二人で探偵を
ミステリーの女王アガサ・クリスティーの生み出した、夫婦で探偵を務めるおしどり探偵コンビ。当初は二人はまだ青年と若い女性として登場しますが、ほどなく70歳を過ぎ、双子の子供と三人の孫に囲まれた老夫婦となっています。
妻プルーデンス(タペンス)は牧師の娘で、グレーの大きな瞳にまっすぐな黒い眉、勢いよくカールしたもじゃもじゃの黒髪が特徴的で、見るからに意志の強そうな顎を持ち、決して美人とは言えないものの、個性と魅力に溢れた表情を湛えています。 陽気で楽観的な性格で好奇心が非常に強く行動的。また夫とは対照的に直観力にも優れています。
夫トーマス(トミー)は赤毛の好青年で、常識的な判断力を兼ね備え、慎重に考えて行動するタイプであり、活動的なタペンスのストッパー的役割も果たします。
元々二人は幼なじみでしたがやがて離れ離れとなり、しばらくして第一次世界大戦が勃発。トミーの方は情報部に所属し軍人として活躍していましたが、復員後は職探しに奔走する毎日。
一方タペンスの方は第一次大戦中は雑用係から看護婦として働いていました。
そして第1作「秘密機関」は、この二人がロンドンのドーヴァー・ストリートの地下鉄の入り口前で偶然出会う所からスタートします。
間もなく二人は「青年冒険商会」の名で職を求める新聞記事を掲載しようと目論見ますが…そこから二人はスパイとして活躍することとなり、二人の恋愛はスリルとサスペンスに満ちた事件とともに進行していきます。
続編の短編集「おしどり探偵」では、今度は素人探偵として事件を解決していくのですが、この作品では探偵の素養のない二人が自分たちが読んだ有名なミステリとそこに登場する名探偵たちの手法を参考に「探偵ごっこ」を繰り広げるという興味深い設定で読者を楽しませてくれます。
ちなみにこの作中で登場する探偵は、有名な所ではシャーロック・ホームズからソーンダイク博士、ブラウン神父、隅の老人、思考機械、フォーチュン氏、ブルドッグ・ドラモンド、ガブリエル・アノー探偵にフレンチ警部、ロジャー・シェリンガム、そして我らがエルキュール・ポアロ…とまさに豪華絢爛。
どの作品が誰の真似をしているかを、読み比べてみるのも興味深いことだと思います(他に作家としてエドガー・ウォーレスの名も)。
またシリーズの最終長編「運命の裏木戸」はクリスティーが最後に書いた作品であり(ポアロ最終作「カーテン」とマープル最終作「スリーピング・マーダー」はいずれも第二次世界大戦頃に書かれていた作品)、このことからもクリスティーがこのおしどり夫婦に並々ならぬ愛着を抱いていたことが窺い知れます。
No. | 事件名 | 発表年 | 邦訳 | 備考 |
1 | 秘密機関 (秘密組織) |
1922 | 早川文庫 クリスティー文庫47 早川文庫1-70 創元推理文庫105-11 HPB569 |
映画化('28) TVドラマ化('82) |
2 | NかMか | 1941 | 早川文庫 クリスティー文庫48 早川文庫1-42 HPB308 |
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3 | 親指のうずき | 1968 | 早川文庫 クリスティー文庫49 早川文庫1-10 HPB1131 |
映画化「アガサ・クリスティーの奥様は名探偵」('06) |
4 | 運命の裏木戸 | 1973 | 早川文庫 クリスティー文庫50 早川文庫1-59 HPB1234 |
クリスティーが最後に書いた作品 |
No. | 事件名 | 発表年 | 邦訳 | 備考 | |
1 | おしどり探偵 (二人で探偵を) |
1929 | 早川文庫 クリスティー文庫52 早川文庫1-36 創元推理文庫105-12 HPB555 |
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1 | アパートに妖精出現 (アパートに妖精がいる) |
1924 | |||
2 | お茶でも一杯 (お茶をどうぞ) |
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3 | 桃色の真珠事件 (桃色真珠紛失の謎) |
2部仕立て TVドラマ化('82) |
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4 | 怪しい来訪者事件 (珍客到来) |
2部仕立て | |||
5 | キングに気をつけること /新聞紙の服を着た男 (キングで勝負/新聞紙の服を着た紳士) |
2部仕立て TVドラマ化('83) |
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6 | 婦人失踪事件 (婚約者失踪の謎) (消えた貴婦人) (消えた淑女) |
早川文庫2-38「シャーロック・ホームズの災難/上」('84) 講談社・河出文庫「ホームズ贋作展覧会」('89) 別冊宝石83('59) |
TVドラマ化('82) | ||
7 | 眼隠し遊び (盲蛇におじず) |
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8 | 霧の中の男 | 2部仕立て TVドラマ化('83) |
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9 | ぱしぱし屋 (ぱりぱり野郎) |
2部仕立て TVドラマ化「かくれ造幣局の謎」('82) |
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10 | サニングデールの謎事件 (サニングデールの怪事件) |
2部仕立て TVドラマ化('83) |
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11 | 死のひそむ家 (死をはらむ家) |
2部仕立て TVドラマ化「謎を知ってるチョコレート」('82) |
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12 | 鉄壁のアリバイ (破れないアリバイなんて) |
1928 | TVドラマ化('83) | ||
13 | 牧師の娘/赤色館 (牧師の娘/赤い館の謎) |
1923 | 2部仕立て TVドラマ化('83) |
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14 | 大使の靴 (大使の靴の謎) |
1924 | TVドラマ化「大使閣下の靴の謎」('83) | ||
15 | 16号だった男 (ついに十六番の男が) |
No. | 事件名 | 発表年 | DVD | 備考 |
1 | Die Abenteuer G.m.b.H.(独) | 1928 | - | 監督:フレッド・サウエル 主演:カルロ・アルディーニ、イヴ・グレイ 原作「秘密機関」(サイレント) クリスティー初の映画化作品 |
2 | アガサ・クリスティーの奥さまは名探偵(仏) | 2005 | ハピネット・ピクチャーズ('07) | 監督:パスカル・トマ 脚本:フランソワ・カヴィリオーリ、ナタリー・ラフォリ、パスカル・トマ 主演:カトリーヌ・フロ、アンドレ・デュソリエ 原作「親指のうずき」 |
No. | 事件名 | 発表年 | DVD | 備考 |
1 | おしどり探偵 (二人で探偵を)(英) |
1982 | 1983 |
ハピネット・ピクチャーズ(DVD-BOX完全版1)('05)(短編10話収録) ハピネット・ピクチャーズ(DVD-BOX完全版2)('05)(長編1話+関連作品2話収録) |
監督:クリストファー・ホドソン、トニー・ワームビー 主演:フランチェスカ・アニス、ジェームズ・ワーウィック シリーズ全11話(長編1+短編10) |