謎めいた超自然的な道化役者
ミステリーの女王アガサ・クリスティーの生み出した、謎めいた神秘的な魅力を持つキャラクター。そのモデルはクリスティー自身が小さい頃から見ていた、イギリスでクリスマスと大晦日の間に行なわれるパントマイムの道化役者だと想像されます。
作中では、クィン氏とともに猫背の老人サタースウェイト氏が登場しますが、実際に推理する探偵役を務めるのは、このサタースウェイト氏です。彼は62歳の老人で、社交界にも顔が広い現実的で金持の俗人ですが、日頃から他人の生活に関心を持っていて、様々な人生劇を見物人として鋭い目で見つめてきた確かな眼力の持ち主です。
その一方でクィン氏の方は謎の人物で、彼は決まって恋愛絡みの事件が発生する現場に突如現われてはサタースウェイト氏にヒントを暗示。クィン氏から霊感を与えられたサタースウェイト氏はいつも事件を解決してみせるのですが、クィン氏の方はというといつの間にか消え去ってしまっているという行動パターンを繰り返す、何とも神秘的で不思議な存在です。
このように主人公が脇役にヒントを与えることによって名探偵が成立するという風変わりなコンビですが、サタースウェイト氏については、実はポアロものの長編「三幕の殺人」(1935)にもちゃっかり登場しています。
No. | 事件名 | 発表年 | 邦訳 | 備考 | |
1 | 謎のクィン氏 (クィン氏の事件簿) |
1930 | 早川文庫 クリスティー文庫53 早川文庫1-39 創元推理文庫105-10 HPB772「海から来た男」(1-6) HPB773「翼の折れた鳥」(7-12) |
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1 | クィン氏登場 (クイン氏登場) |
1924 | 映画化('28) | ||
2 | 窓ガラスに映る影 (窓にうつる影) |
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3 | 〈鈴と道化服〉亭奇聞 (道化荘奇聞) (鈴と道化服亭) |
1925 | |||
4 | 空のしるし (大空に現れた兆) (空に描かれたしるし) |
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5 | クルピエの真情 (ルーレット係の魂) (ある賭博係の心情) |
1926 | |||
6 | 海から来た男 | 1929 | 別冊宝石83('59) | ||
7 | 闇の声 (闇からの声) |
1926 | |||
8 | ヘレンの顔 (ヘレンの美貌) |
1927 | |||
9 | 死んだ道化役者(ハーリ・クィン) (死せる道化役者) |
1929 | |||
10 | 翼の折れた鳥 (翼の折れた小鳥) |
1930 | |||
11 | 世界の果て | 1926 | |||
12 | 道化師の小径 (ハーリクィンの小道) |
1927 | |||
2 | 愛の探偵たち | 1950 | 早川文庫 クリスティー文庫61 早川文庫1-55 |
米版のみ全9編(本来「二十四羽の黒つぐみ」も所収) 邦訳はポアロ2編、マープル4編他全8編 |
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1 | 愛の探偵たち (恋愛を探偵する) |
1926 | 創元推理文庫105-3「二十四の黒ツグミ」 | ||
3 | マン島の黄金 (マン島の黄金 クリスティー最後の贈り物) |
1997 | 早川文庫 クリスティー文庫64 早川文庫1-89 早川書房('98) |
アメリカ版のみ収録 ポアロ2編他全10編 (クリスティー文庫版のみ12編) |
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1 | クィン氏のティーセット | 1971 | HPB1491「現代イギリス・ミステリ傑作集1」 HMM'72.12 |
No. | 事件名 | 発表年 | DVD | 備考 |
1 | The Passing of Mr. Quinn(英) | 1928 | - | 監督:ジュリアス・ヘイゲン 主演:トリルビー・クラーク、アーシュラ・ジーンズ 原作「クィン氏登場」(「謎のクィン氏」所収)(サイレント) |
【参考】「謎のクィン氏」(早川書房 ハヤカワミステリ文庫)
「謎のクィン氏」(早川書房 クリスティー文庫)