Ｊ．ブラウン神父
(Father J. Brown)

　イギリスの作家Ｇ・Ｋ・チェスタトンが創造した神父を仕事とするアマチュア探偵で、ホームズのライヴァルとして非常に重要な探偵の一人です。

　団子のようにまん丸な顔に丸い鼻とパッチリとした灰色の目、小柄な体に僧服をまとい、時代遅れの大きくうねった黒い帽子とオンボロの黒い蝙蝠傘をしょっちゅう落としたり忘れたりと、外見上はどこから見ても不器用でのろくさい貧相な坊さんにしか見えないブラウン神父ですが、事件が起きればどんな状況下でもひるまず持ち前の観察眼と鋭い直感で真相を看破し、たちどころに「謎解き」をしてみせます。

　ただいつも事件を「解決する」とは限らず、時には神父らしく〈罪を憎んで人を憎まず〉とばかりに犯人を見逃すこともあります。

　この点ブラウン神父ものは短編ということもあって、長編のように巧妙な伏線が敷いてあって、読者がそれを見抜いて犯人・トリックを当てたり謎解きを楽しむという形の作品ではありません。そのような作品は本格黄金時代に入ってから主体となります。読者はいわばブラウン神父の推理を聞かされるだけと言っても過言ではありません。

　それにも関わらずこの作品が今もって全く色褪せないのは、この時代の作家としては驚異的ともいえる数のトリックを創出して、その結末において読者をあっと言わせてくれるからです。

　イギリス国内は勿論、時にはアメリカ・メキシコなどを舞台に、全部で51の短編に登場しますが、その大部分の作品に相棒としてフランボウが登場します。