キング・コングの生みの親としても知られるイギリスの大衆作家

UK エドガー・ウォーレス
(Richard Horatio Edgar Wallace)

正義の四人
「正義の四人」
（1905年）
（改造社）

　1900年代から20年代にかけて活躍し、当時人気を集めていたイギリスの小説家で、詩人、劇作家、ジャーナリストなど多彩な才能を発揮した人物でもあります。

　名もない女優の私生児として生まれますが、すぐに市内の魚市場の運搬人の所に養子に出されてしまいます。
そして幼少の頃から新聞売りや印刷工場、靴屋などのあらゆる職業を転々としながら学校を卒業し、その後ロイター通信、〈デイリー・メール〉紙に勤務しますが名誉毀損事件で失職。戦争が始まると特派員としてボーア戦争取材のため1896年南アフリカに赴きます。

　905年になると小説の執筆を始め、その年に発表した処女長編「正義の四人」が好評を博し一躍流行作家の仲間入りを果たします。　ただこの作品は読者から解決法を募って、賞金五百ポンドをかけたことでも有名ですが、結局正解者が多く懸賞の額も多かったため営業的には失敗だったそうです。

　以後27年間の間に約150もの著作と17の戯曲、それに数え切れないほどの新聞記事、エッセイ、短編小説を残していて、速い時は週に１作のペースで執筆をしていたと言われています。

キング・コング
「キング・コング」
（1933年）
（角川書店）

　またその中に登場するシリーズキャラクターも、処女作で登場した正義の四人（のち正義の三人）をはじめ、魅力溢れる臆病な紳士Ｊ・Ｇ・リーダー氏、調整者（ミクサー）のアンソニー・スミス、世界五大義賊の一人に挙げられる女賊フォー・スクウェア・ジェーン、詐欺師（リンガー）のアーサー・ミルトンなど数多く生み出しています。

　1932年に仕事でハリウッドに赴いた際に急逝。　競馬が趣味でレース場で５分のうちに1000ポンド負けたかと思うと、週末には猛烈な勢いで小説を執筆して取り戻すほどの達筆で、当時の人気も絶大でしたが、多作が災いしてかこれといった特出した傑作というものはありません。
それでもそのテンポの良いストーリーと読み易さで、今なお多くの作品が読み継がれています。
特にドイツでは今現在でも人気が高いそうで、戦後最初のミステリ賞として〈エドガー・ウォーレス賞〉も設置されてるほどです。

　日本でも馴染みのある1976年放映の映画「キング・コング」の原作者としても有名ですが、欧米ではミステリ作家としての認知度の方が高いようです。

■作家ファイル■

出身地
イギリス、ロンドン郊外グリニッチ
生没
1875年～1932年
作家としての経歴
1905
長編「正義の四人」で作家デビュー。以後1932年に没するまでに刊行数およそ150冊、短編にして400編ほどの作品発表
シリーズ探偵
正義の四人（途中から正義の三人）(The Four Just Men)
Ｔ・Ｂ・スミス (T. B. Smith)
コミッショナー・サンダース (Mr. Commissioner Sanders)
ボーンズ中尉 (Lieutenant Bones)
魅力溢れる臆病な紳士Ｊ・Ｇ・リーダー氏 (J. G. Reeder)
ロンドン警視庁のオレター (Orator)
女賊フォー・スクウェア・ジェーン (Four Square Jane)
怪盗（調整者）（ミクサー）アンソニー・スミス (The Mixer)
詐欺師（リンガー）のアーサー・ミルトン (Ringer)
物知りエヴァンズ (Educated Evans)
スマイジイ (Smithy)
Ｐ・Ｃ・リイ
ロンドン警視庁ミンター警視（スーパーインテンデント）(Superintendent Minter)
エルク警部 (Detective Inspector Elk)
山賊（ブリガンド）アンソニー・ニュートン (Anthony Newton)
けちな悪党エレガント・エドワード (Elegant Edward)
代表作
「正義の四人」
「影の人」「鉄槌」「黄色い蛇」
「Ｊ・Ｇ・リーダー氏の心」（短編集）
「キング・コング」

■著作リスト■

１　正義の四人登場作品リスト

２　T. B. スミス登場作品リスト

【長編】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 The Nine Bears
(米 The Other Man)
(The Cheaters)		 1910 - エルク警部との共演
2 The Secret House 1917 -

【短編集】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 The Admirable Carfew 1914 -

３　エルク警部登場作品リスト

【長編】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 The Nine Bears
(米 The Other Man)
(The Cheaters)		 1910 - T. B. スミスとの共演
2 The Fellowship of the Frog 1925 -
3 The Joker or The Colossus 1926 -
4 The Twister 1928 -
5 The India-Rubber Men 1929 -
6 White Face 1930 -

４　コミッショナー・サンダース＆ボーンズ中尉登場作品リスト（African Novels）

【長編】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 The River of Stars 1913 - サンダース

【短編集】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 Sanders of the River 1911 - サンダース
2 The People of the River 1912 - サンダース
3 Bosambo of the River 1914 - サンダース
4 Bones 1915 - ボーンズ中尉
5 The Keepers of the King's Peace 1917 -
6 Lieutenant Bones 1918 - サンダース＆ボーンズ中尉
7 Bones in London 1921 - ボーンズ中尉
8 Sandi, the King Maker 1922 -
9 Bones of the River 1923 - サンダース＆ボーンズ中尉
10 Sanders
(米 Mr. Commissioner Sanders)		 1926 - サンダース
11 Again Sanders 1928 - サンダース
２編にボーンズ中尉

５　物知りエヴァンズ登場作品リスト

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 Educated Evans 1924 -
2 Good Evans!
(The Educated Man)		 1926 -
3 More Educated Evans -

６　Ｊ・Ｇ・リーダー氏登場作品リスト

【長編】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 Room 13 1924 -
2 Terror Keep 1927 -

【短編集】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 The Mind of Mr J.G. Reeder
(米 The Murder Book of Mr. J.G. Reeder)
（Ｊ・Ｇ・リーダー氏の心）		 1925 - クイーンの定員72
1 Sheer Melodrama -
2 The Green Mamba -
3 The Investors -
4 The Poetical Policeman
詩人警官		 ＨＭＭ'76.7
5 The Stealer of Marble -
6 The Strange Case -
7 宝探し ＨＰＢ252「名探偵登場３」（'56）
8 The Troupe -
2 Red Aces 1929 -
3 The Guv'nor and Other Short Stories
(米 Mr. Reeder Returns)		 1932 -

【日本で編纂の短編集】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 インチキ一座 第一書房　ホリデイ叢書5（'32） 収録作品不明

７　詐欺師（リンガー）アーサー・ミルトン登場作品リスト

【長編】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 The Gaunt Stranger
(米 The Ringer)		 1925 -
2 鉄槌 1927 平凡社　世界探偵小説全集13（'30） 警察小説

【短編集】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 Again the Ringer
(米 The Ringer Returns)		 1929 -

８　調整者（ミクサー）アンソニー・スミス登場作品リスト

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 The Mixer
（ミクサー（調整者））		 1927 -
1 A Close Call and Its Sequel -
2 A Gambling Raid -
3 A Speculation in Shares -
4 A Strange Film Adventure -
5 Cinema Teaching by Post -
6 How a Famous Master Criminal Was Trapped -
7 Mr. Limmerburg's Waterloo -
8 Mr. Sparkes, the Detective -
9 The Bank That Did Not Fail -
10 The Billiter Bank Smash -
11 The Case of Dolly de Mulle -
12 The Crown Jewels -
13 The Girl from Gibraltar -
14 The Great Geneva Sweepstake -
15 The Outwitting of Pony Nelson -
16 The Professor -
17 七十四番目のダイヤ 創元推理文庫104-28「完全犯罪大百科/上」（'79）
ＨＭＭ'77.2
18 The Silk Stockings -
19 The Spanish Prisoner -
20 The Submarine-Chaser Coup -

９　女賊フォー・スクウェア・ジェーン登場作品リスト

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 Four Square Jane
（フォー・スクウェア・ジェーン）		 1929 - 何編かは不明
1 盗まれた名画
（盗まれたロムニー）		 1919 創元推理文庫104-27「犯罪の中のレディたち/下」（'79）
ＨＭＭ'68.12
宝石'55.12(10-17)

10　その他の作品

【長編】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 Angel Esquire 1908 -
2 Captain Tatham of Tatham Island
(Eve's Island)		 1909 -
3 The Duke in the Suburbs -
4 Private Selby 1912 -
5 The Fourth Plague 1913 -
6 Grey Timothy
(Pallard the Punter)		 -
7 1925: The Story of a Fatal Peace 1915 -
8 The Man Who Bought London -
9 The Melody of Death -
10 A Debt Discharged 1916 -
11 The Tomb of T'sin -
12 The Clue of the Twisted Candle 1917 -
13 Those Folk of Bulboro 1918 -
14 Down Under Donovan -
15 The Green Rust 1919 -
16 Kate Plus Ten -
17 The Man Who Knew
すべてを知れる男		 探偵趣味
18 黄水仙事件 1920 尖端社（'31）
犯罪科学1-2（'30）		 エドガー・ウオレス
19 Jack O'Judgement -
20 The Angel of Terror
(米 The Destroying Angel)		 1922 -
21 The Crimson Circle
（真紅の輪）		 -
22 The Flying Fifty-Five -
23 Mr Justice Maxwell -
24 The Valley of Ghosts -
25 The Book of All Power 1923 -
26 Captains of Souls -
27 The Books of Bart -
28 血染の鍵 春陽堂　探偵小説全集８（'29）
29 The Green Archer -
30 迷路の花 博文館　探偵傑作叢書32（'25）
31 The Dark Eyes of London 1924 -
32 Double Dan
(米 Diana of Kara-Kara)		 -
33 The Face in the Night -
34 The Sinister Man -
35 The Three Oak Mystery -
36 The Blue Hand 1925 -
37 The Daughters of the Night -
38 The Avenger
(米 The Hairy Arm)		 -
39 A King by Night -
40 The Man from Morocco
(米 The Black)		 -
41 The Strange Countess -
42 Barbara on Her Own 1926 -
43 The Black Abbot -
44 The Day of Uniting -
45 The Door with Seven Locks -
46 The Hand of Power -
47 The Million Dollar Story -
48 The Northing Tramp
(The Tramp)		 -
49 Penelope of the Polyantha -
50 The Square Emerald
(米 The Girl from Scotland Yard)		 - 前副総監の娘レスリー・モーガン
51 The Terrible People -
52 We Shall See!
(米 The Gaol Breaker)		 -
53 黄色い蛇 紫文閣　翻訳大衆小説シリーズ（'39） スリラー
エドガア・ウオーレス
54 Big Foot 1927 - ミンター警視
55 The Feathered Serpent -
56 渦巻く濃霧 博文館文庫68（'39）
博文館　世界探偵小説全集18「ウオーレス集」（'31）
新青年'23夏季増刊		 エドガア・ウォーレス
1923年にイギリスで創刊された探偵雑誌のために書き下ろされた作品
57 The Forger
(米 The Clever One)		 -
58 影の人 平凡社　世界探偵小説全集12（'30）
59 Number Six -
60 The Squeaker
(米 The Squealer)		 -
61 反逆者の門 平凡社　世界探偵小説全集13「鉄槌」（'30）
春陽堂　探偵小説全集８（'29）		 ミセス・ジェーン・オラービイ
62 The Double 1928 -
63 The Flying Squad -
64 The Gunner
(米 Gunman's Bluff)		 -
65 The Thief in the Night -
66 The Golden Hades
黄金島秘譚？		 1929 新青年'38.4特大？
67 The Green Ribbon -
68 The Terror -
69 The Calendar -
70 The Man Who Changed His Name -
71 The Clue of the Silver Key
(米 The Silver Key)		 1930 -
72 The Lady of Ascot -
73 The Coat of Arms
(米 The Arranways Mystery)		 1931 - 最後の発表作品（らしい）
74 The Devil Man -
75 The Man at the Carlton -
76 On the Spot -
77 When the Gangs Came to London 1932 -
78 The Frightened Lady
(米 The Mystery of the Frightened Lady)		 1933 -
79 キング・コング 角川文庫（'76）
創元推理文庫569-1
早川文庫　ＮＶ1098（'05）
グロービジョン出版社（'76）		 メリアン・Ｃ・クーパー監督で映画化（'33）
ジョン・ギラーミン監督で映画化（'76）
80 The Mouthpiece 1935 -
81 Smoky Cell -
82 The Table 1936 -
83 Sanctuary Island -
84 The Road to London 1986 -

【原題不明の長編】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 魔経 博文館文庫122（'40）
新青年'40新春増刊

【短編集】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 Smithy 1905 -
2 Smithy Abroad: Barrack Room Sketches 1909 -
3 Smithy's Friend Nobby 1914 -
4 Smithy and the Hun 1915 -
5 Tam O' the Scouts 1918 -
6 The Fighting Scouts 1919 -
7 The Adventures of Heine -
8 Chick 1923 -
9 The Brigand 1927 - 山賊アンソニー・ニュートン
10 Elegant Edward 1928 -
11 The Orator -
12 The Big Four 1929 -
13 The Black -
14 For Information Received -
15 Forty-Eight Short Stories -
16 The Ghost of Down Hill -
17 The Iron Grip -
18 The Lady of Little Hell -
19 The Lone House Mystery - ミンター警視
20 Planetoid 127 and The Schweizer Pump -
21 The Reporter - ヨーク・サイモン
22 The Cat Burglar -
23 Circumstantial Evidence -
24 Fighting Snub Reilly -
25 The Governor of Chi-Foo -
26 The Little Green Man -
27 The Prison-Breakers -
28 Killer Kay 1930 -
29 The Lady Called Nita -
30 Mrs William Jones and Bill -
31 Sergeant Sir Peter
(Sergeant Dunn, CID)		 1932 -
32 The Steward -
33 The Last Adventure 1934 -
34 The Woman from the East -
35 Nig-Nog and other humorous stories -
36 The Edgar Wallace Reader 1943 -
37 The Undisclosed Client 1963 -
38 The Man Who Married His Cook 1976 -
39 The Sooper and Others 1984 -
40 The Death Room: Strange and Startling Stories 1986 -

【邦訳短編】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 コード・ナンバー　２ 1916 講談社文庫「世界スパイ小説傑作選１」（'78）
2 The Ghost of John Holling
ジョン・ホリングの亡霊		 1924 ＥＱＭＭ'63.8
3 ウォーム・アンド・ドライ 早川文庫2-35「クイーンズ・コレクション１」（'83） ミンター警視
4 読心術合戦 創元推理文庫110-10「探偵小説の世紀/上」（'83）
5 同じ毛色の馬 早川文庫149-1「敗者ばかりの日」（'88）
6 The Father Christmas Job
サンタクロースがやってきた		 ＨＭＭ'68.4
7 蛇のような女 新青年'22.12 原題不明
8 樹上の遺書
9 兇盗フレイ
（兇賊フレイ）		 博文館　探偵傑作叢書23「秘密の女」（'24）
新青年'23.1増刊
10 最後の犯罪 新青年'23.8
11 海上の幽霊 新青年'25.8
12 石を盗む女
13 宝石箱 新青年'30春季増刊
14 状況証拠 新青年'30.5
15 警鐘装置 新青年'31新春増刊
16 負けない男 新青年'34夏季増刊
17 葉巻の灰 新青年'35春季増刊
18 母の手 新青年'35夏期増刊
19 文束 新青年'37夏季増刊
20 懐しの古戦場 新青年'40新年特大
21 寶を探す 探偵小説'32.4（2-4）
22 脱獄 探偵小説'32.8（2-8）

【参考】「海外探偵小説作家と作品」江戸川乱歩著（早川書房）
「敗者ばかりの日」（ハヤカワミステリ文庫）
海外サイト「CRIME & MYSTERY FICTION」様
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