慇懃無礼な天皇の密偵
純文学の分野でも活躍したアメリカの作家ジョン・P・マーカンドが生み出した、I.A.モトという名前の日本の天皇直属の秘密情報部員。
この日本人探偵の誕生の由来は、E・D・ビガーズのチャーリー・チャン警部を生んだ〈サタデー・イブニング・ポスト〉紙から極東、横浜から東京、下関、釜山、奉天、北京と続く取材旅行に行くように勧められたことがきっかけだったといいます。
常に微笑を絶やさず、やたらと「アイム・ソーリー」を連発し慇懃無礼で一見冴えない男に見えますが、その正体は柔和な表情の下にどんな白人にも物怖じしない度胸と鋭い頭脳を隠し、小柄な体の下に大男もねじ伏せる怪力と鮮やかに敵を倒す柔術の業を極めた、行動力もピカ一の日本屈指の秘密情報部員です。このあたりはブラウン神父や刑事コロンボに通じるところがあります。
ミスター・モトのシリーズは第1作の「ミカドのミスター・モト」が発表されるや否やたちまに好評を博しますが、発表からわずか2年の間に8本もの映画が作られたことからも当時の反響がいかに大きかったかが窺われます。
そしてチャーリー・チャン警部シリーズと同じく6長編が発表されているというのも面白い偶然の一致です。
No. | 事件名 | 発表年 | 邦訳 | 備考 |
1 | ミカドのミスター・モト (ノー・ヒーロー) |
1935 | EQ'88.9-11(65-66) | |
2 | Thank You, Mr. Moto | 1936 | - | |
3 | Think Fast, Mr. Moto | 1937 | - | |
4 | 天皇の密偵 ミスター・モトの冒険 (ミスター・モトの大冒険 天皇の密偵) (銀のたばこケースの謎) (銀のシガレットケースのなぞ) (蒙古の暁嵐) |
1938 | 角川文庫545-1 サンケイ出版('77) 講談社 少年少女世界探偵小説全集10('57) 旺文社 中学時代二年生'62.11付録(抄訳) 紫文閣('39) |
講談社版は伊藤照夫名義のジュヴナイル |
5 | Last Laugh, Mr. Moto (Mercator Island) |
1942 | - | |
6 | Right You Are, Mr. Moto (Stopover: Tokyo) (The Last of Mr. Moto) (Rendezvous in Tokyo) (東京ストップオーバー) |
1957 | - |
【参考】「天皇の密偵 ミスター・モトの冒険」(角川書店 角川文庫)
海外サイト「Mr. Moto Novels of John P. Marquand」様