スパイ小説の始祖

UK ジョン・バカン
(John Buchan)

三十九階段
「三十九階段」
(1915年)
(東京創元社)

 イギリスの推理小説家であり、弁護士、軍人、政治家、評論家、歴史学者、実業家として多方面で活躍した人物。本人曰く「実業家を自分の職業とし、書くことを娯楽とし、政治は自分の義務と心得ている」と述べている通り精力的に活動しました。

 スコットランドの旧家に生まれ、母は著名な政治家グラッドストーンの従妹にあたるそうです。 小さい頃はむしろ怠け者の部類に入る学生だったそうですが、様々な職業を経験した後オックスフォード大学に入学してからは、史学と哲学で一番の成績を取ったり、エッセイや誌の有名な賞を獲得したりする活躍を見せます。

 大学卒業後はロンドンに出て弁護士となり、1901年から2年間南アフリカの行政代表ミルナー卿の招きに応じて私設秘書を務めます。 この時に猛獣狩りなどを経験してアフリカの問題に関心を抱くようになったと言われています。

 帰国した後は「三十九階段」「緑のマント」「三人の人質」などを発表したトマス・ネルネン出版社の重役として出版事業に携わったり、政治家として英米の相互理解を深めることに奔走したりしています。

緑のマント
「緑のマント」
(1916年)
(東京創元社)

 第一次世界大戦が勃発するとタイムズ社の戦地特派員としてフランスに赴き、更にその後イギリス情報部で指導員という重要な地位を担います。

 その後は主に政治と実業の世界で活躍し、1927年には保守党の議員として国会にも進出します。

 そして1935年になるとカナダ総督に任ぜられ、5年後の1940年、現地での任務の途中に起きた事故で亡くなっています。

 これらの多忙な生活のかたわら、余暇を使って執筆活動もしました。時間を効率よく使うために、バスに乗っている時間やひげを剃っている時間などを利用して物語の筋立てをしていたといいます。

 執筆開始当初は伝記や歴史小説などを執筆していましたが、1910年代に入ると「プレスター・ジョン(黒人王の首かざり)」をはじめとする数冊の冒険小説を書き上げ一般の読者から好評を得ます。

傷心の川
「傷心の川」
(1941年)
(筑摩書房)

 これらの冒険小説のうち1915年に発表されたリチャード・ハネイを主人公とする長編小説「三十九階段」は、国際的・政治的陰謀に巻き込まれた主人公の活躍を描いて大評判となり、1935年にアルフレッド・ヒッチコックの手で「三十九夜」のタイトルで映画化もなされました。

 サマセット・モームの「秘密諜報部員」とともに、この作品が後のスパイ小説の原型を形作ったといわれています。


■作家ファイル■

出身地
イギリス、スコットランドのピーブルズシャー
学歴
オックスフォード大学ブレイズノーズ・カレッジ卒
生没
1875年8月26日~1940年2月11日(64歳)
作家としての経歴
1907
多忙な生活のかたわら、余暇を利用して伝記や歴史小説などを発表。やがてこの年トマス・ネルソン社の有限責任社員となり、出版事業に携わる
1910
この頃から「プレスター・ジョン」をはじめとする冒険小説を数冊発表
1915
そのトマス・ネルネン出版社より冒険小説「三十九階段」を発表
この作品は1935年にアルフレッド・ヒッチコック監督の手により「三十九夜」のタイトルで映画化される
1941
最終長編の「傷心の川」を発表
シリーズ探偵
リチャード・ハネイ (Richard Hannay)
弁護士エドワード・リーセン卿 (Edward Leithen)
ディクスン・マッカン (Dickson Mc'Cunn)
代表作
【リチャード・ハネイ】
「三十九階段」「緑のマント」「三人の人質」
【弁護士リーセン卿】
「傷心の川」

■関連リンク■

1  海外サイト「John Buchan Society


■著作リスト■

1 リチャード・ハネイ登場作品リスト

2 弁護士エドワード・リーセン卿登場作品リスト

【長編】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 The Power House 1916 -
2 John MacNab 1925 -
3 The Dancing Floor 1926 -
4 傷心の川 1941 筑摩書房 ちくま世界ロマン文庫8('70) バカン最後の作品

【短編集】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 The Runagates Club 1928 - ハネイ1編他
全12編
1 Sing a Song of Sixpence
六ペンスの冒険
1928 HMM'67.4

3 ディクスン・マッカン登場作品リスト

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 Huntingtower 1922 -
2 Castle Gay 1930 -
3 The House of the Four Winds 1935 -

4 その他の作品

【長編】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 Sir Quixote of the Moors 1895 -
2 John Burnet of Barns 1898 -
3 A Lost Lady of Old Years 1899 -
4 The Half-Hearted 1900 -
5 A Lodge in the Wilderness 1906 -
6 黒人王の首かざり
(プレスター・ジョン)
1910 旺文社 中一時代'65.11 第4付録 中一文庫8
偕成社 名作冒険全集34('58)
冒険小説
7 Salute to Adventurers 1915 -
8 The Path of the King 1921 -
9 Midwinter 1923 -
10 Witch Wood
(妖魔の森)
1927 -
11 The Courts of the Morning 1929 -
12 The Blanket of the Dark 1931 -
13 The Gap in the Curtain 1932 -
14 A Prince of the Captivity 1933 -
15 The Free Fishers 1934 -
16 The Long Traverse 1941 -

【短編集】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 Grey Weather : Moorland Tales 1899 -
1 A Journey of Little Profit 1896 -
2 Politics and the Mayfly -
3 At The Article of Death 1897 -
4 At The Rising of the Waters -
5 Prester John -
6 The Song of the Moor
(The Moor Song)
-
7 A Reputation 1898 -
2 The Watcher by the Threshold and Other Tales 1902 -
1 No-Man's Land 1899 -
2 The Far Islands -
3 The Watcher By The Threshold 1900 -
4 Fountainblue 1901 -
5 The Outgoing of the Tide 1902 -
3 The Moon Endureth: Tales and Fancies 1912 -
1 The Kings of Orion 1906 -
2 The Company of the Marjolaine 1909 -
3 A Lucid Interval 1910 -
4 The Lemnian 1911 -
5 Space -
6 The Green Glen 1912 -
7 The Riding of Ninemileburn 1912 -
4 The Runagates Club 1928 - ハネイ1編、リーセン卿1編他全12編
1 Divus Johnston 1913 -
2 Fullcircle 1920 -
3 The Loathly Opposite
いやな相手
(暗号名ラインマー)
1927 荒地出版社「スパイを捕まえろ」('81)
HMM'77.9
4 Ships of Tarshish -
5 Tendebant Manus -
6 The Last Crusade 1928 -
7 The Wind in the Portico -
8 Human Quarry -
9 Skule Skerry
鳥の島
HMM'66.4
10 Dr. Lartius -

【詳細不明の短編】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 ただ一人で 荒地出版社「スパイ入門」('60)
2 ミスター・スタンドファスは召される 原書房「翼を愛した男たち」('97)

【児童書】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 まほうのつえ
(魔法のつえ)
1932 学習研究社 4年の学習'61.11第3付録 4年の学習文庫7
少年少女講談社文庫('72)

【歴史小説】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 Nelson History of War 1915 -
2 The Battle of Jutland 1916 -
3 The Battle of the Somme -
4 The History of South African Forces in France 1920 -
5 A History of the Great War 1921 -
6 The History of the Royal Scots Fusiliers 1925 -
7 The Massacre of Glencoe 1933 -
8 Gordon at Khartoum 1934 -
9 The King's Grace 1935 -

【編書】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 The Northern Muse: An Anthology of Scots Vernacular Poetry 1924 -

【伝記】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 Lord Minto 1924 -
2 Montrose 1928 -
3 Sir Walter Scott 1932 -
4 Julius Caesar -
5 Oliver Cromwell 1934 -
6 Augustus 1937 -

【エッセイ・詩集その他】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 Scholar Gipsies 1896 -
2 Musa Piscatrix - 詩集
3 The African Colony 1903 -
4 Some Eighteenth Century Byways 1908 -
5 The Marquis of Montrose 1913 -
6 These for Remembrance 1919 -
7 A Book of Escapes and Hurried Journeys 1922 -
8 Homilies and Recreations 1926 -
9 The Kirk in Scotland 1930 - Gearge Adam Smithとの合作
10 The Novel and the Fairy Tale 1931 -
11 Comments and Characters 1940 -
12 Canadian Occasions -

【自伝・回想録など】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 Memory Hold-the Door 1940 - 自伝
2 John Buchan by His Wife and Friends 1947 - 未亡人らによる回想録
3 John Buchan: A Memoir 1982 - 息子による回想録

【参考】 「三十九階段」(東京創元社 創元推理文庫)
「三人の人質」(東京創元社 創元推理文庫)
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