北欧を代表する夫婦合作のミステリ作家
スウェーデンの推理小説家で、妻マイ・シューヴァルと夫ペール・ヴァールーの夫婦合作でミステリ作家として活躍しました。
エド・マクベインの〈87分署〉シリーズとも比肩される、ストックホルム警視庁殺人課主任警視マルティン・ベックを主人公とする警察小説シリーズが、母国スウェーデンだけでなく欧米など27カ国語で邦訳され人気を集めました。 またその〈87分署〉を母国スウェーデン語に翻訳し紹介してもいます。
1965年に長編「ロゼアンナ」を発表以来、長編を毎年一冊のペースで書き続け、1975年に夫のヴァールーが亡くなるまで全10作品が刊行されています。
そして1968年発表のシリーズ第4作「笑う警官」で1971年度のアメリカ探偵作家クラブ(MWA)賞の最優秀長編賞も受賞しています。
映像化も何度もされていて、1973年には「笑う警官 マシンガン パニック」(4作目「笑う警官」)、1976年「刑事マルティン・ベック」(7作目「唾棄すべき男」)で映画化され、1993年から94年にかけてと97年から98年(原作不明)にかけてTVドラマシリーズも撮られています。
妻のシューヴァルはストックホルムのジャーナリズムとグラフィックの専門学校を卒業後新聞や雑誌の出版社に勤務し、1961年に小説家として活動を始めます。また詩人としても活躍していた人物です。
夫のヴァールーは高校卒業後港町のマルメで雑誌記者をしていました。二人は1962年に結婚し、小説の合作を始めます。
彼らの作品は母国スウェーデンの首都ストックホルムを舞台にスウェーデンの風俗や流行、政治や社会上背うなども色濃く描かれていて、それだけでも社会史としての価値を持っていますが、ミステリーとしては綿密なプロット構成で複雑に絡みあう事件の糸を見事に解きほぐしていくという面白さと、マルティン・ベックをはじめとする警察官たちの捜査活動、そしてベックの家庭の問題などが克明に描き出されていて、全世界のミステリーの読者に訴えかける普遍性を持っています。
またジャンルでいえば警察小説に入るシリーズではありますが、同時に警察の権力主義を痛切に批判していて社会小説的な性質も有しているシリーズでもあります。
合作作家というとエラリー・クイーンにしても、ボアロー&ナルスジャックやロックリッジ夫妻にしても、その執筆方法がどのようなものであったか気になる所ではありますが、通常は片方がプロットや筋立てを担当し、他方がそれを受けて全体の執筆を担当するという形が多いのが通例です。
しかしこの夫婦の合作方法は変わっていて、二人が各章を交互に書き進めていったといいます。
夫婦の合作としてはベック主任警視のシリーズ10作品が最多であり最も有名ですが、他にも夫のヴァールーにはペーター・ジェンセン警部を主人公としたシリーズが5編あります。
また妻のシューヴァルは夫の死後は執筆活動から遠ざかっていましたが、1990年にオランダの推理作家協会会長のトーマス・ロスと合作で長編「グレタ・ガルボに似た女」を発表しています。
No. | 事件名 | 発表年 | 邦訳 | 備考 |
1 | 爆破予告 | 1964 | 角川文庫('82) | ペール・ヴァールー単独名義 |
2 | Stäl spranget (英米 The Steel Spring) |
1968 | - |
No. | 事件名 | 発表年 | 邦訳 | 備考 |
1 | Himmelsgeten | 1959 | - | |
2 | Vinden och regnet | 1961 | - | |
3 | Lastbilen (英 The Lorry) (米 A Neccessary Action) |
1962 | - | |
4 | Uppdraget (英米 The Assignment) |
1963 | - | |
5 | Det växer inga rosor på Odenplan | 1964 | - | |
6 | Generalerna (英米 The Generals) |
1965 | - |
No. | 事件名 | 発表年 | 邦訳 | 備考 |
1 | グレタ・ガルボに似た女 | 1990 | 角川文庫('93) | マイ・シューヴァルとトーマス・ロスの合作 |
【参考】「テロリスト」(角川書店 角川文庫)