ウィリアム・カスバート・フォークナー
（William Cuthbert Faulkner）

　フォークナァとも表記。アメリカ合衆国出身の小説家で「老人と海」などの著作で知られるアーネスト・ヘミングウェイと並び称される20世紀アメリカ文学の巨匠として世界的に有名な作家です。

　アメリカ南部ミシシッピー州の田舎町ニュー・オールバニーに4人兄弟の長男として誕生。その後5歳の時に父の仕事の都合で同州のオックスフォードに移住し、以後第一次世界大戦の際にカナダのトロントに訓練生として滞在した時と大学中退後に短期間ニューヨークの書店で働いていた期間などを除き、その生涯の大半を同地で過ごました。

　曾祖父は地元の鉄道の敷設者で政治家としても名を馳せたウィリアム・クラーク・フォークナーで名門の家の生まれでしたが、学業には関心を持てなかったらしく高校は1年で中退。その後第一次世界大戦終戦後に復員兵に対する特別措置で特別学生として入学したミシシッピ大学教養学科も1年で退学しています。

　そんな彼の文学的興味を刺激したのは作家シャーウッド・アンダーソンとの出会いでした。10歳の時から書くことをはじめ、大学在学時には大学の新聞や雑誌に詩や小品を発表し始めていましたが、1925年にヨーロッパ旅行のために滞在したニューオーリンズでアンダーソンと知り合うと、彼の紹介で現地の雑誌・新聞などに作品を発表。その後長編の執筆にも着手し、1926年にアンダーソンの尽力で最初の長編小説「兵士の報酬」を出版します。

　それから自身の住む南部の田舎町オックスフォードをモデルにした架空の町ヨクナパトーファ郡ジェファソンを舞台にした年代記〈ヨクナパトーファ・サーガ〉の構想を思い立ち、1929年に長編第3作での第1作に当たる「サートリス」を刊行。さらに同年に代表作の一つとして知られる長編「響きと怒り」も完成させ、ここに作家フォークナーが誕生します。

　以後も長編や中短編の傑作を数々ものにしていきますが、当時のアメリカ国内ではほとんど評価されることはなく、生活のためハワード・ホークス監督の「脱出」「三つ数えろ」などのハリウッド映画のシナリオ脚本を手がけたりするなど長い不遇の時期を過ごすことになります。

　そんな彼の評価を一気に高めるきっかけとなったのが、1946年にマルカム・カウリーによって編纂された選集「ポータブル・フォークナー」でした。この本の出版により注目を集めたフォークナーの作品は次々と復刊され、1949年にはアメリカの現代小説に対する強力かつ独創的な貢献に対してノーベル文学賞が授与され、世界的な評価を勝ち取ります。

　その後も1955年には晩年の傑作として名高い長編「寓話」でピューリッツァー賞及び第6回全米図書賞を受賞したほか、1962年の彼の死の直前に出版された最終長編「自動車泥棒　一つの思い出」でも再びピューリッツァー賞を受賞しています。

　一方そんなアメリカの文豪として純文学の分野で多大な功績を残したフォークナーですが、1949年には「駒さばき（騎士の陥穽）」のタイトルでミステリーの短編集も書いており、郡検事ギャヴィン・スティヴンズが探偵役、甥のチャールズ青年がワトソン役を務める一連のミステリー短編を集めたこの短編集は、エラリー・クイーンの手により〈クイーンの定員〉にも選ばれています。

　「ヨクナパトーファ・サーガ」と呼ばれる彼の小説の中では、冒頭に一見不規則に思える登場人物たち複数のエピソードを並べて物語を進めていき、気がつくと一見不規則に思えた複数のエピソードが互いに交錯し合って不可解に思われた謎を徐々に解きほぐしていくという”コラージュ手法”や、それぞれの語り手に回想や意識の下にある思考を太字や斜体で挿入することで物語に厚みを持たせる”意識の流れ” の手法、そしてバルザックも得意としたある作品に登場した人物を他の作品でも再登場させたり名前を言及させることで各作品を結びつけて作品世界に広がりを持たせる”人物再登場法”を用いるなど、様々な実験的手法が用いられて後世の作家たちにも多大な影響を与えていると言われています。

　日本でもその人気は高く、冨山房からは全作品を収録した「フォークナー全集」が1967年から30年かけて出版され全作品が図書館などで手軽に楽しめるようになっています。