日本における推理小説普及の最大の功労者

江戸川乱歩
(Rampo Edogawa)

「日本探偵小説全集２
江戸川乱歩集」
（東京創元社）

　ご存知日本を代表する推理小説家。また編集者・評論家として日本に多くの海外推理小説作家・作品を紹介し、わが国に推理小説を普及させることに尽力した最大の功労者でもあります。ちなみに”江戸川乱歩”はペンネームで、これはミステリーの始祖であるアメリカの文豪、エドガー・アラン・ポオに由来しています。

　三重県名張市（当時は名張町）に生まれますが、郡役所書記であった父の転勤のため２歳で名古屋に移住。小中学校の頃から菊池幽芳、黒岩涙香などの探偵小説の翻案ものに親しんだといいます。

　大学を卒業すると鳥羽の造船所に勤務したり、東京・本郷の団子坂で〈三人書房〉という古本屋を経営するなど様々な職業に就きますがどれも長続きせず、失業して大阪にいた父の家に居候していた1922年に短編「二銭銅貨」「一枚の切符」を雑誌〈新青年〉に投稿し、その出来の良さに編集長の森下雨村氏を驚かせます。

　そしてその後は短編を中心に作品を発表していき甲賀三郎、大下宇陀児らとともに日本の短編探偵小説の一時代を築きあげていきます。

「孤島の鬼」
（1929年）
（東京創元社）

　1925年頃までに彼のシリーズ探偵にもなった明智小五郎ものの「Ｄ坂の殺人事件」「心理試験」などで好評を得た乱歩は上京して、専業作家の道を歩みはじめます。

　そして1927年までに数多くの作品を発表しますが、長編「パノラマ島奇談」や「一寸法師」などの出来に満足できず自己嫌悪に陥り休筆、諸国へ放浪の旅に出ます。

　１年後の1928年、中編「陰獣」でカムバックした後は筆も冴え、「孤島の鬼」「蜘蛛男」「魔術師」「黄金仮面」をはじめとする傑作長編を次々と発表して好評を得ます。

　また1936年になると「怪人二十面相」などの、明智と怪人二十面相が対決するジュニアものの〈少年探偵団〉シリーズを発表。戦後も書き続けられ、当時国内の少年たちの間で大ブームを巻き起こしたそうです。

　1940年代に入り国内が第二次大戦下になると短編「芋虫」が軍部により発禁になるなど、しばらくは作家活動停止を余儀なくされますが、終戦後には活動を再開し1962年までに本格長編「化人幻戯」などの作品を発表しています。

「怪人二十面相」
（1936年）
（ポプラ社）

　またこの頃から作家活動以外に編集者・評論家としての活躍も目立ち始め、探偵作家クラブ（後日本推理作家協会）を設立に尽力したり、評論「幻影城」の発表、海外ミステリの定番である早川書房の〈ハヤカワ・ミステリ〉の叢書刊行、江戸川乱歩賞の設立など幅広い活動を続けました。

　初期の作品は短編中心、その後長編も発表されましが、乱歩独特の怪しげで変態的な趣味をもったキャラクターが多く登場する初期短編群が特に高く評価されているようです。

■作家ファイル■

本名

平井太郎
（ペンネームはミステリの始祖であるアメリカの文豪、エドガー・アラン・ポオが由来）

出身地

三重県名張市（当時は名張町）

学歴

早稲田大学経済学科卒

生没

1894年10月21日〜1965年7月28日（脳出血で、71歳）

作家としての経歴

1923

雑誌〈新青年〉に処女短編「二銭銅貨」を発表。その後短編を中心に作品を発表し続ける

1925

明智小五郎もの第１作短編「Ｄ坂の殺人事件」を発表

1926

「湖畔亭事件」「闇に蠢く」を連載開始、この頃から長編も発表し始める

1927

「一寸法師」の完成後、執筆を休止。放浪の旅に出る

1928

１年２ヶ月の休載後、中編「陰獣」を発表。その後、「孤島の鬼」「猟奇の果」「蜘蛛男」「魔術師」などの傑作長編を次々に発表

1935

日本探偵小説傑作集を編纂し、この頃から編集者・評論家としての顔もみせはじめる

1936

少年探偵団シリーズ第一作「怪人二十面相」を発表。このシリーズは1949年の「青銅の魔人」から1962年まで毎年発表される

1939

軍部から「芋虫」の全編削除を命じられる

1945

第二次大戦終戦

1946

戦後、空白だった海外推理小説の紹介を始める

1947

探偵作家倶楽部の結成、会長を２期務める

1950

戦後の第１作「断崖」を発表

1951

海外探偵小説の紹介および評論をまとめた「幻影城」を発表し、第５回探偵作家クラブ賞を受賞

1954

還暦を記念して100万円を基金として江戸川乱歩賞を設立。新人作家の登竜門となる

1957

経営不振の〈宝石〉の編集長に就任して再建に乗り出す

1963

日本探偵作家クラブを社団法人化し、日本推理作家協会を設立、初代理事長に就任

シリーズ探偵

明智小五郎

代表作

「人間椅子」（短編）
「屋根裏の散歩者」（明智もの短編）
「孤島の鬼」「陰獣」
「魔術師」「黄金仮面」「化人幻戯」（以上明智）
「怪人二十面相」（ジュヴナイル）

■著作リスト■

１　明智小五郎登場作品リスト

２　その他の作品

【長編】

【中編】

【短編】

【児童書】

【リレー長編】

【競作推理】

【自伝】

【エッセイ・評論その他】

【全集・選集】

【短編集　創元推理文庫版】

【短編集　角川書店版】

江戸川乱歩作品集（全20巻の新装版）

【短編集　その他】

【研究書】

【参考】「日本探偵小説全集２　江戸川乱歩集」（東京創元社　創元推理文庫）
　

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