サスペンスの女王
アメリカの推理小説家で、マーガレット・ミラーやヘレン・マクロイらとともに女流サスペンス作家の代表的作家に挙げられるうちの一人です。
大学を卒業後〈ニューヨーク・タイムズ〉紙や会計事務所で働いた後、1939年に「至福の時代」という作品で劇作家としてデビューします。しかし次の第2作も含めてあまり評価が芳しくなかったためミステリの世界へと転身を図ります。
そして1942年に「攻撃せよ、マクダフ!」でミステリ作家としてもデビューを果たしますが、当初この作品も含めて3作目まではマクドゥガル・ダフ警部を主人公とするパズラー色の濃いミステリーを書いていました。
頭角を現したのは1946年に発表した第4作目の長編「疑われざる者」からで、この作品はミステリ作家で評論家でもあるアントニー・バウチャーからも賞賛されています。
以後はサスペンス作家として、順調に作品を発表し続け、1950年発表の「ノックは無用」はリチャード・ウィドマークとマリリン・モンロー主演で映画化され、更に 1956年に発表した「毒薬の小壜」ではアメリカ探偵作家クラブ(MWA)賞の最優秀長編賞を受賞するなどの華々しい活躍を見せています。
彼女の作風は心理的描写によりサスペンス感を高めていくというやり方ではなく、登場人物の行動を通して生じるサスペンス感に重きを置いていて、異常者の登場するサイコ・スリラーでも、殺伐とした物語でもなく、「毒薬の小壜」では小壜の行方を、「始まりはギフトショップ」では豚の貯金箱の行方をめぐる争奪戦をテンポ良く描き出していて、結末も優しく心温まるもので、読後感の心地よいのも特徴の一つです。
また短編の分野でもその実力を大いに発揮していて、短編集「あなたならどうしますか?」に収録された作品はクイーンが絶賛した短編「敵」をはじめとして、〈エラリー・クイーンズ・ミステリ・マガジン(EQMM)〉のコンテストでも上位に選ばれて高い評価を受けた粒揃いの作品集で、クイーンの定員にも選ばれています。
なおこの短編集はクイーンの一人であるフレデリック・ダネイに捧げられています。
No. | 事件名 | 発表年 | 邦訳 | 備考 |
1 | Lay On, MacDuff! (攻撃せよ、マクダフ!) |
1942 | - | |
2 | The Case of the Weird Sisters (気味悪い姉妹たちの事件) |
1943 | - | |
3 | The Innocent Flower (英 Death Filled the Glass) (罪なき花) |
1945 | - |
No. | 事件名 | 発表年 | 邦訳 | 備考 |
1 | 疑われざる者 | 1946 | 早川文庫46-2 HPB233 |
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2 | 見えない蜘蛛の巣 | 1948 | 小学館文庫 ミステリー・クラシック・シリーズ('00) | |
3 | ノックは無用 | 1950 | 小学館文庫 ミステリー・クラシック・シリーズ('98) | マリリン・モンロー主演で映画化('52) |
4 | The Black-Eyed Stranger (黒い眼をした他人) |
1951 | - | |
5 | Catch-As-Catch-Can (Walk Out on Death) (組んずほぐれつ) |
1952 | - | |
6 | The Trouble in Thor (And Sometimes Death) (ソーアの紛擾) |
1953 | - | ジョー・ヴァレンタイン名義 普通小説 |
7 | The Better to Eat You (A Murder's Nest) (あなたを食べた方がましだ) |
1954 | - | |
8 | 夢を喰う女 | 1955 | 東京創元社 クライム・クラブ8('58) | |
9 | 毒薬の小壜 | 1956 | 早川文庫46-1 HPB443 |
MWA賞最優秀長編賞('57) EQアンケート85位 |
10 | The Seventeen Widows of San Souci | 1959 | - | |
11 | サムシング・ブルー | 1962 | 創元推理文庫263-3 | |
12 | Then Came Two Women | - | ||
13 | A Little Less Than Kind | 1963 | - | |
14 | The Mark of the Hand | - | ||
15 | The One-Faced Girl | - | ||
16 | Who's Been Sitting in My Chair? | - | ||
17 | 魔女の館 | 創元推理文庫263-5 トパーズプレス シリーズ百年の物語6('96) |
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18 | The Turret Room | 1965 | - | |
19 | Dream of Fair Woman | 1966 | - | |
20 | 始まりはギフトショップ | 1967 | 創元推理文庫263-1 | |
21 | Lemon in the Basket | - | ||
22 | 風船を売る男 | 1968 | 創元推理文庫263-4 | |
23 | Seven Seats to the Moon | 1969 | - | |
24 | The Protégé | 1970 | - |
No. | 事件名 | 発表年 | 邦訳 | 備考 | |
1 | あなたならどうしますか? (悪の仮面) |
1957 | 創元推理文庫263-2 東京創元社 クライム・クラブ28('59)(抄訳) |
クイーンの定員115 | |
1 | あほうどり | 1957 | |||
2 | 敵 | 1950 | 早川文庫「黄金の13/現代篇」('79) 光文社文庫「世界傑作推理12選&ONE」('86) 新潮文庫「いぬはミステリー」('92) EQMM'60.7 |
EQMM第6回短編コンテスト第1位('50) マイク・ラッセル弁護士 |
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3 | 笑っている場合ではない (女が嘲笑うとき) (笑ってすませろ) |
1953 | EQMM'62.9 探偵倶楽部'56.12 |
EQMM第8回短編コンテスト第3位('53) | |
4 | あなたらなどうしますか? | 1955 | EQMM'59.11 | EQMM第10回短編コンテスト第2位('55) | |
5 | オール・ザ・ウェイ・ホーム (帰り道) |
1951 | EQMM'60.9 | ||
6 | 宵の一刻 (夜のひととき) |
1950 | EQMM'58.5 | マイク・ラッセル弁護士 | |
7 | 生垣を隔てて (籬をへだてて) |
1956 | EQMM'57.3 | ||
8 | ポーキングホーン氏の十の手がかり (探偵ごっこ) |
1956 | EQMM'62.12 | ||
9 | ミス・マーフィ | 1957 | EQMM第12回短編コンテスト第2位('57) | ||
10 | 死刑執行人とドライヴ | 1955 | |||
2 | Duo | 1959 | - | ||
1 | The Girl with a Secret | - | |||
2 | Incident at a Corner | - | |||
3 | I See You | 1966 | - | ||
1 | 敵 | 1950 | 創元推理文庫263-2「あなたならどうしますか?」 早川文庫「黄金の13/現代篇」('79) 光文社文庫「世界傑作推理12選&ONE」('86) 新潮文庫「いぬはミステリー」('92) EQMM'60.7 |
EQMM第6回短編コンテスト第1位('50) 再収録 マイク・ラッセル弁護士 |
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2 | ミス・マーフィ | 1957 | 創元推理文庫263-2「あなたならどうしますか?」 東京創元社 クライム・クラブ28「悪の仮面」('59)(抄訳) |
EQMM第12回短編コンテスト第2位('57) 再収録 |
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3 | At the Circus | - | |||
4 | The World Turned Upside Down | - | |||
5 | Motto Day | - | |||
6 | The Weight of the World | - | |||
7 | The Conformers | - | |||
8 | How They Met | - | |||
9 | I See You | - |
No. | 事件名 | 発表年 | 邦訳 | 備考 |
1 | Three Day Magic 三日魔法 |
1952 | 探偵倶楽部'52.10-'53.3 | |
2 | A Gun Is a Nervous Thing 拳銃は暴発しやすい |
1955 | EQMM'61.6 | |
3 | And Already Lost すでに失われたり |
1957 | EQMM'58.8 | |
4 | The Ring in the Fish 魚が飲んだ指輪 |
1959 | HMM'78.2 | |
5 | St. Patrick's Day in the Morning セイント・パトリック祭の朝早く |
EQMM'61.11 | ||
6 | The Other Shoe もう片方の靴 |
1962 | EQMM'63.5 | |
7 | 当て逃げ (逃げるなら─逃げてみろ) |
1964 | 光文社文庫「世界ベスト・ミステリー50選/下」('94) EQMM'64.8 |
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8 | Mink Coat, Very Cheap 格安のミンクのコート |
EQMM'64.10 | ||
9 | The Case for Miss Peacock アリバイさがし |
1965 | EQMM'65.5 | |
10 | Protector of Travelers 旅人のお守り |
EQMM'65.10 | ||
11 | The Splinterd Monday 月曜日、突然に |
1966 | HMM'66.7 | |
12 | タイミングの問題 | 創元推理文庫104-24「ミニ・ミステリ傑作選」('75) HMM'67.3 |
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13 | The Cool Ones 冷静なるもの |
1967 | HMM'67.7 | |
14 | From Out of the Garden 暗い庭のなかから |
1968 | HMM'94.3 | |
15 | The Light Next Door 隣家の光 |
1969 | HMM'98.2 |
No. | 事件名 | 発表年 | 邦訳 | 備考 |
1 | The Happiest Days (至福の時代) |
1939 | - | 作家としてのデビュー作品 |
2 | Ring Around Elizabeth (エリザベスのまわりの輪) |
1940 | - |
No. | 事件名 | 発表年 | 邦訳 | 備考 |
1 | The Unsuspected | 1947 | - | 「疑われざる者」の脚色 |
2 | Don't Bother to Konck (ノックは無用) |
1952 | - | ダニエル・ダグラッシュとの共同脚色で映画化 |
【参考】「見えない蜘蛛の巣」(小学館 小学館文庫)
「毒薬の小壜」(早川書房 ハヤカワミステリ文庫)
「夢を喰う女」(東京創元社 クライム・クラブ)