ナンセンス・ミステリの開拓者

USA ロバート・トゥーイ
(Robert Twohy)

物しか書けなかった物書き
「物しか書けなかった物書き」
(2007年)
(河出書房新社)

 アメリカのミステリー作家で、33歳でデビュー以来40年に渡ってエラリー・クイーンズ・ミステリ・マガジン(EQMM)とアフルレッド・ヒッチコック・マガジン(AHMM)に短編のみを書き続けた短編の名手です。

 サンフランシスコに生まれ、第二次世界大戦中は空軍に所属し、伍長として暗号解読を担当。戦後はサンフランシスコ美術学校で絵画を学んだ後、カリフォルニア大学バークレー校で美術学士号を取得しました。

 その後は工場勤務を皮切りに保険調査員、タクシー運転手、フランス語やスペイン語の高校教師と職を転々としますが、1957年6月、33歳の時にEQMMに短編「死を呼ぶトラブル」が掲載されて作家デビューを果たします。

 その5年後の1962年1月に再びEQMMに第2作となる短編「隣家の事件」が掲載されますが、この作品は〈刑事コロンボ〉シリーズの産みの親として知られるリチャード・レビンソン&ウィリアム・リンクの脚本で1963年1月にTVシリーズ「ヒッチコック・サスペンス」の一エピソードとして映像化されています。

クイーンズ・コレクション2
「クイーンズ・コレクション2」
(早川書房)

 以後は再びタクシー運転手として10年余りを過ごし、その勤務の傍らEQMMに断続的に短編を発表していましたが、1970年代半ばに定職に着くことを諦めて執筆に専念するようになってからはエラリー・クイーンの一人フレデリック・ダネイやエレノア・サリヴァンといったEQMMの歴代編集長の後押しもあってコンスタントに作品を発表。
 特に1980年代は作品の半数以上が発表されるなど、60歳を過ぎてから精力的な活躍を見せます。また1977年からはAHMMにも投稿しています。

 1991年にサリヴァン女史が61歳で亡くなるとそれ以後はほとんど作品を発表しなくなり、1994年の「Woman in a Doorway Wating」が現在最後の発表作品となっています。

 MWA賞の短編賞に3度ノミネートされるもののいずれも落選に終わるなど賞には縁がありませんでしたが、その常軌を逸した舞台設定とまったく予想もつかないストーリー展開で読者をキリキリ舞いさせ、「オフビート」「不条理」「風変わり」「人を食った」などと形容される一連の作品群は、ミステリ評論家のアンソニー・バウチャーから「ナンセンス・ミステリの新しいジャンルを開拓した」と絶賛され、また数々のアンソロジーにも採用されて国内外のミステリー通に親しまれています。


■作家ファイル■

出身地
アメリカ、サンフランシスコ
学歴
サンフランシスコ美術学校を経てカリフォルニア大学バークレー校で美術学士号を取得
生没
1923年10月~
作家としての経歴
1957
6月、33歳の時にEQMMに短編「死を呼ぶトラブル」が掲載されて作家デビュー
1962
EQMM1月号に5年ぶりの第2作となる短編「隣家の事件」が掲載され、翌1963年1月に〈刑事コロンボ〉シリーズの産みの親として知られるリチャード・レビンソン&ウィリアム・リンクの脚本でTVシリーズ「ヒッチコック・サスペンス」の一エピソードとして映像化される
1977
1970代半ばからフルタイムの仕事を辞めて執筆活動に専念するようになり、この年アフルレッド・ヒッチコック・マガジン(AHMM)にも投稿を開始
1981
短編「Mousie」がアメリカ探偵作家クラブ(MWA)賞短編賞の最終候補作に。以後「オーハイで朝食を」(1984)、「Yellow One-Eyed Cat」(1985)の計3度同賞の短編賞の最終候補作に選ばれるもののいずれも落選
1994
短編「Woman in a Doorway Wating」が現在最後の発表作品
シリーズ探偵
「恐怖のジョーク男」ことジャック・モアマン
代表作
「物しか書けなかった物書き」
「八百長」「オーハイで朝食を」(いずれも短編)

■著作リスト■

1 短編集

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 物しか書けなかった物書き 2007 河出書房新社 河出ミステリ('07) 日本で独自に編纂
全14編
1 おきまりの捜査 1964
2 階段はこわい
(階段は怖い)
HMM'69.4
3 そこは空気も澄んで 1969 HMM'70.9
4 物しか書けなかった物書き 1974 HMM'74.4
5 拳銃つかい
(拳銃使い)
1978 HMM'81.8
6 支払い期日が過ぎて
(支払期限)
早川文庫2-37「クイーンズ・コレクション2」('84)
EQ'79.5
ジャック・モアマン
7 家の中の馬 1979 EQ'94.7
EQ'79.9
ジャック・モアマン
8 いやしい街を… 1980 EQ'80.5(15)
9 ハリウッド万歳 EQ'82.1
10 墓場から出て HMM'83.8
11 予定変更 1979 EQ'82.5
12 犯罪の傑作
(完璧な犯罪)
1980 EQ'81.3
13 八百長 1981 光文社文庫「世界ベスト・ミステリー50選/下」('94)
EQ'92.3
14 オーハイで朝食を 1984 MWA賞短編賞候補作

2 その他の主な短編

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 Never Anything But Trouble
死を呼ぶトラブル
1957 HMM'65.9 トゥーイのデビュー作
2 Out of this Nettle
隣家の事件
1962 HMM'85.8 第2作、「ヒッチコック・サスペンス」で映像化
3 The Man on the Spot 1968 -
4 McKevitt─100 Proof
酔いどれの記者
HMM'69.1
5 Mrs. Kendall's Trunk
トランク
HMM'69.9
6 The Gingham Dog and the Calico Cat
ギンガム犬とキャラコ猫
HMM'69.11
7 Goodbye to Francie
さよなら、フランシー
HMM'72.7
8 The System 1980 -
9 A Very Ordinary Murder -
10 The Elegant Murders
エレガント・ホテル
HMM'82.5
11 Tomorrow We Finish Ann -
12 Putting It on the Line -
13 Flesh and Blood 1981 -
14 All the Hippies Are Dead -
15 P. -
16 The Flow -
17 Mousie - MWA賞短編賞候補作
18 Coincidence 1982 -
19 The Night I Got Shot -
20 The Man in the Ratty Overcoat -
21 The Bathtub Murders -
22 A Somewhat Happy Ending
ともかくもハッピーエンド
1983 扶桑社ミステリー「スカーレット・レター」('93)
23 The End of What? -
24 Seventeen -
25 A New Feeling -
26 What's to Miss? -
27 The Naked Cab Driver 1984 -
28 Teeth Like Little Radios -
29 Philadelphia Story -
30 Girl in a Dumpster 1985 -
31 Yellow One-Eyed Cat - MWA賞短編賞候補作
32 Marc in Love -
33 The Raven -
34 TV Dope Show -
35 The Movie Game 1986 -
36 Jinja the Cat -
37 Another Dead Nobody -
38 Going for Destiny -
39 The Ten-Dollar Bill 1987 -
40 Ojai Once Again -
41 Maggie 1988 -
42 Snapshots -
43 Highway Girl -
44 Everybody Goes Home -
45 Sloat's Last Case 1989 - PWA(アメリカ私立探偵作家クラブ)賞候補作
46 The Clean Place -
47 At a Rest Stop South of Portland 1990 -
48 At Scorpiant Towers 1991 -
49 Seems I've Been This Way Before 1993 -
50 Woman in a Doorway Wating 1994 -

【参考】「物しか書けなかった物書き」(河出書房新社 河出ミステリ)
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