名探偵はインディアン
アメリカのミステリー作家トニイ・ヒラーマンの〈ナヴァホ・ミステリー〉シリーズに登場する、二人の警察官探偵。
二人ともネイティブ・アメリカンとして知られるナヴァホ族出身の警察官です。そしてシリーズが進むについてリープホーンは退職し、チーは活躍が認められて昇進していきます。
この〈ナヴァホ・ミステリー〉シリーズは、アメリカ西部の4つの州にまたがるナヴァホ族保留地の荒々しい大自然を背景に、時として魅力ある二人の主人公の人間性や心理描写も織り交ぜながら興味深く事件の謎が展開されていく所にその特徴があります。
まず第1作から3作品に主人公として登場する年長のリープホーンは、ナヴァホ保留地の中心部ウインドウ・ロックの警察本部に勤務する大学卒のインテリ警察官で、冷静かつ論理的な推理力を持ち、その優秀な能力で伝説的刑事として関係者の間では知られている存在です。
ちなみに最愛の妻エマはすでにこの世を去っていますが、心の中では常に彼女の存在を感じて捜査に励んでいるようです。
一方第4作目から6作目に主人公として登場するジム・チーは、中心部から遠く離れたシップロック支署に巡査として勤務する若手警察官ですが、ナヴァホ族としての生き方に懐疑的なリープホーンとは対照的に、部族の「歌い手(ハターリ)」として、ナヴァホ族の文化と伝統を積極的に受け容れようとしている野心家の若者です。
この点二人は上司と部下の関係でもなければ勤務地もまったく異なり、元々は別々の作品に登場してそれぞれ活躍していました。ところが第7長編の「魔力」から両者が揃って作品に登場するようになり、事件において協力し合うようになります。
そして若くて行動的な美人弁護士に慕われるチー巡査と、中年に近いベテラン刑事のリープホーンの二人が同時に登場することによって、舞台はより一層賑やかになったと同時に作品全体にも奥行きが広がり、シリーズの人気もますます高くなったと言われています。
No. | 事件名 | 発表年 | 邦訳 | 備考 |
1 | 祟り (名探偵はインディアン) |
1970 | 角川文庫('71) 集英社 ジュニア版・世界の推理21('73) |
リープホーンのみ |
2 | 死者の舞踏場 | 1973 | 早川文庫ミステリアス・プレス89('95) 早川書房('75) |
MWA賞最優秀長編賞('74) リープホーンのみ |
3 | Listening Woman | 1978 | - | リープホーンのみ |
4 | People of the Darkness | 1980 | - | ジム・チーのみ |
5 | 黒い風 | 1982 | 早川文庫ミステリアス・プレス41('91) | ジム・チーのみ |
6 | The Ghost Way | 1984 | - | ジム・チーのみ |
7 | 魔力 | 1986 | 早川文庫ミステリアス・プレス22('90) | The Western Writers of America Spur Award ('86) アンソニー賞('88) |
8 | 時を盗む者 | 1988 | 早川文庫ミステリアス・プレス33('90) | マカヴィティ賞 |
9 | 話す神 | 1989 | 早川文庫ミステリアス・プレス49('92) | |
10 | コヨーテは待つ | 1990 | 早川文庫ミステリアス・プレス68('93) | |
11 | 聖なる道化師 | 1993 | 早川文庫ミステリアス・プレス81('94) | |
12 | 転落者 | 1996 | DHC('98) | |
13 | The First Eagle | 1998 | - | |
14 | Hunting Badger | 1999 | - | |
15 | The Wailing Wind | 2002 | - | |
16 | The Sinister Pig | 2003 | - | |
17 | Skeleton Man | 2004 | - | |
18 | The Shape Shifters | 2006 | - |
No. | 事件名 | 発表年 | 邦訳 | 備考 |
1 | The Witch, Yazzie, and the Nine of Clubs 妖術師とヤズィーとクラブの9 |
1981 | 早川書房「ミステリ・ウェイヴ」('83) HMM'82.2 |
|
2 | Chee's Witch チーの呪術師 |
1986 | 扶桑社ミステリー「自由への一撃」('97) 早川書房「ニュー・ミステリ」('95) |
|
3 | First Lead Gasser ガス処刑記事第一信 (ガス室) |
1993 | HPB「巨匠の選択」('01) 扶桑社ミステリー「壁」('97) EQ'93.9 |