江戸川乱歩が愛した作家
アメリカの本格推理作家。 ロジャー・スカーレットは女性二人の合作ペンネームで、ドロシー・ブレアとイヴリン・ペイジの二人が共同して作品を書き上げました。
二人の経歴については、イヴリン・ペイジについてはある程度判明しています。彼女はフィラデルフィアに生まれ、1926年に修士号を取得した後に出版業界に就職し、やがてフリーの物書きに転身し、この時期にドロシー・ブレアと合作でミステリも発表しています。
第二次大戦中は空軍関係の仕事に従事し、戦後はペンシルヴェニア大学で博士の学位を取得。その後数多くの学校で教職に就く傍らで歴史学も学び、またフランス語やドイツ語、ペルシャ語などにも詳しかったといいます。
そして1960年代から70年代にかけて単独名義で1冊の小説と探検や地理に関するノンフィクションの本を1冊発表しています。
もう一方のドロシー・ブレアについては1903年生まれということ以外ははっきりしたことは判っていないようです。
スカーレットはアメリカ本国ではすでに忘れられた作家のようですが、日本では江戸川乱歩が長編「エンジェル家の殺人」を激賞し、わざわざ翻訳権まで取って「三角館の恐怖」の題名で訳したほどで、翻訳にも恵まれて4作品が刊行されています。
この作品を含めて全部で5作の長編を発表していますが、すべてに共通するのは舞台がボストンであり、ノートン・ケイン警部を探偵役に起用していて、また不可解な犯罪の謎を前面に据えた上で、伏線を緻密に張り巡らしてそれを結末の意外性に結びつけるという、黄金時代の本格ミステリの典型的な作風を持っている所です。
No. | 事件名 | 発表年 | 邦訳 | 備考 |
1 | ビーコン街の殺人 (密室二重殺人事件) |
1930 | 論創社 論創海外ミステリ72('07) 新青年'40春季増刊(抄訳) |
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2 | 白魔 (ペルシア猫のなぞ) |
別冊宝石39(抄訳)('54) 春秋社 傑作探偵叢書('35) 新青年'33.6-11 中三時代'64.6付録 |
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3 | 猫の手 | 1931 | 新樹社 エラリー・クイーンのライヴァルたち4('00) 宝石'55.1新年特大号(抄訳) |
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4 | エンジェル家の殺人 | 1932 | 創元推理文庫244-1 東京創元社 世界推理小説全集37('56) |
江戸川乱歩「三角館の恐怖」の原作 |
5 | ローリング邸の殺人 | 1933 | 論創社 論創海外ミステリ34('05) |
No. | 事件名 | 発表年 | 邦訳 | 備考 |
1 | The Chestnut Tree | 1964 | - | |
2 | American Genesis | 1973 | - | 探検や地理的発見を主題とするノンフィクション |
【参考】「EQ1996年7月号(第112号)」(光文社)