ジャック・ヒギンズ
(Jack Higgins)
〔別名　ハリー・パタースン(Harry Patterson)〕

　アリステア・マクリーンやデズモンド・バグリイなどと並び、現代のイギリスを代表する冒険小説家。
　 イングランド北部に生まれ、幼年を北アイルランドのベルファストへで過ごし、15歳になるとロンドンに移り住んで職を転々とし、第二次世界大戦にも参戦しています。

　イギリス近衛騎兵隊除隊の後はリーズ教員養成学校に学び、のちロンドン大学を卒業。その後歴史教師を務めながら1959年にハリー・パタースン名義で書いた冒険小説長編「Sad Wind from the Sea（海からの悲報）」で作家デビューを果たします。

　ほどなく1960年代に入ってパタースン名義の他、ヒュー・マーロウ、マーチン・ファロン、更にはジェイムズ・グレアムなど多数のペンネームを用い、ペイパーバックで主に第二次世界大戦などの戦争を題材とした冒険小説を20作以上発表して作家としての経験を積んだ後、1968年には初めてジャック・ヒギンズ名義で長編「廃墟の東」を発表。

　そして1970年に発表したヒギンズ名義の第３作目となる長編「地獄島の要塞」を刊行した辺りからようやく世間的にも注目を集めるようになります。

　そんなヒギンズの名声を決定づけたのは1975年にジャック・ヒギンズ名義で発表した長編「鷲は舞い降りた」で、意外性のあるストーリー展開と綿密な人物描写で大ヒットとなり、現在でも彼の代表作として現在でもミステリファンの間で幅広く認知されています。

　70年代には「死にゆく者への祈り」や「脱出航路」など、他にもいくつかの傑作を書き上げていますが、以降は作品の大半をジャック・ヒギンズ名義で発表し、別名義で既に刊行された作品も続々とヒギンズ名義で再版されています。

　この点「鷲は舞い降りた」をはじめヒギンズ作品においてはアイルランド紛争に絡んだ工作員やテロリストを主人公とした作品が多いのが一つの大きな特徴ですが、それでも読者の心を捉えて離さないのは、彼らは単にイギリス人にとっての敵として描かれるのではなく、運命に翻弄され時には自己嫌悪に陥りながらも愛国心を持って必死に運命に立ち向かう姿が丁寧に描かれているためと思われます。

　また1992年の長編「嵐の目」からは元ＩＲＡのテロリストでイギリス特別情報部員のショーン・ディロンを主人公としたシリーズも書き続けられています。