オールド・ベイリーを舞台に活躍する三文弁護士

UK ホレス・ランポール弁護士
(Horace Rumpole)

ランポール弁護に立つ
「ランポール弁護に立つ」
(1978年)
(河出書房新社)

 自身も法廷弁護士として活躍したイギリスの作家ジョン・モーティマーの生み出した弁護士探偵。初登場は1975年にBBCで放映されたテレビドラマ作品で、その後テレビシリーズ化もなされて人気を集めた後、1978年にはそれらの作品を小説化した第1短編集「ランポール弁護に立つ」が刊行され、以後30年にわたって書き続けられて人気を集めています

 中央刑事裁判所(オールド・ベイリー)の三文弁護士で次の誕生日で68歳を迎えるというそんな彼の風貌は、小太りの体型につぶれた帽子によれよれの服というむさくるしい出で立ちで、いつも安物の短い葉巻を口にくわえ、警句と皮肉が大好き。
 そして予期せぬタイミングでいきなりワーズワースの詩を引用する癖を持っており、彼の活躍するオールド・ベイリー周辺や行きつけのワインバー、ブリックストンの拘置所などで伝説の人物とまではいかなくても、ちょとは名の知れた存在となっています。

 血痕・血液型・指紋・タイプライターによる偽文書作成などについて豊富で確実な知識を持つ半面、華麗な弁舌や鋭く俊敏さ頭脳とは無縁で、決して有罪を認めない基本姿勢を持つなどどちらかというと狡猾や頑固、ときに愚鈍でお人好しという言葉があてはまる性格の持ち主で、そのせいか家では”絶対服従のお方”である妻ヒルダに頭が上がらず…

Rumpole of the Bailey
「Rumpole of the Bailey」
(海外盤DVD)

 と颯爽と謎を解き明かすヒーローというよりは、人生の秋を迎えて理想と現実の狭間において妥協と忍従を甘受する存在として哀感と皮肉を交えて描かれています。

 そんなランポールが扱う事件は少年犯罪に大麻所持、奇妙な動機の強姦事件に捏造された離婚裁判などいった決して華やかなものではありませんが、あるときは鮮やかに無罪判決を勝ち取り、またある時は敗北を喫して肩を落とす姿が人間味たっぷりに描かれていて、著者の根底にも流れるという権威主義への反発や迫力満点の反対尋問など見どころ満載の内容となっています。

 ランポールシリーズは本国イギリスだけでなく海を越えて国際的に認知され、特にアメリカでは〈ランポール・ソサエティ〉が設立されるなど、熱狂的なファンも多いそうです。シリーズは現在11の短編集と4つの長編が発表されていて、短編のほとんどはペンギンブックスから刊行されたオムニバス3巻で読むことが可能。またテレビドラマシリーズの方もかなりの作品がDVD化されています。
 他方日本でもこれまでにミステリ雑誌の〈EQ〉やハヤカワミステリマガジン(HMM)で20編近くが訳出され、2008年に遂に第1短編集が河出書房新社より翻訳刊行されました。


■原作■

ジョン・モーティマー
(John Mortimer 英 1923-2009)


■人物ファイル■

職業
中央刑事裁判所(オールド・ベイリー)の法廷弁護士(バリスター)
弁護士としての出発点はC・H・ウィスタンが所属事務所を務める弁護士事務所に勤務(ここで彼の娘ヒルダ・ウィスタンと知り合い結婚)
現在は所属事務所の最古参メンバーとなった
戦時中には英国陸軍で地上勤務に従事
住所
グロスター・ロード、フロックスベリー・コート25のB
年齢
67歳
学歴
ノーフォークの海岸沿いにある二流のパブリックスクールから
オックスフォード大学のキーブル・カレッジに進んで法学を学ぶ
趣味
回想録の執筆(この作品中で語られるのがまさにそれであり、物語中では語り手を務める)
好きなもの
葉巻
ワイン(フリート・ストリートにあるポムロイズ・ワインバーが行きつけ)
嫌いなもの
法律そのもの
聖職者(父の影響や大学時代の神学生との交流を通じて)
苦手
妻のヒルダ
特技
血痕・血液型・指紋・タイプライターによる偽文書作成に関する知識は豊富
詩の引用(詩人ワーズワース)、またサー・アーサー・クィラ=クーチ編集の「オックスフォード英国詞華集」の暗誦すべき詩の断片が脳細胞にはぎっしり詰まっているらしい
家族
《絶対服従のお方》とされる妻のヒルダ
自慢の一人息子のニコラス(現在ボルチモア大学の社会学講師)
父のウィルフレッド(英国国教会の牧師)
協力者
書記のアルバート、ヘンリー
ライヴァル
法廷弁護士で下院議員でもあるガスリー・フェザーストーン

■事件ファイル■

【短編集】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 ランポール弁護に立つ 1978 河出書房新社 河出ミステリ('08)
1 ランポールと跡継ぎたち
(ランポールと新人類)
EQ'88.5
2 ランポールとヒッピーたち
3 ランポールと下院議員 HMM'95.7
4 ランポールと人妻 HMM'97.9
5 ランポールと学識深き同僚たち
6 ランポールと闇の紳士たち
2 The Trials of Rumpole 1979 -
1 Rumpole and the Man of God
ランポールと神の下僕
EQ'96.11
2 Rumpole and the Showfolk -
3 Rumpole and the Fascist Beast
弁護士ランポール
EQ'84.5
4 Rumpole and the Case of Identity -
5 Rumpole and the Course of True Love -
6 Rumpole and the Age for Retirement -
3 Rumpole for the Defence
(Regina v. Rumpole)
1981 - 「Regina v. Rumpole」は長編1との併録
1 Rumpole and the Confession of Guilt -
2 Rumpole and the Gentle Art of Blackmail -
3 Rumpole and the Dear Departed
ランポールと冥土の依頼人
EQ'94.1
4 Rumpole and the Rotten Apple -
5 Rumpole and the Expert Witness -
6 ランポールとクリスマスの精神 光文社文庫「クリスマスに捧げるミステリー」('93)
EQ'91.1
7 Rumpole and the Boat People
(Rumpole and the Perils of the Sea)
-
4 Rumpole and the Golden Thread 1983 -
1 Rumpole and the Genuine Article -
2 Rumpole and the Golden Thread -
3 Rumpole and the Old Boy Net -
4 ランポールと女たち EQ'89.11
5 Rumpole and the Sporting Life
騎手の死
EQ'87.9
6 Rumpole and the Last Resort -
5 Rumpole's Last Case 1987 -
1 Rumpole and the Blind Tasting -
2 Rumpole and the Old, Old Story -
3 Rumpole and the Official Secret -
4 Rumpole and the Judge's Elbow -
5 Rumpole and the Bright Seraphim -
6 ランポールの休暇 1984 EQ'96.7
7 Rumpole's Last Case -
6 Rumpole and the Age of Miracles 1988 -
1 Rumpole and the Bubble Reputation -
2 Rumpole and the Barrow Boy -
3 Rumpole and the Age of Miracles -
4 Rumpole and the Tap End -
5 ランポールとXマス・パーティー EQ'98.9
6 Rumpole and Portia -
7 ランポールと夫殺し EQ'92.5
7 Rumpole a La Carte 1990 -
1 Rumpole a la Carte -
2 Rumpole and the Summer of Discontent -
3 Rumpole and the Right to Silence
ランポールと黙秘権
EQ'97.9
4 Rumpole at Sea -
5 Rumpole and the Quacks -
6 Rumpole for the Prosecution 1986 -
8 Rumpole on Trial 1992 -
1 Rumpole and the Children of the Devil -
2 Rumpole and the Eternal Triangle -
3 Rumpole and the Miscarriage of Justice -
4 Rumpole and the Family Pride -
5 Rumpole and the Soothsayer -
6 Rumpole and the Reform of Joby Jonson -
7 Rumpole on Trial -
9 Rumpole and the Angel of Death 1995 -
1 Rumpole and the Model Prisoner -
2 Rumpole and the Way Through the Woods -
3 Hilda's Story -
4 Rumpole and the Little Boy Lost -
5 Rumpole and the Rights of Man -
6 Rumpole and the Angel of Death -
10 Rumpole Rests His Case 2001 -
1 Rumpole and the Old Familiar Faces -
2 Rumpole and the Remembrance of Things Past -
3 Rumpole and the Asylum Seekers -
4 Rumpole and the Camberwell Carrot -
5 Rumpole and the Actor Laddie -
6 Rumpole and the Teenage Werewolf -
7 Rumpole Rests His Case -
11 Rumpole and the Primrose Path 2002 -
1 Rumpole and the Primrose Path
ランポールと歓楽の花咲く小道
HMM'03.9
2 Rumpole and the New Year's Resolutions -
3 Rumpole and the Scales of Justice
ランポールと裁きの天秤
HMM'06.4
4 Rumpole and the Right to Privacy -
5 Rumpole and the Vanishing Juror -
6 Rumpole Redeemed -

【長編】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 Rumpole's Return 1980 -
2 Rumpole and the Penge Bungalow Murders
(ランポールとペンジ地区・プレハブ住宅殺人事件)
2004 -
3 Rumpole and the Reign of Terror
(ランポールと恐怖政治)
2006 -
4 The Anti-social Behaviour of Horace Rumpole
(米 Rumpole Misbehaves)
(ホレス・ランポールの反社会的行動)
2007 -

【未収録短編】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 Rumpole and the Nanny Society
ランポールと子守たち
1997 扶桑社ミステリー「双生児」('00)
EQ'98.7

【アンソロジー・オムニバス】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 Rumpole 1980 -
2 The First Rumpole Omnibus 1983 -
3 The Second Rumpole Omnibus 1987 -
4 Rumpole and the Age for Retirement 1989 -
5 The Best of Rumpole: A Personal Choice 1993 - 自選ベスト集
6 The Third Rumpole Omnibus 1997 -

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