隅の老人
(The Old Man in the Corner)

　バロネス・オルツィ（オルツィ男爵夫人）が創造したキャラクターで、イギリスの首都ロンドンのストランドにある小さな喫茶店〈ＡＢＣショップ〉で、チーズケーキをほおばり、ミルクをすすっている正体不明の怪人物であり、名前・出身・年齢・経歴・職業などは一切不明というめずらしい探偵です。

　女性記者のポリー・バートンから事件のあらましを聞いただけで真相を明らかにしてしまうという、いわゆる〈安楽椅子探偵〉の代表格として有名な探偵で（実際は現場に赴いていますが）、推理に熱中し出すとポケットから一本の紐の切れ端を取り出し、骨ばった手でそれを結んだりほぐしたりする妙なくせを持っています。

　また隅の老人は、事件の真相を見抜いても警察に届けようとせず、ただ複雑怪奇な難事件の真相を暴くのを楽しむだけという偏屈なところもあります。

　それ以外については、作品中のネタバレになるのでお話できませんが、とにかく怪しい人物であることは間違いありません。

　このシリーズは当時コナン・ドイルの生み出したシャーロック・ホームズが爆発的な人気を集めていたことから、オルツィが編集者に探偵小説を書いてみないかと示唆を受けて書い作品で、1901年に最初の隅の老人譚「フェンチャーチ街の謎」が〈ロイヤル・マガジン〉に掲載されて以来、1904年までに37の短編が同雑誌に連載されました。

　そしてそれらの短編を収録した短編集が全部で３冊刊行されていますが、オルツィの作家紹介ページでも述べてあるとおり、第２短編集の方が、第１短編集よりも先に刊行されているという変わった刊行のされ方がなされています。