イギリスの女流本格作家。スコットランドに生まれ、地元の学校で学んだ後長い間体育教師をしていましたが、病気の父親の看病のため辞職し詩や小説の創作を始めます。
そしてゴードン・ダヴィオット(Gordon Daviot)という男性名義で歴史小説やリチャード二世を扱った「ボルドーのリチャード(Richard of Bordeaux)」を発表し、ロンドン公演で500日に及ぶロングランを記録するなど好評を得ます。 その後はテイ名義でミステリーも手がけるようになります。
彼女の作品中では、ユーモアを取り入れつつ、登場人物とりわけ女性の心理が細かく描写され、また丁寧かつ卓越した文章構成で学究論文を思わせる純粋な論理的推理が展開されます。また彼女自身、芯の強い女性だったそうで、そのあたりはグラント警部の恋人として登場するマータ・ハラードなど、彼女の描く女性像に色濃く反映されています。
ジョセフィン・テイ名義での最初の作品は「ローソクのために一シリングを」ですが、この作品は謎解きに加えサスペンス要素を多分に取り入れた傑作で、ヒッチコック監督の手で「第3逃亡者」の題名で映画化されています。
また、女史の最高傑作といわれる「時の娘」では、シリーズ探偵グラント警部が病院のベッドの上で文献のみから歴史上の事件を解決するという手法が採られていますが、この〈安楽椅子探偵〉ならぬ〈ベッド探偵〉というスタイルは、日本でも江戸川乱歩が高く評価していますし、高木彬光氏の神津恭介シリーズ作品「成吉思汗の秘密」「邪馬台国の秘密」に大きな影響を与えています。
そして、あまり本格作家に好意的でないハードボイルドの代表的作家レイモンド・チャンドラーも、「フランチャイズ事件」を評価していて、ファンからも評論家からも高い評価を受けていた作家でした。
彼女の作品は現在においてもイギリスではコリアー・ブックスから、アメリカではスクリブナー社から全ての作品が刊行されて版を重ねているといいます。
「時の娘」を発表した翌年、55歳の若さで亡くなりますが、彼女が全盛期を迎えた時であっただけに、その早い死が惜しまれます。
No. | 事件名 | 発表年 | 邦訳 | 備考 |
1 | Kif | 1929 | - | ゴードン・ダヴィオット名義 |
2 | 裁かれる花園 (ミス・ピム裁きを下す) |
1946 | 論創社 論創海外ミステリ13('05) | ミス・ルーシー・ピム |
3 | 魔性の馬 | 1949 | 小学館 クラシック・クライム・コレクション('03) |