アメリカの小説家であり脚本家。貧しい農家に生まれ9歳の時にはもう新聞の売り子としてシカゴで働いていたらしく、そのような生い立ちから貧しい青年が苦難の末に大富豪になるというホレイショ・アルジャー・ジュニアの立身出世物語に夢中になり、作家を志すようになったといいます。
高校卒業後に軍役を経験し、その後様々な職を転々とした後1930年代に入ると小説を書き始めますが、大変な多作家であり、1932年から1934年の間だけで174もの短編を発表しています。この点ハードボイルドの始祖ダシール・ハメットやE・S・ガードナーも活躍した〈ブラック・マスク〉誌などのパルプ・マガジンを中心に活動し、いくつもの筆名を用いて要請があればどんなジャンルの短編でも書いたらしく、数年が経った頃にはパルプ・マガジン作家として軌道に乗り始めていました。
この時期の彼の代表作は〈人間探偵百科事典〉と呼ばれるオリヴァー・クエイドというキャラクターの登場するシリーズで、彼は百科事典のセールスマンですが、自らの商品を四回読破し、そのすべてを記憶していて、どんな質問をされてもすぐさま答える事ができるという異常なまでの記憶力を持っています。
そして毎回とんでもない事件に巻き込まれては、持ち前の記憶力と頭の回転の速さで自らのピンチを脱出して見せます。
その後も順調に作家として人気を集め、多い時期には年収が1万ドルを超えたともいいます。そしてこの成功の秘訣は自伝「パルプ・ジャングル」でも語られていて、派手なヒーロー、テーマ、仇役、背景、殺人方法、動機、手がかり、トリック、アクション、クライマックス、情緒の11項目を挙げ、どれもありきたりのものであってはならないと説いています(「ミステリ小説11の要素」)
1940年代に入ると短編中心の苛酷なパルプ・マガジン作家生活を卒業し、「笑うきつね」や「コルト拳銃の謎(海軍拳銃)」などに登場するジョニー・フレッチャーとサム・クラッグの凸凹コンビの活躍する長編を書き始めますが、これが評判を呼び、彼の代表的かつ最も息の長いシリーズとして以後計14長編が発表されています。
その他にも様々な主人公を用いてウエスタン小説などをはじめ幅広いジャンルで多くの作品を発表しています。
また1942年からは脚本家としてハリウッドで活躍し、「ディミトリオスの棺」「ブルドッグ・ドラモンド」や自作「フレンチ・キイ」などの脚本も手がけています。
グルーバーの作風については、別冊宝石97号での中原弓彦氏の次のような記述がもっともその特徴を現しています。
「プロットの展開や謎の設定は本格探偵小説的であるが、その語り口はハードボイルドのような荒っぽいテンポの速いもので、作品によってはユーモアの度合いは非常に強く、また得意分野である西部史の知識も混ざっているため、彼の小説を読むことは『西部劇とドタバタ喜劇と探偵映画を3本一緒に楽しむようなもの』でひどく愉快にさせられてしまいます。」(別冊宝石97号「フランク・グルーバー篇」)
1 カラフルな主人公(ホームズが典型)
2 テーマ(物語の特殊な舞台。『走れ盗人』では、錠前師の世界)
3 悪漢(名悪漢でたくさんの手下を持ち、探偵に対しては圧倒的優勢を誇る)
4 背景(カラフルで異常な背景)
5 殺人方法(異常さを強調。殺人舞台の異常性)
6 動機(憎悪と貪欲しかない動機をできるだけ異常なものに仕立て上げる)
7 手がかり(必要)
8 トリック(異常性)
9 アクション(物語のスピードと動き)
10 クライマックス(力強さ)
11 感情(主人公が個人的理由から事件に関与し、単なる義務感で事件を解決してはいけない)
【参考】「グルーバー 殺しの名曲5連弾」(講談社 講談社文庫)
No. | 事件名 | 発表年 | 邦訳 | 備考 | 発表 | |
1 | The Man From Missouri | 1956 | - | 全4編 | ||
1 | Rain, the Killer 殺人者は雨が好き |
1937 | 小説推理'73.1 | 6 | ||
2 | Death at the Main | 1936 | - | 2 | ||
2 | Brass Knuckles (ブラス・ナックル) |
1966 | - | |||
The Life and Time of the Pulp Story パルプ小説の生命と時代 |
HMM'67.12-'68.2 | 長い序文 | ||||
1 | Ask Me Another つぎの質問をどうぞ (お次の質問は?) |
1937 | EQMM'65.3 宝石'57.5 |
5 | ||
2 | ドッグ・ショー殺人事件 | 1938 | 講談社文庫「グルーバー 殺しの名曲5連弾」('80) 番町書房 イフ・ノベルズ「探偵 人間百科事典」('77) |
9 | ||
3 | 漫画映画殺人事件 | 1939 | 講談社文庫「グルーバー 殺しの名曲5連弾」('80) 番町書房 イフ・ノベルズ「探偵 人間百科事典」('77) |
13 | ||
4 | Oliver Quade at the Races クエイド、馬券を買う |
1939 | HMM'69.9 | 14 | ||
5 | 不時着 | 1938 | 講談社文庫「グルーバー 殺しの名曲5連弾」('80) 番町書房 イフ・ノベルズ「探偵 人間百科事典」('77) |
11 | ||
6 | Death Sits Down 死のストライキ (ストライキ殺人事件) |
1938 | 国書刊行会 ブラック・マスクの世界3「ブラック・マスクの栄光」('86) HMM'85.11 |
10 | ||
7 | ソング・ライターの死 | 1940 | 講談社文庫「ユーモアミステリ傑作選」('80) EQ'78.11 |
15 | ||
8 | 州博覧会殺人事件 | 1939 | 講談社文庫「グルーバー 殺しの名曲5連弾」('80) 番町書房 イフ・ノベルズ「探偵 人間百科事典」('77) |
12 |
No. | 事件名 | 発表年 | 邦訳 | 備考 |
1 | グルーバー 殺しの名曲5連弾 (探偵 人間百科事典) |
1977 | 講談社文庫('80) 番町書房 イフ・ノベルズ |
全5編 |
No. | 事件名 | 発表年 | 邦訳 | 備考 | 発表 |
1 | Brass Knuckles | 1936 | - | デビュー作 | 1 |
2 | Murder on the Midway | 1937 | - | 3 | |
3 | Picture of Death | 1937 | - | 4 | |
4 | Trailer Town | 1937 | - | 7 | |
5 | 鷲の巣荘殺人事件 (鷲の断崖) |
1937 | 講談社文庫「グルーバー 殺しの名曲5連弾」('80) 番町書房 イフ・ノベルズ「探偵 人間百科事典」('77) HMM'67.2 |
8 |
No. | 事件名 | 発表年 | 邦訳 | 備考 |
1 | Simon Lash, Private Detective | 1941 | - | |
2 | バッファロー・ボックス | 1942 | HPB673 | |
3 | Murder '97 (The Long Murder of Murder) |
1948 | - |
No. | 事件名 | 発表年 | 邦訳 | 備考 |
1 | 遺書と銀鉱 | 1941 | 六興出版部 六興推理小説選書108('57) | |
2 | Beagle Scented Murder (Market for Murder) |
1946 | - | |
3 | The Lonesome Badger (Mood for Murder) |
1954 | - |
No. | 事件名 | 発表年 | 邦訳 | 備考 |
1 | The Last Doorbell | 1941 | - | John K. Vedder名義 フランク・サージェント |
2 | The Yellow OverCoat | 1942 | - | Stephen Acer名義 ジョン・デヴリン |
3 | The Fourth Letter | 1947 | - | トム・ハガティ |
4 | 走れ、盗人 (錠前なら俺にまかせろ) (真昼の逃亡者) |
1948 | HPB689 別冊宝石97('60) 学習研究社 中学二年コース'63.7第3付録 中学生ワールド文庫 |
トミー・ダンサー |
5 | Johnny Bengeance | 1954 | - | ジョン・ウェルダー |
6 | Twenty Plus Two (二十と二年) |
1961 | - | トム・オールダー |
7 | Brothers of Silence | 1962 | - | チャールズ・タンクレッド |
8 | Bridge of Sand | 1963 | - | アーメド・フォス |
9 | The Greek Affair | 1964 | - | ジョン・アイヴズ |
10 | Little Hercules | 1965 | - | ハーヴェー・フレーサー |
11 | 愚なる裏切り | 1966 | 講談社 ウイークエンド・ブックス('68) | トミー・ロールズ ハードボイルド |
12 | This Gun is Still | 1967 | - | ジム・フォレスター |
13 | The Twilight Man | - | ジム・ランド | |
14 | The Cold Gap | 1968 | - | サージェント |
15 | The Dawn Riders | - | サム・パーカー | |
16 | The Etruscan Bull | 1969 | - | トム・ローガン |
17 | The Curly Wolf | - | ジム・コーベット | |
18 | The Spanish Prisoner | 1972 | - | |
19 | Wanted | - |
No. | 事件名 | 発表年 | 邦訳 | 備考 |
1 | Pease Marshal | 1939 | - | ジョン・ボニウェル |
2 | Outlaw (Rebel Road) 叛逆者の道 |
1941 | 新鋭社 ダイヤモンドブックス('58) | ジム・チャップマン |
3 | Gunfight | 1942 | - | ジム・パーカー |
4 | Fighting Man | 1948 | - | ジム・ダンサー |
5 | Broken Lance | 1949 | - | ジョン・リーチ |
6 | Smoky Road (The Lone Gunhawk) |
- | ジム・ロールズ | |
7 | 六番目の男 | 1953 | HPB(ポケットブック)522 | ジョン・スレーター 映画化('56) |
8 | Quantrell's Raiders | 1954 | - | ドニー・フレッチャー |
9 | Bitter Sage | - | ウェス・タンクレッド | |
10 | Bugles West | - | トム・ローガン | |
11 | The Highway Man | 1955 | - | サム・ボナー |
12 | Buffalo Grass (Big Land) |
1956 | - | チャド・モーガン |
13 | Lonesome River | 1957 | - | トム・ウィバー |
14 | Town Tamer | - | トム・ロサー | |
15 | The Marshal | 1958 | - | タッド・ジェイ |
16 | The Bushwhackers | 1959 | - | フィル・ボッカー |
No. | 事件名 | 発表年 | 邦訳 | 備考 | |
1 | The Man From Missouri | 1956 | - | クエイドもの2編他 全4編 |
|
1 | The Man From Missouri | - | |||
2 | Outlaw | - | |||
2 | Tales of Wells Fargo | 1958 | - | 西部小説の短編集 |
No. | 事件名 | 発表年 | 邦訳 | 備考 |
1 | Candid Witness 写真は嘘をつかないが |
1937 | EQMM'59.8 | |
2 | Honesty Is My Motto 正直こそわがモットー |
EQMM'61.5 | ||
3 | The Marshal of Broken Lance 硝煙の町 |
1938 | 早川文庫 NV40「駅馬車」('73) EQMM'61.9 |
|
4 | The Ring and the Finger 指 |
国書刊行会 ブラック・マスクの世界5「ブラック・マスク異色作品集」('86) | ||
5 | The Gold Cup 黄金のカップ |
1940 | 別冊宝石75('58) | |
6 | The Thirteen Floor 十三階 (十三階の女) |
1949 | 岩波少年文庫「八月の暑さのなかで ホラー短編集」('10) 岩崎書店 恐怖と怪奇名作集10「けむりのお化け」('99) HSS(ハヤカワサスペンスシリーズ)4001('63) |
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7 | Cat and Mouse ねずみと猫 |
EQMM'58.5 | ||
8 | You Can't Crack a Modern Safe おれをクビにできない |
EQMM'60.5 | ||
9 | If I Can Ever Forget 過去のある花嫁 |
HMM'66.2 | ||
10 | 兇銃ものがたり | 宝石'55.4(10-6) |
No. | 事件名 | 発表年 | 邦訳 | 備考 |
1 | The Pulp Jungle | 1967 | - |
【参考】「グルーバー 殺しの名曲5連弾」(講談社 講談社文庫)
「コルト拳銃の謎」(東京創元社 創元推理文庫)