神の如き推理力の通称H・M

UK ヘンリー・メリヴェール卿(H・M卿)
(Sir Henry Merrivale)

白い僧院の殺人
「白い僧院の殺人」
(1934)
(東京創元社)

 ギデオン・フェル博士とともに本格黄金時代の巨匠ジョン・ディクスン・カーの作品の中で数多く登場する名探偵。通称H・M卿。全部で22の長編と2つの短編で活躍します。

 300年続いた準男爵の家柄に生まれ、ちょうど9代目にあたるのがこのH・M卿です。H・Mとはもちろんヘンリー・メリヴェールという名前のイニシャルをとってこう呼ばれているのですが、物語中ではこのようにさかんに「H・Mは」というように省略して呼ばれているのが印象的です。

 そしてこの表記の仕方は作品を読んでいてもすぐH・M卿が何かやっているなと分かるため、カタカナの名前が苦手な日本の読者にとってはとても読み易く理解し易いと思います。カタカナ表記が苦手な方にもオススメのシリーズといえるかもしれません。

 その風貌はフェル博士と同様に大柄な体格で体重は百キロという巨漢。その上大きな禿頭に小さな鋭い目、べっ甲の眼鏡がずり落ちる低い鼻、苦虫を噛みつぶした口、まん丸な仏陀のような顔…

ユダの窓
「ユダの窓」
(1938年)
(早川書房)

 そして口を開けば罵詈雑言、ものぐさでいつも火のついていない葉巻を口にくわえているという、とてもユーモラスで個性溢れる風貌の持ち主といえます。

 第一次大戦(1914-18)ではイギリス陸軍省諜報部部長として華々しい活躍をしましたが、戦後諜報部が情報部と変わったのちは閑職に追いやられてしまい、陸軍省五階の落書きだらけの自室で三文小説を読んだり、女秘書のロリポップをからかったりして退屈な時を過ごしています。

 しかしヤードのマスターズ主任警部が事件の依頼にやってくると、それまでのものぐさな態度は急変、神の如き推理力で鮮やかに難事件を解決に導いてくれるのです。

 この普段のものぐさな態度と事件が起きた後の神の如き推理力とのギャップが何とも印象的なキャラクターです。一度読み出したら間違いなく癖になるシリーズといえると思います。


■原作■

カーター・ディクスン(ジョン・ディクスン・カー)
 (Carter Dickson = John Dickson Carr 米 1906-77)


■人物ファイル■

生年月日
出身地
1871年2月6日
イングランドのサセックス州グレート・ユーボロ近郊クランリ・コートに生まれる
続柄
父八代目准男爵ヘンリー・セント・ジョン・メリヴェール(H・Mは九代目准男爵)
母牧師の娘アグネス・ホノーリア・ゲイル
モデル
チャーチル
特徴
身長177センチ、体重100キロ
大きな禿頭、小さな鋭い目、べっ甲の眼鏡がずり落ちる低い鼻、苦虫を噛みつぶした口、まん丸な仏陀のような顔、口を開けば罵詈雑言、ものぐさ
職業
第一次大戦(1914-18)にはイギリス陸軍省諜報部部長として活躍するも、戦後諜報部が情報部と変わったのちは閑職に追いやられ、陸軍省五階の落書きだらけの自室で三文小説三昧の日々
内科医、弁護士の資格をもつ
愛用品
べっ甲ぶちの眼鏡、形のつぶれたパナマ帽
趣味
三文小説
好きな物
葉巻
協力者
スコットランド・ヤードの主任警部ハンフリー・マスターズ
事件簿
22長編2短編に登場

■事件ファイル■

【長編】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 プレーグ・コートの殺人
(黒死荘の殺人)
(黒死荘殺人事件)
(黒死荘)
1934 早川文庫6-4
創元推理文庫118-33
HPB256
別冊宝石10('50)
東都書房 世界推理小説大系22('63)
東京創元社 カー作品集3('59)
2 白い僧院の殺人
(修道院殺人事件)
(修道院の殺人)
創元推理文庫119-3
HPB239
雄鶏社 雄鶏みすてりーず15('51)
東京創元社 カー作品集4('59)
3 赤後家の殺人
(赤後家怪事件)
1935 創元推理文庫119-1
東京創元社 世界推理小説全集44('58)
別冊宝石10('50)
4 一角獣の殺人
(一角獣殺人事件)
(一角獣の怪)
創元推理文庫118-29
国書刊行会 世界探偵小説全集4('95)
別冊宝石63('57)
東京創元社 カー作品集5('58)
5 パンチとジュディ 1936 早川文庫6-13
HPB485
6 孔雀の羽根 1937 創元推理文庫119-4
別冊宝石46('55)
「密室大集合」アンケート10位
7 ユダの窓 1938 早川文庫6-5
HPB126
EQアンケート54位
「密室大集合」アンケート5位
8 五つの箱の死 HPB320
9 読者よ欺かるるなかれ
(予言殺人事件)
(読者よ欺かるる勿れ)
1939 早川文庫6-12
HPB409
現代文芸社 モダンミステリ('56)
別冊宝石46('55)
現代文芸社版は別冊宝石の再録
10 かくして殺人へ
(かくて殺人へ)
1940 新樹社 新樹社ミステリ('99)
別冊宝石61('56)
11 九人と死で十人だ
(九人と死人で十人だ)
国書刊行会 世界探偵小説全集26('99)
別冊宝石70('57)
12 殺人者と恐喝者
(この眼で見たんだ
1941 原書房 ヴィンテージ・ミステリー・シリーズ('04)
別冊宝石63('57)
創元推理文庫134
13 仮面荘の怪事件
(メッキの神像)
1942 創元推理文庫119-5
HPB491
14 貴婦人として死す 1943 早川文庫6-3
HPB481
15 爬虫類館の殺人
(爬虫類館殺人事件)
(彼が蛇を殺すはずがない)
1944 創元推理文庫119-2
HPB418
東京創元社 カー作品集11('58)
「密室大集合」アンケート次点
16 青銅ランプの呪 1945 創元推理文庫119-6
東京創元社 カー作品集12('58)
17 青ひげの花嫁
(別れた妻たち)
1946 早川文庫6-9
HPB372
18 時計の中の骸骨 1948 早川文庫6-2
HPB316
19 墓場貸します 1949 早川文庫6-6
HPB206
20 魔女が笑う夜
(わらう後家)
1950 早川文庫6-8
HPB412
21 赤い鎧戸のかげで 1952 早川文庫6-9
HPB567
22 騎士の盃 1953 早川文庫6-10
HPB536

【短編集】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 The Third Bullet and Other Stories 1954 -
1 妖魔の森の家
(魔の森の家)
1947 創元推理文庫118-2「妖魔の森の家
光文社文庫「贈る物語 Mystery─九つの謎宮」('06)
光文社「贈る物語 Mystery」('02)
早川書房 世界ミステリ全集18「37の短篇」('73)
早川書房「復刻エラリイ・クイーンズ・ミステリ・マガジン No.1-3」('95)
EQMM'56.7
HMM'89.8
2 The Men Who Explained Miracles 1963 -
1 奇蹟を解く男 1956 創元推理文庫118-3「パリから来た紳士
EQMM'57.1

【オムニバス】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 Merrivale, March and Murder 1991 - ダグラス・G・グリーン編
上記2編を再録

【研究書】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 名探偵読本4 エラリイ・クイーンとそのライヴァルたち 1979 パシフィカ('79) 石川喬司+山口雅也編
日本で独自に編纂

access-rank


TOPへ