ポオとヴァン・ダインの間のアメリカで最も偉大な作家

USA メルヴィル・D・ポースト
(Melville Davisson Post)

ランドルフ・メイスンと7つの罪
「ランドルフ・メイスンと7つの罪」
(1896年)
(長崎出版)

 ホームズのライヴァル期の重要な探偵の一人、アンクル・アブナーの生みの親であり、アメリカ推理小説界において推理小説の父エドガー・アラン・ポオと本格黄金時代の先駆者S・S・ヴァン・ダインの間の最も偉大な作家と評されています。

 牧場を経営する一家の5人兄弟の2番目の長男として生まれ、少年時代から自然に親しみ馬を乗り回す生活をしてきました。 〈アンクル・アブナーシリーズ〉はまさに著者ポーストの幼い頃の実体験に基づいたものといえ、語り手のマーティン少年は作者自身がモデルだと考えられています。

 大学で物理学、化学、地質学、生物学やフランス語、ドイツ語、ギリシア語などを学び、23歳で大学を卒業した後は父親の影響もあって法曹界に入り、刑事弁護士として精力的に活躍していました。しかし、かねてからの作家になるという夢を捨てきれず、友人の口利きもあってその法律家としての仕事の傍らで執筆を開始はじめます。

 そして1896年、自身の法律家としての経験を存分に活かし、法の抜け道を知りぬいた悪徳弁護士メイスンを主人公とする7編の短編作品を発表し、一大センセーションを巻き起こします。

アンクル・アブナーの叡知
「アンクル・アブナーの叡知」
(1918年)
(早川書房)

 その後メイスンものの短編集をもう一作品発表した後、1903年には結婚し、長男が生まれますが、わずか18ヶ月で腸チフスのため亡くしてしまいます。

 この悲しみもあってしばらくは法律家としての仕事を中断。イギリスやフランスなどのヨーロッパ各地をを旅行し、悲しみも癒やされるとともに新しい作品のインスピレーションが浮んできたといいます。

 帰国後は作家活動に専念し、今度はメイスンとは対照的な、聖書を愛読し神の正義を厳格なまでに信ずるアンクル・アブナーを主人公とする短編を発表。このシリーズは当時絶大な人気を博し、第26代アメリカ大統領シオドア・ルーズベルトも愛読していたといいます。

 作品数は少ないのですが、アブナーシリーズは当時としては斬新なトリックを多く用い、またアメリカの古きよき時代を描いた探偵小説の古典的名作として歴史に残る一冊です。

 またアブナー探偵の人間的魅力も抜群であり、S・S・ヴァン・ダインも「最も個性的な性格を持つ探偵の一人」として評価しています。


■作家ファイル■

出身地
アメリカ、ウェストヴァージニア州ハリソン郡クラークスバーグに近い田舎の生まれ
学歴
ウエストヴァージニア大学卒
1891年に文学士、92年には法学士の学位を取得
生没
1869年4月19日~1930年6月23日(落馬がもとで、61歳)
作家としての経歴
1896
大学卒業後、11年間法律の実務に携わった後、法の抜け道を知りぬいた悪徳弁護士メイスンが主人公の短編集「ランドルフ・メイスンと7つの罪」を発表し、一大センセーションを巻き起こす。
その後メイスンものの短編集をさらに2冊刊行
1908
ヨーロッパ旅行からの帰国後は作家活動に専念し、〈サタデー・イヴニング・ポスト〉誌を中心に作品を発表しはじめる
1911
アンクル・アブナーものが雑誌に初登場する(この年、イギリスではG・K・チェスタトンがブラウン神父ものを発表)
1918
ニューヨークのD・アプルトン社よりアンクル・アブナーものの短編集「アンクル・アブナーの叡知」が刊行される
シリーズ探偵
アンクル・アブナー(アブナー伯父) (Uncle Abner)
悪徳弁護士ランドルフ・メイスン (Randolph Mason)
パリ警視庁長官ジョンケル氏 (Monsieur Jonquelle)
代表作
【アンクル・アブナー】
「ズームドルフ事件」「神のみわざ」「ナボテの葡萄園」(全て短編)
【ランドルフ・メイスン】
「罪の本体」「金策(いかさま師たち)」(全て短編)
【ムッシュ・ヨンケル】
「大暗号」(短編)

■著作リスト■

1 アブナー伯父登場作品リスト

2 悪徳弁護士ランドルフ・メイスン登場作品リスト

【短編集】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 ランドルフ・メイスンと7つの罪 1896 長崎出版 海外ミステリGemコレクション13('08) クイーンの定員20
1 罪体
(罪の本体)
光文社文庫「クイーンの定員 I」('92)
EQ'83.1
2 マンハッタンの投機家
(マンハッタンの相場師)
河出文庫「詐欺師ミステリー傑作選」('90)
大和書房「ハリイ・ライムの回想」('85)
3 ウッドフォードの共同出資者
4 ウィリアム・バン・ブルームの過ち
(ヴァン・ブルームの過失)
5 バールを持った男たち
(金策)
(いかさま師たち)
創元推理文庫104-29「完全犯罪大百科/下」('80)
HMM'77.3
6 ガルモアの郡保安官
7 犯意
2 The Man of Last Resort: or The Clients of Randolph Mason
(Randolph Mason: The Clients)
(最後の頼みとなる男)
1897 -
1 The Governor's Machine -
2 Mrs. Van Bartan -
3 Once in Jeopardy -
4 The Grazier -
5 The Rule Against Carper -
3 The Corrector of Destinies: Being Tales of Randolph Mason as Related by His Private Secretary, Courtland Parks
(Randolph Mason, Corrector of Destinies)
(運命の修正者)
1908 -
1 My Friend at Bridge -
2 Madame Versäy -
3 The Burgoyne-Hayes Dinner -
4 The Copper Bonds -
5 The District-Attorney -
6 The Interrupted Exile -
7 The Last Check -
8 The Life Tenant -
9 The Pennsylvania Pirate -
10 The Virgin of the Mountain -
11 An Adventure of St. Valentine's Night -
12 The Danseuse -
13 The Intriguer -

【邦訳短編】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 結婚契約 1908 EQ'82.3(26) 単行本未収録

3 パリ警視庁長官ムッシュー・ジョンケル登場作品リスト

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 Monsieur Jonquelle!
(ムッシュー・ヨンケル)
1923 -
1 大暗号
(ジョウパネーの探検日記)
創元推理文庫169-2「暗号ミステリ傑作選」('80)
HPB253「名探偵登場4」('56)
番町書房 イフノベルス「続世界暗号ミステリ傑作選」('77)
ぷろふいる'35.9
2 Found in the Fog -
3 The Alien Corn -
4 塵除け眼鏡 1922 別冊宝石79('58)
新青年'36夏季増刊
5 幻の扉 立風書房「新青年傑作選4 翻訳編」('70)
新青年'37新春増刊
6 Blïcher's March
ブルウカー行進曲
新青年'39特別増刊
7 The Woman on the Terrace -
8 The Triangular Hypothesis -
9 The Problem of the Five Marks -
10 The Man with Steel Fingers -
11 The Mottled Butterfly
斑紋蝶
新青年'36新春増刊
12 The Girl with the Ruby
紅玉を持てる女
(人造紅玉綺談)
新青年'27.12
名作'39.9

4 その他の作品

【長編】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 Dweller in the Hills 1901 - ウェスト・バージニアのカウボーイを主人公にした冒険小説
2 The Gilded Chair 1910 - ロマンス小説
3 The Mountain School-Teacher 1922 - 宗教小説
4 The Revolt of the Birds 1927 - 東洋が舞台の幻想小説

【短編集】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 The Nameless Thing 1912 - 聖職者と医者と法律家の三人の語り手による、全8編
2 The Mystery at the Blue Villa
(青屋敷の怪事件)
1919 -
1 The Mystery at the Blue Villa -
2 The New Administration -
3 The Great Legend -
4 The Laughter of Allah -
5 The Stolen Life -
6 The Girl from Galacia
ガラシアの女
新青年'23.7
7 The Pacifist -
8 The Sleuth of the Stars -
9 The Witch of the Lecca
レッカの巫女
新青年'23.7
幻影城'76.9
10 The Miller of Ostend -
11 The Girl in the Villa -
12 The Ally -
13 Lord Winton's Adventure
海を隔てて
(ウィントン卿の奇談)
博文館 探偵傑作叢書22「黒衣の女」('24)
春陽堂 探偵小説全集24「短篇集」('29)
新青年'23.1増刊
14 The Wage-Earners -
15 The Sunburned Lady -
16 The Baron Starkheim
スタルクハイム伯爵
新青年'23.7
17 Behind the Stars -
3 The Sleuth of St. James's Square 1920 - ロンドン警視庁C・I・Dのヘンリー・マーキス卿
1 The Thing on the Hearth -
2 The Reward -
3 The Lost Lady -
4 The Cambered Foot -
5 The Man in the Green Hat
グリーンの帽子の男
別冊中央公論'81.7
6 The Wrong Sign -
7 The Fortune Teller -
8 The Hole in the Mahogany Panel -
9 The End of the Road -
10 The Last Adventure -
11 American Horses
馬匹九百頭
新青年'24新春増刊
12 The Spread Rails -
13 The Pumpkin Coach -
14 The Yellow Flower -
15 A Satire of the Sea -
16 The House by the Loch -
4 Walker of the Secret Service 1924 - ジョゼフ・E・ウォーカー部長(アメリカ情報部)
1 The Outlaw
法の垣を越えた男
探偵文芸'25.7「大盗自伝」
2 The Holdup
ホールドアップ
探偵文芸'25.8「大盗自伝」
3 The Bloodhounds
探偵犬
探偵文芸'25.9「大盗自伝」
4 The Secret Agent
探偵犬(3と同題)
探偵文芸'25.10「大盗自伝」
5 The Big Haul
私立探偵
探偵文芸'25.11「大盗自伝」
6 The Passing of Mooney
ムウニイの最後
探偵文芸'25.12「大盗自伝」
7 The Diamond
金剛石
新趣味'23.1
8 The Expert Detective -
9 The "Mysterious Stranger" Defense
疑問の人物
新青年'40新春増刊
10 The Inspiration -
11 The Girl in the Picture -
12 The Menace -
13 The Symbol -
5 The Bradmoor Murder: Including the Remarkable Deductions of Sir Henry Marquis of Scotland Yard 1929 - ヘンリー・マーキス卿
1 The Bradmoor Murder -
2 The Blackmailer -
3 The Cuneiform Inscription -
4 The Hole in the Glass
顔のない追跡者
独立'25.8
5 The Phantom Woman -
6 The Stolen Treasure -
7 The Garden in Asia -
6 The Silent Witness 1930 - ブラックストン大佐、全14編
ポーストの没後出版
1 The Metal Box
缶の中の証人
HMM'03.6
2 The Dead Man's Shoes
死人の靴
サイレン社「白魔の一夜」('36)
アドア社「脅迫の恋文」('36)
新青年'30.10増大
3 The Invisible Client -
4 The Survivor
勝つ道なし
(残存者)
EQMM'59.2
探偵小説'32.8
5 The Guardian -
6 The Cross Examination -
7 The Heir at Law -
8 The Guilty Man -
9 The Mark on the Window -
10 The Vanished Man
失踪した男
アドア社「脅迫の恋文」('36)
新青年'30.10増大
11 The Mute Voices -
12 The Leading Case -
13 The White Patch -

【犯罪実話】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 The Man Hunters 1926 - 各国警察の捜査方法を記した犯罪実話集

【参考】「アブナー伯父の事件簿」(東京創元社 創元推理文庫)
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