「わたしはこれから講義をする」

UK ギデオン・フェル博士
(Dr. Gideon Fell)

三つの棺
「三つの棺」
(1935年)
(早川書房)

 ヘンリー・メリヴェール卿(H・M卿)とともに黄金時代の巨匠ジョン・ディクスン・カーの作品で数多く登場するシリーズ探偵。

 哲学博士、法学博士、王立歴史学協会会員スコットランド・ヤード名誉顧問などの肩書きを持ち、著者のディクスン・カーが尊敬していたといわれるミステリ作家G・K・チェスタトンをモデルにしたという250ポンドもある体格と、サンタクロースを思わせるようなにこやかな桃色の大きな顔に大きな髭をはやしたその風貌は、いかにも頼りがいのある感じを読者に与えてくれます。

 また性格もとても温厚で気取らず、酒場でビールを飲み笑いながら話をするシーンはとても温かみがあって個人的に大好きなシーンの一つです。

 鮮烈なデビューを飾ることになる「魔女の隠れ家」を始めとする初期の頃はイギリスの片田舎の村のコテージ〈水松(いちい)荘〉に住んでいましたが、第5長編の「死時計」以後はロンドンに移ってスコットランド・ヤードの顧問としてハドレイ警視の持ち込む事件を安楽椅子探偵さながらに鮮やかに解いて見せます。

曲った蝶番(ちょうつがい)(新訳版)
「曲った蝶番」
(1938年)
(東京創元社)

 このフェル博士譚におけるもっとも有名なシーンというのが、第6長編「三つの棺」においてなされた〈密室講義〉です。

 古今の密室トリックについてその全てを語ったと言われるこの講義は、ミステリーファンを自称する方なら必ず聴いておかなければならないものといえるでしょう。

 全部で23の長編と5つ短編に登場し、またカー先生が中期に数多く執筆したラジオドラマのいくつかにも登場しています。


■原作■

ジョン・ディクスン・カー
 (John Dickson Carr 米 1906-77)


■人物ファイル■

出身
1884年、リンカーンシャー州ガースのステイヴニイ荘園で、ディグビイ卿とフェル夫人の間の次男として生まれる
住所
チャターハムの村に近いコテージ〈水松(いちい)荘〉
「死時計」以後はロンドンのアデルフィ・テラス一番地(蔵書を収めた大図書室があり、ここで安楽椅子探偵としても活躍)
学歴
イートン、ベイリオル両校を卒業し、ハーヴァード大学から文学士、オックスフォード大学から文学修士、再びハーヴァード大学から哲学博士、そしてエディンバラ大学から法学博士の称号を得た
王立歴史学会会員、レジョン・ドヌール勲章受勲
モデル
G・K・チェスタトンと思われる
フェル博士の名はマザーグースにも歌われたオックスフォードのクライスト・チャーチ学寮長の名から
職業
教師、辞書編纂家、ジャーナリスト、歴史家等々で活躍するが、50の声を聞く前に引退
以降は乞われると執筆・講演・犯罪捜査に乗り出す
のちにロンドン警視庁の非公式な顧問となる
特徴
体重250ポンド、サンタクロースみたいににこやかな桃色の大きな顔、山賊然とした口髭のすごく大きな逞しい人物
好きな物
バンド音楽、メロドラマ、ビール(お茶がわり)、ドタバタ喜劇、フランス料理
ヘビースモーカーでもある
愛用品
大きな黒いマント、黒いシャベル帽、幅広の黒いリボンをつけた眼鏡
著書
『十七世紀のロマンス』(1922)
『英国小説における超自然』(1929)
『イギリスにおける古代以降の飲酒の風習』(1946)(20年かけた大作)
協力者
スコットランド・ヤードのデイヴィッド・ハドレイ警視
エリオット警部
事件簿
23長編5短編といくつかのラジオドラマに登場

■事件ファイル■

【長編】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 魔女の隠れ家
(妖女の隠れ家)

1933 創元推理文庫118-16
早川文庫5-9
HPB264
あかね書房 少年少女世界推理文学全集6('64)
2 帽子収集狂事件
(帽子蒐集狂事件)
創元推理文庫118-30(新訳版)
創元推理文庫118-4
集英社文庫 乱歩が選ぶ黄金時代ミステリーBEST10 [7]('99)
新潮文庫('59)
東京創元社 世界推理小説全集23('56)
別冊宝石10('50)(抄訳)
乱歩ベスト10・7位
EQアンケート86位
3 剣の八 1934 早川文庫5-19
HPB431
4 盲目の理髪師 創元推理文庫118-28(新版)
創元推理文庫118-5
別冊宝石61・63('56-57)
5 死時計
(死の時計)
1935 創元推理文庫118-22
HPB182
6 三つの棺
(魔棺殺人事件)
早川文庫5-3
HPB137
日本公論社 英米探偵小説新傑作選集('36)
有名な「密室講義」
「密室大集合」アンケート1位
ハヤカワベスト100・19位
EQアンケート14位
7 アラビアンナイトの殺人 1936 創元推理文庫118-6
HPB367
東京創元社 世界推理小説全集45('60)
8 死者はよみがえる
(死人を起す)
(二つの腕輪)
1938 創元推理文庫118-8
HPB127
あかね書房 少年少女世界推理文学全集6('64)
9 曲った蝶番 創元推理文庫118-34(新訳版)
創元推理文庫118-7
HPB220
東京創元社 カー作品集6('59)
雄鶏社 雄鶏みすてりーず18('51)
「密室大集合」アンケート4位
10 緑のカプセルの謎
(緑のカプセル)
1939 創元推理文庫118-9
東京創元社 カー作品集8('58)
有名な「毒殺談義」
11 テニスコートの謎
(足跡のない殺人)
創元推理文庫118-19
12 震えない男
(幽霊屋敷)
1940 HPB525
創元推理文庫165('59)
 
超入手困難本
13 連続殺人事件 1941 創元推理文庫118-10
東京創元社 カー作品集9('59)
14 猫と鼠の殺人
(嘲るものの座)
創元推理文庫118-18
HPB229
15 死が二人をわかつまで
(毒殺魔)
1944 早川文庫5-18
国書刊行会 世界探偵小説全集11('96)
創元推理文庫217('60)
16 囁く影 1946 早川文庫5-8
HPB271
ハヤカワベスト100・73位
17 眠れるスフィンクス 1947 早川文庫5-16
HPB261
18 疑惑の影 1949 早川文庫5-10
HPB263
早川書房 世界傑作探偵小説シリーズ5('51)
パトリック・バトラー弁護士との共演
19 死者のノック 1958 早川文庫5-11
HPB463
20 雷鳴の中でも 1960 早川文庫5-4
HPB594
21 悪魔のひじの家 1965 新樹社 新樹社ミステリ('98)
22 仮面劇場の殺人 1966 創元推理文庫118-27
原書房 ヴィンテージ・ミステリー・シリーズ('97)
23 月明かりの闇
─フェル博士最後の事件
1967 早川文庫5-17
原書房 ヴィンテージ・ミステリー・シリーズ('00)

【短編】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 ある密室
(鍵のかかった部屋)
1938 創元推理文庫118-2「妖魔の森の家
早川文庫277-1「密室殺人傑作選
HPB1161「密室殺人傑作選」
EQMM'65.1
宝石'57.12
2 軽率だった夜盗
(ハント荘の客)
1940 創元推理文庫118-2「妖魔の森の家」
HPB722「EQMMアンソロジーⅠ
3 とりちがえた問題
(感ちがい)
1942 創元推理文庫118-3「パリから来た紳士
EQMM'57.2
4 ことわざ殺人事件 1943 創元推理文庫118-3「パリから来た紳士」
EQMM'58.3
5 見えぬ手の殺人 1957 創元推理文庫118-3「パリから来た紳士」
EQMM'59.3

【ラジオドラマ】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 だれがマシュー・コービンを殺したか? 1939 論創社 論創海外ミステリ60「幻を追う男」('06)
2 暗黒の一瞬 1940 創元推理文庫118-25「ヴァンパイアの塔
EQ'83.7(34)
EQ'94.7(戯曲)
3 絞首人は待ってくれない
(処刑人は待たない)
1943 創元推理文庫118-20「幽霊射手
HMM'79.11
4 死者の眠りは浅い
(客間へどうぞ)
創元推理文庫118-25「ヴァンパイアの塔」
宝石'59.6臨時増刊
5 あずまやの悪魔(オリジナル版) 1947 論創社 論創海外ミステリ60「幻を追う男」('06)

【短編集】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 Dr. Fell, Detective, and Other Stories 1947 - エラリー・クイーン編
1 ある密室
(鍵のかかった部屋)
1938 創元推理文庫118-2「妖魔の森の家
早川文庫277-1「密室殺人傑作選
HPB1161「密室殺人傑作選」
EQMM'65.1
宝石'57.12
2 とりちがえた問題
(感ちがい)
1942 創元推理文庫118-3「パリから来た紳士」
EQMM'57.2
3 軽率だった夜盗
(ハント荘の客)
1940 創元推理文庫118-2「妖魔の森の家」
HPB722「EQMMアンソロジー I
4 死者の眠りは浅い
(客間へどうぞ)
1943 創元推理文庫118-25「ヴァンパイアの塔」
宝石'59.6臨時増刊
2 The Third Bullet and Other Stories 1954 -
1 とりちがえた問題
(感ちがい)
1942 創元推理文庫118-3「パリから来た紳士」
EQMM'57.2
再収録
2 ことわざ殺人事件 1943 創元推理文庫118-3「パリから来た紳士
EQMM'58.3
3 The Men Who Explained Miracles 1963 -
1 軽率だった夜盗
(ハント荘の客)
1940 創元推理文庫118-2「妖魔の森の家」
HPB722「EQMMアンソロジー I
再収録
2 見えぬ手の殺人 1957 創元推理文庫118-3「パリから来た紳士」
EQMM'59.3
4 The Dead Sleep Lightly
(死者の眠りは浅い)
1983 創元推理文庫118-25「ヴァンパイアの塔」 ダグラス・G・グリーン編
1 暗黒の一瞬 1940 創元推理文庫118-25「ヴァンパイアの塔
EQ'83.7
EQ'94.7(戯曲)
2 死者の眠りは浅い
(客間へどうぞ)
1943 創元推理文庫118-25「ヴァンパイアの塔」
宝石'59.6臨時増刊
5 Fell and Four Play 1991 - ダグラス・G・グリーン編
1 とりちがえた問題
(感ちがい)
1942 創元推理文庫118-3「パリから来た紳士」
EQMM'57.2
再収録
2 ことわざ殺人事件 1943 創元推理文庫118-3「パリから来た紳士
EQMM'58.3
再収録
3 軽率だった夜盗
(ハント荘の客)
1940 創元推理文庫118-2「妖魔の森の家」
HPB722「EQMMアンソロジー I
再収録
4 見えぬ手の殺人 1957 創元推理文庫118-3「パリから来た紳士」
EQMM'59.3
再収録
5 暗黒の一瞬 1940 創元推理文庫118-25「ヴァンパイアの塔
EQ'83.7
EQ'94.7(戯曲)
再収録
6 死者の眠りは浅い
(客間へどうぞ)
1943 創元推理文庫118-25「ヴァンパイアの塔」
宝石'59.6臨時増刊
再収録
7 あずまやの悪魔(オリジナル版) 1947 論創社 論創海外ミステリ60「幻を追う男」('06)
8 だれがマシュー・コービンを殺したか? 1939

【研究書】

No. 事件名 発表年 邦訳 備考
1 名探偵読本4 エラリイ・クイーンとそのライヴァルたち 1979 パシフィカ('79) 石川喬司+山口雅也編
日本で独自に編纂

【参考】「ジョン・ディクスン・カー〈奇蹟を解く男〉」(国書刊行会)
「魔女の隠れ家」(東京創元社 創元推理文庫)
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