森村誠一
(Seiichi Morimura)

　日本の小説家。夏樹静子とともに1970年代を代表するミステリー作家であり、また推理小説以外に時代・歴史小説やビジネス書なども発表しています。

　埼玉県の熊谷市に生まれ高校を卒業すると東京・新橋の自動車部品会社に勤務していましたが、退社して青山学院大学の英米文学科に進学。1958年に大学を卒業すると、新大阪ホテルを皮切りに10年の間ホテルマンとして働きます。

　作家を志すようになったのはこのホテル勤務時代で、東京都市センターホテルに勤務している時にそのホテルを仕事場としていた作家・梶山季之に刺激を受けたためでした。もっとも最初はビジネス書を中心に作品を発表し、1965年のデビュー作も「サラリーマン悪徳セミナー」というビジネス書でした。

　その後1967年にホテル・ニューオータニを退社し東京スクール・オブ・ビジネスのホテル・観光科の講師となった頃から本格的な執筆活動を開始し、同年初めての長編小説となる「大都会」を発表。そして1969年にそれまでの長編小説すべてを刊行してくれていた青樹社の編集長で恩師の那須英三氏に勧められて初めて推理小説を意識して書かれた長編「高層の死角」を発表。この作品で第15回江戸川乱歩賞を受賞し、一躍注目を集めたのです。

　ちなみにその那須氏の名前は1971年の「東京空港殺人事件」以降数多くの森村作品に登場する警視庁捜査一課警部の名前の由来にもなっています。

　その後は推理小説をメインに作品を発表するようになり、長編「腐蝕の構造」で第26回日本推理作家協会賞を受賞した他、松田優作主演で映画化もされ代表作となった「人間の証明」で第３回角川小説賞を受賞するなど数多くのベストセラー作品を世に送り出し、推理小説の世界で不動の地位を築きます。

　その作品数は現在までに300を超え、累計発行部数も１億部を超えているそうで、名実ともにまさに国内ミステリーを代表する推理小説家の一人といっていいでしょう。

　その作風は初期作品はホテルマンの経験や大学在学中に登山に親しんだことから、ホテルや山、それに当時最先端の交通機関だった飛行機や新幹線などを舞台に、密室やアリバイ崩しなどの本格トリックを駆使した作品を多く発表していましたが、次第に社会性やサスペンスの要素も取り入れた作風へと変化していったと言われています。

　また同じモチーフを題材とした長編連作をいくつか発表しており、「人間の証明」「青春の証明」「野性の証明」の”証明”シリーズ三部作や「白の十字架」「火の十字架」「黒の十字架」の”十字架”シリーズ三部作、それに「太陽黒点」「空洞星雲」「凄愴圏」の”新本格推理”三部作があります。

　シリーズキャラクターとしては前述の那須警部の他、「人間の証明」にも登場した棟居刑事を1993年発表の「棟居刑事の復讐」から本格的に起用するようになり、以降の氏の長編作品の大半に登場しています。
　他にも〈終着駅〉シリーズ銘打ってＴＶドラマ化され大変な人気を集めている新宿西署の”モーさん”こと牛尾正直がいて、両者は同じ作品の中に揃って登場し合同で捜査することもしばしばあります。

　また角川春樹氏と親交があり、多くの作品が角川文庫版に収められ、「人間の証明」が角川書店から映画化された際には一大ブームを巻き起こしました。そして角川氏が麻薬事件で不祥事を起こした際には”角川書店の将来を考える会”を結成し、「イカロスは甦るか─角川事件の死角」という角川氏を擁護する著書を著したりもしています。

　ミステリ作品以外では1981年から発表した旧日本軍の第731部隊の実情を明らかにしたノンフィクション作品「悪魔の飽食」の三部作がベストセラーになりましたが、写真の誤用問題などもあり当時大きな社会的関心を集めました。
また1980年代初め頃からは時代小説の分野にも進出し、「忠臣蔵」「太平記」「新選組」など数多くの作品を発表しています。

　その他にもデビュー当時に書いていた一連のビジネス書やエッセイ、更に近年は写真俳句にも興味を示しこれに関するいくつかの著作もあります。