ジョン・Ｄ・マクドナルド
(John Dann MacDonald)

　アメリカの推理小説家。ミステリーの世界では「マクドナルド」という名前はハードボイルド御三家の一人でリュウ・アーチャーの生みの親であるロス・マクドナルドや本格黄金時代のフィリップ・マクドナルド、更にはグレゴリー・マクドナルドなどがいますが、このジョン・Ｄ・マクドナルドも作品数の面からも、その質の高さからいっても、三人に負けないほどの実力を持った作家です。

　この点ミステリー作家で評論家でもあったアントニー・バウチャーの「ロス・マクドナルドとジョン・Ｄ・マクドナルドを仮に混同して読んだとしても決して失望はしないであろう」という言葉はあまりに有名な名言として知られています。

　1939年にハーヴァード大学で経営学を学び、卒業後まもなく第二次世界大戦に従軍。アジアを転戦して中佐にまで昇進し、終戦とともに除隊します。そして従軍中から余暇を利用して執筆を始め、様々なペンネームを用いてパルプ・マガジンにミステリや戦争もの、ＳＦなど、複数のジャンルにまたがって600以上の短編を書き上げました。

　1950年になると長編にも手を染め、「真鍮のカップケーキ(The Brass Cupcake)」を皮切りに「呪われた者たち」「夜の冒険者」などの傑作を次々と発表。

　徐々に作家としての地位を築いていき、40年の作家生活で69の長編を含む77の著書と１冊の編書を残しています。長編69のうち49冊はペイパーバック（小説版）の書き下ろしで、スピレーンとともにペイパーバック作家の代表格ともいえます。

　また彼の名声を決定づけたのが軽ハードボイルドタッチのトラヴィス・マッギーを主人公とする一連のシリーズで、21の長編のタイトルすべてに色を入れたカラフルなネーミングと、海と女性をこよなく愛するプレイボーイのマッギーが女性のために命を賭ける作風がアメリカの読者に大歓迎され、今もって愛され続けている人気シリーズとなっています。

　他にもＳＦタッチの作品や純文学、パニック小説「コンドミニアム」など、その作風はサスペンスからハードボイルドまで多岐に渡っており、彼の才能の豊かさが窺い知れます。

　作家活動以外に、1962年にはアメリカ探偵作家クラブ（ＭＷＡ）の会長にも就任していて、1972年には長年の功績を讃えてアメリカ探偵作家クラブ（ＭＷＡ）賞の巨匠賞が贈られています。