〈ノックスの十戒〉を提唱

UK ロナルド・A・ノックス
(Ronald Arbuthnott Knox)

陸橋殺人事件
「陸橋殺人事件」
(1925年)
(東京創元社)

 イギリス本格黄金時代に活躍した作家。聖職者の家に生まれ、10歳の時には既にラテン語とギリシャ語の風刺詩を書くほど早熟だったといいます。

 やがてオックスフォード大学に進むと学生会長も務め、卒業試験も首席でパスします。その後二年間トリニティ・カレッジの特別研究員として講師として教鞭を振るった後、自らも父親と同じ聖職の道に進みます。

 5年ほど大学で英国国教会のチャプレンを務めた後、1917年にローマン・カトリックに改宗。19年に司祭となり、26年にはオックスフォード大学のチャプレンに就任。その後36年には司祭として英国国内での最高位に次ぐ地位にまで昇りつめます。 その一方で文学の分野でも多才な才能を発揮し、主にユーモア溢れるエッセイ・詩を数多く発表しています。

 またミステリの分野においても彼独特のユーモア精神に溢れた傑作を次々と生み出し、中でも1925年発表の処女作「陸橋殺人事件」は、”ミステリファンが最初に手にすべき作品がクリスティーの「アクロイド殺し」であるならば、最後に手にするのがこの作品である”と言わしめる程、ひと癖もふた癖もあるマニア向けの問題作として、そして古典的名作として歴史にその名を刻んでいます。

サイロの死体
「サイロの死体」
(1933年)
(国書刊行会)

 その他にも1937年までに合わせて5つの長編が書かれていますが、その全ての作品で私立探偵マイルズ・ブリードンとその妻アンジェラが登場。1939年にはオックスフォードから引退し、ラテン語のウルガタ聖書の新訳に着手していますが、この仕事が彼の人生における最大の業績と言われています。

 作家活動以外でもアントニイ・バークリーらの設立したミステリ作家の親睦団体〈ディテクション・クラブ〉の一員として活躍し、また推理小説に対しては読者に対する徹底したフェアプレーを主張しました。 そうして提唱されたのが〈ヴァン・ダインの二十則〉とともに有名な〈ノックスの十戒〉です。

 もっとも、ノックスは〈十戒〉を示してはいるものの、それを遵守した上で読者にいろんな《肩透かし》を喰らわせてくれるひと癖もある作家です。

 決して堅苦しい作家ではなく、風刺の効いたユーモアが全編にわたって散りばめられていて、思わずニヤリとさせられます。マニアックな部分も多分にありますが、個人的には良い意味で期待を裏切られた作家です。


■作家ファイル■

出身地
イギリス、レスターシャー州ニブワース(マンチェスター英国国教教会の主教エドマンド・アーバスノット・ノックス師の四男として誕生)
学歴
オックスフォード大学卒
生没
1888年2月17日~1957年8月24日(69歳)
作家としての経歴
1925
処女長編「陸橋殺人事件」を発表。その後、1937年までに処女作と合わせて計6長編・4短編・連作長編2編を残す
1928
自らが編纂に関わったアンソロジー「The Best of Detective Stories of the Year 1928」の序文で、有名な〈ノックスの十戒〉を発表
シリーズ探偵
私立探偵マイルズ・ブリードン (Miles Bredon)
代表作
「陸橋殺人事件」「サイロの死体」
「密室の行者」(短編)

■遵守則■

探偵小説十戒
「探偵小説十戒」
(ロナルド・ノックス編)
(晶文社)

【ノックスの十戒】(要約)

 1 犯人は物語の初めから登場していなくてはならない。
 2 犯罪は論理的に解かれねばならず、超自然的なものに依ってはならない。
 3 秘密の部屋や通路は、一つ以上使ってはならない。
 4 新しい、未発見の毒物はダメ。
 5 不吉な外国人、殊に中国人を登場させてはならない。
 6 犯罪は全くの偶然によって解かれてはならない。
 7 探偵が犯人であってはならない。
 8 探偵はわざと手掛りや自らの推論を読者から隠してはならない。
 9 ワトスン役がいる場合、その人物は自らの意見を隠してはならない。
 10 瓜二つの双子や”そっくりさん”を使ってはならない。

【参考】「陸橋殺人事件」(創元推理文庫)


■著作リスト■

1 私立探偵 マイルズ・ブリードン登場作品リスト

2 その他の作品

【長編】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 陸橋殺人事件 1925 創元推理文庫172-1
HPB145
柳香書院 世界探偵名作全集5('36)

【リレー長編】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 屏風のかげに 1930 中央公論社「ザ・スクープ」('83)
2 漂う提督 1931 早川文庫73-1
HMM'80.7-9
3 Six Against the Yard
(Six Against Scotland Yard)
1936 -

【邦訳短編】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 The Fallen Idol
落ちた偶像
1936 HMM'98.10 ディテクション・クラブの連作の一編、元ロンドン警視庁コーニッシュとの合作
2 動機 1937 晶文社 幻の探偵小説コレクション「探偵小説十戒」('89)
EQ'88.11(66)
HMM'76.3
3 一等車の秘密 1947 論創社 論創海外ミステリ61「シャーロック・ホームズの栄冠」('07)
HMM'76.7
シャーロック・ホームズもののパスティーシュ

【編書】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 探偵小説十戒
 幻の探偵小説コレクション
1928 晶文社(抄訳)('89) ヘンリー・ハリントンとの共編
序文に「ノックスの十戒」を収録
2 The Best of Detective Stories of the Year 1929 1930 -
3 Father Brown: Selected Stories 1955 -

【評論その他】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 「ホームズ物語」についての文学的研究 1912 河出文庫「シャーロック・ホームズ17の愉しみ
講談社('80)(河出文庫と同じ)
ホームズ研究
2 探偵小説十戒 1928 晶文社「探偵小説十戒」('89)
成甲書房「ミステリの美学」('03)
EQ'83.11
評論

【参考】「探偵小説十戒 幻の探偵小説コレクション」(晶文社)
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