伯爵の位を持つ貴族刑事
アメリカの女流作家エリザベス・ジョージの生み出した、スコットランド・ヤード犯罪捜査課の警部。
本格黄金時代の代表的女流作家の一人ドロシー・L・セイヤーズのピーター・ウィムジイ卿を髣髴とさせる第8代アシャートン伯爵という由緒正しい家柄に生まれた貴族で、かつ名門の紳士教育校であるイートン校からオックスフォード大学に進んだエリートですが、卒業後は思う所があって警察入りを果たします。
そして明晰な頭脳と敏腕な手腕を買われて記録的なスピードで出世を果たし、現在では上司であるウェバリーの秘蔵っ子として、周囲から大いに期待を集めています。
物語ではこのリンリー警部の他、彼の学生時代からの親友で、リンリーの運転する車の事故で片脚を失いつつも彼の良き理解者であり続ける鑑識の専門家サイモン・オールコート=セント・ジェイムズと、セント・ジェイムズの助手で貴族のレディ・ヘレン・クライド、そしてセント・ジェイムズの使用人ジョセフの娘でセント・ジェイムズの妻のデボラ・コッターが登場してリンリー警部を支えます。
更にもう一人、リンリーの部下で部長刑事のバーバラ・ハヴァーズという女性キャラクターも登場しますが、彼女はリンリーとはまさに対照的といえるキャラクター設定となっています。
労働者階級の出身で、数年前に最愛の弟を亡くし、母親の介護問題も抱える苦労人であり、また容姿も決して良い方でありません。
性格も偏屈でどの刑事とコンビを組んでも上手くいかず、そのためしばらくは路上勤務に格下げされ、男社会である警察組織の中で孤軍奮闘の日々を送っていましたが、上司ウェバリーの恩情でリンリーとコンビを組むこととなります。
しかし貴族出身という上流社会の人間でおまけに容姿端麗なリンリー警部とは、やっかみもあってか辛辣なやり取りに終始し、事あるごとに衝突を繰り返すのですが、それが自然と緊張感を生み出し、物語に厚みを加えてくれます。
警察を舞台とするものの警察小説というよりは謎解きに重きが置かれた本格作品という色合いが強いシリーズですが、同時に以上の5人の登場人物が織り成す人間ドラマも楽しめるシリーズでもあります。
No. | 事件名 | 発表年 | 邦訳 | 備考 |
1 | 大いなる救い (そしてボビーは死んだ) |
1988 | 早川文庫194-7 新潮文庫('91) |
アガサ賞 アンソニー賞 フランス推理小説大賞 |
2 | 血ぬられた愛情 | 1989 | 新潮文庫('94) | |
3 | 名門校 殺人のルール | 1990 | 新潮文庫('96) | |
4 | ふさわしき復讐 | 1991 | 早川文庫194-1 | シリーズ中、時系列的には最初の作品 |
5 | エレナのために | 1992 | 早川文庫194-2 | |
6 | 罪深き絆 | 1993 | 早川文庫194-3・4(上下) | |
7 | 隠れ家の死 | 1994 | 早川文庫194-5・6(上下) | |
8 | 消された子供 | 1996 | 早川文庫194-8・9(上下) | |
9 | Deception on His Mind | 1997 | - | バーバラ・ハヴァーズが主人公の番外編 |
10 | In Pursuit of the Proper Sinner | 1999 | - | |
11 | A Traitor to Memory | 2001 | - | |
12 | A Place of Hiding | 2003 | - | |
13 | With No One As Witness | 2005 | - | |
14 | What Came Before He Shot Her | 2006 | - | |
15 | Careless in Red | 2008 | - | |
16 | This Body of Death | 2010 | - | |
17 | Believing the Lie | 2012 | - |
No. | 事件名 | 発表年 | 邦訳 | 備考 | |
1 | The Evidence Exposed | 1999 | - | ||
1 | The Evidence Exposed 露見 |
1990 | 早川文庫「優しすぎる妻 シスターズ・イン・クライム2」('92) | ||
2 | I, Richard リチャードの遺言 |
1999 | 早川文庫「殺さずにはいられない1」('02) | ||
3 | The Surprise of His Life 生涯最大の驚き |
1996 | 早川文庫「ウーマンズ・ケース/上」('98) HMM'97.1 |
【参考】「血ぬられた愛情」(新潮社 新潮文庫)