかけて作るシチューが天下一品らしい。
また母親は大の本好きだったらしく、読み書きを教わったことで彼女もすっかり本の虫となり、今では探偵団の仲間たちにも読み書きを教えている。
その一方で治世60年を迎え今なお世の中を収めているヴィクトリア女王を誇りに思っており、それもあって探偵団の”隠れ家”にはヴィクトリア女王の肖像がかけらている
- シャイナー
(Shiner)
- クイニーの実の弟。元々はアルバートという名前だったが、母親の死後酒に溺れ暴力的になった父親の元から姉のクイニーとともに飛び出して探偵団に迎えられる。
そしてほどなくパディントン駅で靴磨きの仕事を始め、その際名前もシャイナーと改める。今ではすっかりお気に入りの名前らしい。
年齢は11か12ぐらいで意地っぱりで身勝手な根っからの反逆児。激しい気性のために自分が損するばかりでなく、探偵団の仲間にも迷惑をかけることがあるが、反面勇気があって危険を恐れずいったん引き受けたことは責任をもってどんなに辛くても最後までやり抜く信念を持っている。
また頭が切れて耳ざとく、靴磨きの仕事のかたわら、客の話に耳を傾けて貴重な情報をつかむことも多々ある。
- スパロー
(Sparrow)
- ミュージックホールに出入りして、役者に出番を伝えたり雑用を引き受けたりする「コールボーイ」だが、いつか自分も花形コメディアンとして成功することを夢見ている。
そのための稽古と称して思いつくままにダジャレを連発する癖があり、探偵団の仲間を笑い転げさせることもあれば、あまりの寒い出来に物を投げつけられることも。
- ロージー
(Rosie)
- 花売り娘。カールした金髪に色白の細面、顔立ちの整った愛くるしい少女で、年齢は12かそこらだが傍目にはもっと幼く見える。
- ガーティ
(Gertie)
- 探偵団の中では一番の新米。緑色の目をした少女だが、赤味がかった金髪を短く切ってひざ下までのぼろズボンをはいており、ちょっと見には男の子と変わりない。また道端に停めた馬車が動き出さないように馬の首を押さえる駄賃仕事も男の子と同じにやってのける。
- 住所
- ”隠れ家”と呼んでいる探偵団たちの根城。住む人も絶えて久しい荒れ果てた古家の地下で、ベイカー街をはずれた横町からさらに細い脇道を入った奥にある。
出入り口は巧みに隠されているために、外部からは人が住んでいると悟られることなく大人の干渉を受けずに共同生活を送っている。
道端やゴミ置場に捨てられたがらくたを集めて調度品を整える。中でも一番の出来はウィキンズが自作した安楽椅子で、他の誰もが座ってはならない彼専用の椅子。込み入った難問にぶつかるとこの椅子で崇拝するホームズと同じように大きく曲がったパイプをくわえて推理する。ただし本当にタバコを吸うことはない(一度試したものの肺が破裂するかと思うほど咳き込んで苦しかったらしい)
安楽椅子の後ろにはクイニーが雑誌から丁寧に切り抜いたホームズの肖像が飾ってある。
- 協力者
- 名探偵のシャーロック・ホームズ (Sherlock Holmes)
ホームズの盟友で医師のジョン・H・ワトスン博士 (Dr. Watson)
ホームズの住む下宿屋の女将ハドスン夫人
レストレイド警部 (Inspector Lestrade)
- ライヴァル
- ハドスン夫人が雇っている下働きの少年で玄関番のビリー (Billy)
犯罪界のナポレオンと呼ばれるモリアーティ教授 (Prof. Moriarty)
- 事件簿
- 6長編(小説)
■関連リンク■
■事件ファイル■
【長編】
No. |
事件名 |
発表年 |
邦訳 |
備考 |
1 |
消えた名探偵 |
2005 |
評論社 児童図書館・文学の部屋('07) |
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2 |
さらわれた千里眼 |
2006 |
評論社 児童図書館・文学の部屋('07) |
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3 |
呪われたルビー |
評論社 児童図書館・文学の部屋('08) |
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4 |
ドラゴンを追え! |
2007 |
評論社 児童図書館・文学の部屋('08) |
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5 |
盗まれた宝石 |
2008 |
評論社 児童図書館・文学の部屋('09) |
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6 |
地下牢の幽霊 |
2009 |
評論社 児童図書館・文学の部屋('09) |
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【TVドラマ】
No. |
事件名 |
発表年 |
DVD |
備考 |
1 |
The Adventure of the Disappearing Dispatch Case 1 |
1983 |
- |
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2 |
The Adventure of the Disappearing Dispatch Case 2 |
- |
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3 |
The Ghost of Julian Midwinter 1 |
- |
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4 |
The Ghost of Julian Midwinter 2 |
- |
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5 |
The Adventure of the Winged Scarab 1 |
- |
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6 |
The Adventure of the Winged Scarab 2 |
- |
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7 |
The Case of the Captive Clairvoyant 1 |
- |
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8 |
The Case of the Captive Clairvoyant 2 |
- |
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【参考】「消えた名探偵 ベイカー少年探偵団1」(評論社)
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