質の高い本格&サスペンス作品を多数発表
イギリスの推理小説家。作風は幅広く、初期はバックス名義で警察小説風の作品を、代表期であるガーヴ名義では当初は謎解き要素も色濃く含んだサスペンス基調の作品を数多く発表し、「ギャラウエイ事件」を境にして後期に入ると本格要素は段々と抑えられていき、サスペンスにロマンス、冒険的な要素を多く盛り込んだ作品へと変貌を遂げました。
またソマーズ名義ではアクション要素の強い作品も発表しています。
ロンドン大学経済学部を卒業し、1922年から経済学の知識を活かして〈エコノミスト〉誌の編集委員を、1933年からは〈ロンドン・ニューズ・クロニクル〉紙に移って記者として、第二次世界大戦に入るとモスクワの特派員として、終戦後は編集者として活躍します。
そしてモスクワ滞在の経験を活かしてノンフィクション小説を本名で発表。他にもモスクワ時代の経験を活かし、数年後には「モスコー殺人事件」を書き上げています。ちなみにこの本は日本ではガーヴの最入手困難本として有名です。
1938年になるとミステリーの分野に進出し、最初はロジャー・バックス名義で「エルサレムの死」を皮切りに、ジェイムズ警部を主人公に据えた警察小説タッチの長編を5冊発表しました。
1950年になるとガーヴ名義でサスペンス小説を発表しはじめ、その最初の作品である「ヒルダよ眠れ」が高い評価を受け、一躍一流作家の仲間入りを果たします。
以後も主人公が予期せぬトラブルや事件に巻き込まれ、それを必死で乗り越えていく姿を克明に描いていく、いわゆる〈巻き込まれ型〉のサスペンス小説を年1作ぐらいのペースで発表し続け、1978年に70歳で引退するまでに40の長編を書き上げました。
またガーヴの作品は舞台設定も魅力的で、初期作品では自信の得意分野であった新聞界を舞台とした「新聞社殺人事件」や前述の「モスコー殺人事件」、以後も南国や孤島、地下洞や砂洲などを舞台として選び、それを結末に上手く解け合わせることで作品を質を高いものに仕上げています。
日本でも高い人気を集め、ポール・ソマーズ名義の長編もあわせて半分ほどの20作品が邦訳され、そのほとんどが早川書房から刊行されています。
また「遠い砂」などいくつかの作品が国内のドラマに改作されて放映もされました。
No. | 事件名 | 発表年 | 邦訳 | 備考 |
1 | Blueprint for Murder (米 The Trouble with Murder) |
1948 | - | ロジャー・バックス名義 |
2 | A Grave Case of Murder | 1951 | - |
No. | 事件名 | 発表年 | 邦訳 | 備考 |
1 | Beginner's Luck | 1958 | - | ポール・ソマーズ名義 |
2 | Operation Piracy | - | ||
3 | 震える山 (特ダネ記者カーチス) |
1959 | HPB634 中学一年コース'66.7第4付録 中学生傑作文庫4 |
No. | 事件名 | 発表年 | 邦訳 | 備考 |
1 | ヒルダよ眠れ | 1950 | 早川文庫64-4(新訳決定版) 早川文庫64-1 HPB310 早川書房 世界ミステリ全集8 |
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2 | 落ちた仮面 | HPB854 | ||
3 | 新聞社殺人事件 | 1951 | HPB477 | |
4 | モスコー殺人事件 | 時事通信社('56) | ||
5 | 地下洞 | 1952 | HPB663 | |
6 | カックー線事件 | 1953 | 早川文庫64-3 HPB192 |
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7 | 死と空と | HPB534 | ||
8 | サムスン島の謎 | 1954 | HPB552 | |
9 | 道の果て | 1955 | HPB348 | |
10 | メグストン計画 | 1956 | HPB403 | |
11 | The Narrow Search | 1957 | - | |
12 | ギャラウエイ事件 | 1958 | HPB475 | |
13 | レアンダの英雄 | 1959 | HPB633 | |
14 | 黄金の褒賞 | 1960 | HPB606 | |
15 | 遠い砂 | 1961 | 早川文庫64-2 HPB768 |
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16 | 兵士の館 | 1962 | HPB836 | |
17 | 囚人の友 | HPB849 | ||
18 | 暗い燈台 | 1963 | HPB914 | |
19 | 罠 | 1964 | HPB860 | |
20 | The Ashes of Loda | 1965 | - | |
21 | Murderer's Fen (米 Hide and Go Seek) |
1966 | - | |
22 | A Very Quiet Place | 1967 | - | |
23 | The Long Short Cut | 1968 | - | |
24 | 諜報作戦/D13峰登頂 | 1969 | 創元推理文庫515-1 | 著者名はアンドルー・ガーヴ |
25 | Boomerang | 1970 | - | |
26 | The Late Bill Smith | 1971 | - | |
27 | The Case of Robert Quarrie | 1972 | - | |
28 | The File on Lester (米 The Lester Affair) |
1974 | - | |
29 | Home to Roost | 1976 | - | |
30 | Counterstroke | 1978 | - |
No. | 事件名 | 発表年 | 邦訳 | 備考 |
1 | Death Beneath Jerusalem (エルサレムでの死) |
1938 | - | ミステリーの処女作 |
2 | Red Escapade | 1940 | - | |
3 | Disposing of Henry | 1947 | - | |
4 | Came the Dawn (米 Two If by Sea) |
1949 | - |
No. | 事件名 | 発表年 | 邦訳 | 備考 |
1 | The Broken Jigsaw | 1961 | - |
No. | 事件名 | 発表年 | 邦訳 | 備考 |
1 | ダウンシャーの恐怖 | 1957 | 創元推理文庫104-24「ミニ・ミステリ傑作選」('75) | |
2 | おそれなかった男 | 東京創元社「アメリカ探偵作家クラブ傑作選1」('61) | ||
3 | The Last Link 最後の環 (最後の連環) |
1962 | 荒地出版社「年刊推理小説ベスト16(1964年版)」 EQ'83.1 |
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4 | Who Would Steal a Mail Box 郵便ポスト盗難事件 |
1964 | HMM'73.4 | |
5 | 連絡の糸 | 1967 | 光文社文庫「世界ベスト・ミステリー50選/下」('94) HMM'76.9 |
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6 | A Case of Blackmail 待っている男 |
1968 | HMM'79.8 | |
7 | A Glass of Port ポートワインを一杯 |
1977 | 早川文庫「ポートワインを一杯」('80) HMM'77.4 |
No. | 事件名 | 発表年 | 邦訳 | 備考 |
1 | A Student In Russia | 1931 | - | |
2 | Russia - With Open Eyes | 1937 | - | |
3 | Minding Minds: The Truth About Our Mental Hospitals | 1938 | - | |
4 | Eye-Witness on the Soviet Warfront | 1943 | - |
【参考】「カックー線事件」(早川書房 ハヤカワミステリ文庫)
「諜報作戦/D13峰登頂」(東京創元社 創元推理文庫)